悩むマルコスと魔物使いの少女と異形の鎧たち

出発進行、エレナの離島!

 ――ウインドアイランドは、中央に位置する本島とでも呼ぶべき大きな島と、その周囲に点在する小さな島々で成り立っている。

 この離島たちにはそれぞれの文化を持つ部族たちが住んでおり、本島の住民たちとも良好な関係を築いていた。


 観光客が多く訪れるウインドアイランドにおいては、この離島の住人たちも自分たちの島に客を呼び寄せたりもしているようで、エレナの島もそんな観光業に力を入れている島の一つだ。

 彼女と約束をした翌日、予定の時間に待ち合わせ場所である海岸に行けば、そこには笑顔の彼女とポルルが旗を手にユーゴたちを待ってくれていた。


「おはよう! 来てくれて嬉しいよ~!」


「カニカ~ニ~! カニッ!!」


「どあああああっ!? だから、いちいち私に抱き着くなぁぁっ!!」


 上機嫌なポルルはお気に入りのマルコスと顔を合わせるや否や、即座に彼を抱き締る。

 熱烈な歓迎に慌てる彼のことを一同が笑いながら見守る中、ユーゴは近くに泊めてあった船を見て、エレナへと言った。


「エレナの島へはあの船で行くのか?」


「そうだよ~! パパッと行けるけど、トイレは今のうちに済ませておいてね~!」


「そんなにスピードが出るの? 見る限り、最新式の船とは言い難いみたいだけど……?」


 目的地まではそこまで時間がかからないというエレナの言葉に、首を傾げるセツナ。

 言っては悪いが、あの船がそんなにスピードが出るようには見えないと感想を述べる彼女へと、ちっちっと指を振りながら舌を鳴らしたエレナが言う。


「ふふふ~! だいじょぶ、だいじょぶ! まあ、見ててよ!!」


 得意気に笑った彼女は、一歩ユーゴたちから離れると共に深呼吸をする。

 そのまま、両手を合わせて三角形の形を作ったエレナが魔力を解放すれば、彼女の足元に青色の魔法陣が浮かび上がってきた。


「もしかして、あれって……召喚魔法!?」


「おう? なんだ、召喚魔法って?」


「契約を交わした魔物や精霊を呼び寄せる魔法だよ。結構珍しい魔法なんだ」


 弟の説明になるほどな、と頷くユーゴ。

 ポルルの存在もあって、契約を交わした魔物モンスターを召喚すると聞くとカードを使うことを思い浮かべてしまう彼は、RPGでおなじみのそんな魔法もしっかり存在しているんだなと改めて異世界の技術に感心する。


 そんな中、召喚魔法を発動したエレナは、魔法陣を弾けさせると共に大きく腕を振り上げ、海に向って叫んだ。


「お願い! 力を貸して!」


 弾けた魔法陣の光が海の中へと吸い込まれるように消え、その奥から何かを呼びよせる。

 なんだなんだと見守るユーゴたちの前で、海中から二頭の魔物が勢いよく海面へと飛び上がってきた。


「ヒヒヒ~ンッ!!」


「シーホースだ! すごい!!」


 胴体の前半分は馬、後ろ半分は魚を思わせる形状をしている魔物たちの登場に感動したフィーが叫ぶ。

 召喚されたシーホースたちにエレナが口笛で合図を出せば、彼らは船から伸びるロープに自ら繋がれ、そこで待機の姿勢を取った。


「なるほど、あのシーホースたちに船を引っ張ってもらうのね」


「そうだよ! あの子たちも私たちと一緒に島で暮らしてる家族なの!」


「へえ、いいなあ……! そういうふうに助け合って生活してるのか……!!」


 召喚魔法を見れたこともそうだが、魔物と人間が協力して生活している雰囲気を間近で感じられたことを喜ぶユーゴは、そこでお留守番しているスカルのことを思い浮かべた。

 残念ながら今回の旅に同行させられなかった彼は、今、ルミナス学園でどうしているだろうか?

 ジンバに世話は任せてはいるが、どうせならスカルとも一緒に遊びたかったなと、そのことを残念に思っていたユーゴは、今しがた目にしたばかりの召喚魔法を振り返りながら一人呟く。


「……召喚魔法、練習してみようかなぁ……?」


「おっ!? ユーゴ、召喚魔法に興味あるの!?」


「まあ、ちょっとな」


 召喚魔法を使えれば、スカルをいつでも呼び寄せられる。

 こういう旅行に疑似的に同行させられるし、逃げる敵を追う時にスカルを呼び寄せることができれば、憧れのヒーローたちのような格好いい追走劇チェイスを繰り広げられるかもしれない。


 色々な面で覚えておいたら便利かもしれないと思いつつ、さりとてどうやったら魔法を習得できるとかもよくわからないんだよな……とユーゴが考える中、ようやくポルルの抱擁から逃れたマルコスがため息を吐きながら口を開く。


「おい、こいつは船を引っ張らないのか? 蟹なんだから、泳ぎは得意だろう?」


「う~ん……得意は得意だけど、ポルルは人がたくさん乗った船を引っ張れるだけの力はないからね。船を引くのは、あの子たちの役目かな」


「だとしたらこいつは何の役に立つんだ? まさか、観光客向けのマスコットか?」


「カニィ?」


 ジト目で見つめてくるマルコスに対して、首がないために体全体を傾けながら不思議そうに声を漏らすポルル。

 そんな二人(一人と一匹)に向け、エレナはこう答える。


「役に立つとかそういうのは関係ないよ。私とポルルは家族だから一緒にいる、それだけ!」


「……そうか、そうだな。すまない、浅はかな意見だった」


「別に謝らなくていいよ~! それに……ふふっ! ポルルのすっごいところは島に行ったら見せられるからね~!」


「カニカ~ニ~ッ!」


 エレナとポルルの関係性を浅い価値観で否定しかねない自分の発言をマルコスが謝罪すれば、彼女たちはえっへんと胸を張りながらそう答えてみせた。

 おしゃべりはここまでにして、そろそろ出発しようとなったところでユーゴたち一行はシーホースが引く船に乗り込み、エレナの住まう島へと向かっていくのであった。

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