閑話・素直じゃない彼と引っ込み思案な彼女の話
「へっへっへ……! 彼シャツゲット!! いや~! 露出多めの水着にしてて良かったわ~!」
「ぐぬぬ……!! アンめ、調子に乗ってぇ……!!」
「策士策に溺れる、失敗したわ……」
「あれは拙者が着てた羽織だったのに! 拙者がユーゴ殿に頂いた物だったのに!」
「は~っはっは! 負け惜しみが心地いいね~! アタシの乳がデカいせいでユーゴに返す時に服が伸びてないといいけどな~! はははははははっ!!」
サハギンたちに荒らされた砂浜の掃除をする最中、女性陣が妙な雰囲気で騒いでいた。
鼻高々に勝ち誇るアンヘルと彼女を羨ましがる他の三人というやり取りを見せる彼女たちが何で争っているかといえば、ユーゴから渡された上着が原因だ。
少し前まではサラシ&ふんどしというとんでもな格好をしているサクラを守るために彼女に貸していたのだが、よくよく見ればアンヘルも結構露出が多かったりすることに気が付いた。
加えて、彼女が一番破壊力の高いボディをしているわけで……片付けの最中に屈んだり、動いたりすることを考えると、上着で隠しておいた方が安全だという結論に至ったらしい。
というわけでユーゴのラッシュガードはサクラからアンヘルへと譲渡されることとなり、彼女はそのことを自慢し、他の女性陣は羨ましがっている、というわけだ。
「う~っ! うっうっ! うぅぅぅぅぅっ!!」
「ごめんね、サクラちゃん。私が上着を貸すって言ったばっかりに……」
相当悔しかったのか、涙目になりながら地団太を踏むサクラ。
そんな彼女の腰に巻かれている上着の持ち主であるライハは、自分の不用意な発言によって親友が一度手にしたユーゴの上着を手放すきっかけを作ってしまったことを謝罪する。
上はサラシで結構防御力が高いんだから、丸出しのお尻さえ隠せればなんとかなるのでは……? という考えの下、良かれと思って自分の上着を腰巻きとしてサクラに貸すことにしたライハであったが、結果としてこんなことになっていることを申し訳なく思っていた。
「ライハが悪いわけではないでござるよ。でも悔しい! 涙が出ちゃう! 拙者だって女の子でござるから!!」
「ああ、うん……ごめんね……」
一度は上着を着てしまった分、それを手放すことになったのが相当に悔しいんだろうなと思いながら、テンションが変になっているサクラを気遣うライハ。
そんな彼女たちを余所に、悔しがることにも慣れたメルトとセツナがこっそりと周囲を窺うと小さな声で言う。
「見られてるね~……まあ、遠巻きではあるけどさ」
「そうね。そこまで不安はないとはいえ、いい気分ではないことは確かね」
サハギンたちの襲撃を受けた海水浴場には、客の姿はほとんどないが……ルミナス学園の一部の生徒たちはまだ残っている。
その中のこれまた一部の生徒たち……まあ、いつも通りの英雄候補御一行様たちからの視線を感じているメルトたちは、そのことに対してうんざりとしているようだ。
「気付かれないと思ってるのかな? 割とそういう視線ってわかりやすいのにね~」
「まあ、距離が距離だし、気付かれないと思ってるんじゃない? 見られてる側は結構わかりやすいけどね」
例えば砂浜に落ちているゴミを拾おうとする時、女の子たちがその場で屈んだりすれば……胸の谷間やお尻に食い入るような視線が突き刺さることを感じる。
方向的にあの男子が見てるんだろうな~、といったような感じで誰が自分たちを見ているかというのは、意外と女子たちからすれば丸わかりなのだ。
どうせ見るんだったら、一緒に海岸の片付けを手伝ってくれればいいのに……ということを考えながらも、そういった労力を支払わずに遠巻きに女の子の水着姿を見たいんだろうなと、英雄候補たちの考えを読んだ女子たちがため息を吐く。
そんな中、彼女たちは自分たちの中で最も視線を集めているライハを気遣って声をかける。
「ライハ、大丈夫? 滅茶苦茶見られてるけど……?」
「やっぱり借りた上着を返すでござるよ。ライハが見られるよりかは万倍いいでござる」
「だ、ダメだよ。そうしたら今度はサクラちゃんが見られることになるし、そっちの方がマズいって……!」
「だったら、一人だけでもホテルに帰った方がいいわよ。もしもあれがバレたら、それこそ大変なことになるわ」
「でも、この状況でライハを一人にしちゃう? あんな飢えた野獣みたいな連中があそこにわんさかいるっていうのに? そっちのがヤバくない?」
露出が多いわけではないワンピース型の水着を着ているライハだが、やはりその身長とは相反して大きな胸と尻をしている彼女に合ったサイズの物は見つからなかったようだ。
胸の谷間はもちろん、尻も少しはみ出していて……小柄だけど色々と大きいロリ巨乳体型の彼女は、英雄候補たちからの下種な視線を集めに集めている。
だが、彼女たちが最も気にしているのはそこではない。
ライハの胸元にある、大きな傷が彼らに見られないかどうかを一番心配していた。
今は魔法や化粧で上手く隠せてはいるが、何かの拍子にこの傷のことがバレてしまうかもしれない。
そうなったらかなりマズいことになる。こんな衆人環視の下でライハの正体に繋がる証拠を曝け出すことだけは、どうにかして避けなければと女性陣が考える中、そのライハに大きめの上着が放り投げられた。
「わっ……!? りゅ、リュウガさん? これは……?」
「見ればわかることを僕にいちいち質問するな」
リュウガが羽織っていた上着を投げつけられたライハが、彼の顔と手にしている服を交互に見つめながら言う。
ぶっきらぼうに彼女に返事をしたリュウガであったが、ライハがそのまま固まっている様を目にすると顔を顰めながら彼女へとこう述べた。
「いいからそれを着ていろ。お前の胸の傷が見られたら、面倒なことになる」
「は、はいっ……!」
リュウガの言葉に慌てて頭を下げたライハが、急いで渡された上着を羽織る。
彼女の水着姿を堪能していた見物客からは明らかな落胆と怒りの感情が発せられていたが、リュウガはそれをまるで気にしていないようだ。
「……やっぱり大きいですね、リュウガさんって」
「お前が小さいだけだ。別に、僕が特別大柄ってわけじゃない」
「そう……ですね」
袖も丈も余る、ぶかっとした着方で上着を羽織ったライハが呟けば、リュウガもそれに反応して言葉を返した。
そこで初めて視線を交わらせたリュウガへと、ライハはもごもごと口を動かした後で言う。
「その、ありがとうございます……助かりました」
「……別にお前のためじゃない。厄介事を未然に防ぐためだ」
「わかっています。でも……私がリュウガさんに感謝していることに、変わりはありませんから」
そう言って再び頭を下げたライハがリュウガから離れていく。
彼女と入れ違いで兄へと近付いたユイは、からかうような、呆れたような声でリュウガへと言った。
「お兄様もライハさんを見習って、素直に気持ちを言ったらどう? 本当は、
「………」
ぴくっ、と妹の言葉に僅かに反応するリュウガ。
ほんの一瞬だけ揺らぎを見せた彼は、小さく息を吸った後でユイへと視線を向けると、彼女へとおなじみの答えを述べた。
「……僕に、質問をするな」
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