翌日の予定、けって~い!


「……難儀な問題ではあるが、悲観することもないだろう。【ブルー・エヴァー】とやらは島民たちから支持されていないのなら、奴らの意見など無視していても問題あるまい」


「え……?」


「ああいう手合いは叩ける相手を探しているだけだ。お前たちの部族を叩くのに飽きたら、また別の都合のいい何かを探して攻撃する。無関係の私にこんなことを言われるのは癪かもしれないが……それまでの我慢だ」


 やや憮然としながらの難しいものの言い方ではあったが、今のマルコスの言葉を噛み砕いて理解したエレナは彼が自分を励ましてくれたことを理解した。

 悲しそうな表情を一変させ、笑顔を浮かべた彼女は、腕を組んでいるマルコスへと言う。


「あなた、いい人だね! ポルルが懐くわけだ!」


「カニカ~ニィ! カ~ニカニカニィ!」


「えぇい! またか、この蟹は!? いい加減に鬱陶しいぞ!!」


 主を励ましてくれたマルコスへの感謝を示すように、ポルルがカニ歩きで彼の周囲をぐるぐると回る。

 なんだかんだで面倒見がいいというか、素直にものを言えないだけで優しいマルコスのことを仲間たちが温かい目で見守る中、ユーゴがエリナへと声をかけた。


「自己紹介がまだだったな。俺はユーゴ、こっちは弟のフィーだ。それで――」


 と、いった感じに自己紹介をした後、エレナに友人たちを紹介していくユーゴ。

 最後に傍にいるマルコスへと話を振れば、ポルルに絡まれている彼はしかめっ面になった後でその促しに従って口を開く。


「マルコス・ボルグだ。とりあえず、お前の家族をどうにかしろ」


「マルコス、マルコスだね! わかった! ポルル、一旦ストップ!」


「カニカ~ニィ~!」


 エレナの指示に従ったポルルが再び彼女の下へと戻る。

 よしよしということを聞いてくれた彼を撫でながら、エレナは改めてマルコスたちへと声をかけた。


「マルコスたちはルミナス学園ってところの学生さんだよね? 旅行に来てるって話を聞いたよ!」


「そうだな。明日から始まる自由時間で、ウインドアイランドの各所を見て回るつもりだ」


「だったらさ、私たちの島に遊びに来てよ! 面白いものもいっぱいあるし、ポルルも歓迎したいってさ!」


「カニカニカニ!」


 ちょきん、ちょきんと音を響かせながら笑うように鳴くポルルが、エレナの言葉を肯定するかのように体を揺らす。

 その誘いを聞いたユーゴは興味深そうに頷きながら、腕を組んで呟いた。


「人と魔物が共生する島か……! 確かに面白そうだな……!!」


「僕もウインドアイランドに魔物の生態を知りたいし、行ってみたいかも……!」


「おいでよ、おいでよ! ウチにはポルル以外にもいっぱいの家族がいるし、みんな人に慣れてるから一緒に遊ぶこともできるよ! それに、お土産も色々あるしね!」


「そういえば、さっき魔物の体の一部を使った加工品を売ってるって言ってたね!」


「うん! アクセサリーとか食べ物とかもあるし、武器も作ったりしてるんだ!」


「武器、だと……?」


 ぴくっ、とエレナの言葉を聞いたマルコスが反応を見せる。

 彼が食い付いたと見たエレナは、そこで怒涛の猛アピールを開始した。


「そう! 私のパパは島一番の武器職人なんだ! だから、魔物の素材を使ってすっごい武器をいっぱい作ってるの! ここでなきゃ手に入らない武器だってあるんだよ!」


「へぇ~! 魔道具技師としては興味が湧く話だね! アタシも見てみたいな!」


「同じく、巫女服の改造に役立つ発見があるかもしれないし……私もエレナの島に行ってみたいわ」


「決まり、みたいだね。特に反対意見はなさそうだし、明日はエレナさんの島にお邪魔するってことで……マルコスもそれで構わないよね?」


「ああ。反対するつもりはない」


「やった~! じゃあ明日、迎えに行くから待っててね!!」


「カニカニカニカニ!!」


 ポルルと共に飛び跳ね、全身で喜びを表すエレナ。

 南の島で育ったエネルギッシュな彼女のリアクションを見たユーゴたちが笑みを浮かべる中、明日の予定を決定したリュウガは静かにマルコスを見つめていた。


「そろそろ【ブルー・エヴァー】の連中も立ち去ったみたいだ。アタシたちも退散するか?」


「その前に……海水浴場の掃除をしていこうぜ。サハギンに荒らされたところもあるし、できる限りのことはしていこう」


「さんせ~い! 海に来てやることが魔物退治だけっていうのは殺伐とし過ぎてるし、もう少しだけここに居ようよ!」


「サハギンたちの亡骸も弔ってやりたいでござるからな。拙者も、ユーゴ殿をお手伝いするでござる!」


「ありがとう! ウインドアイランドの住人として、私とポルルも頑張らないとね!」


 そんなこんなで明日の予定が決まったところで、騒いでいた【ブルー・エヴァー】のメンバーたちもいなくなったようだ。

 帰る前に戦闘で荒れてしまった海水浴場の片付けをしようと話すユーゴたちが砂浜に向かう中、話を聞いていたユイがクスクスと笑いながら傍らのフィーに話しかける。


「修学旅行って素敵ね。知らない人と出会って、新しい発見がある。みんなと一緒に来れて、本当に良かった!」


「そうだね。僕もそう思うよ」


「それに、いきなり学びもあったわ! ウインドアイランドに来なくっちゃわからなかったことよ!」


「え? なに?」


 エレナやポルルとの出会いも含め、修学旅行で様々な学びを得ようとしていたフィーは、既に何かを学んだというユイの言葉に目を丸くした。

 そんな彼の前でえっへんと胸を張った彼女は、今しがた得たばかりの知見を彼に話す。


「今まで知らなかったけど……蟹さんって、カニ! って鳴くのね! 面白い発見だわ!!」


 それは違うと思う……と思うフィーであったが、あまりにもユイが楽しそうにしているためツッコミを入れることができなかったそうな。

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