過激派自然保護団体・ブルー・エヴァー

「ここなら大丈夫。ポルルも出てきていいよ」


「カニ~ッ!」


「助かったよ、ありがとう」


「いいの、いいの! 困った時は助け合いだからね~! それに、さっき言った通り、私もあの人たちには見つかりたくなかったからさ~!」


 エレナに案内されて移動したユーゴたちは、海水浴場の端にある岩場にやってきていた。

 確かにここならば大きな岩が周囲からの視線を遮ってくれるなとユーゴが考える中、地面からひょっこり顔を出したポルルに付き纏われてうんざりとした表情を浮かべるマルコスが口を開く。


「エレナといったか? どうしてお前はあの連中に狙われている? サハギンの襲撃に関しても何か知っているのか? そもそも、あの団体はなんなんだ?」


「おいおい、そんないっぺんに質問するなよ。聞かれた方が困るだろ?」


「大丈夫だよ。全部繋がってる話だし……一つずつ説明していくね」


 先のポルルとのやり取りで少し不機嫌になっているマルコスを窘めるユーゴ。

 エレナの方はそんなマルコスの刺々しい雰囲気をまるで気にしていない様子で、彼の質問に答えていく。


「あの人たちは【ブルー・エヴァー】って団体で、ウインドアイランドの自然を守るために活動している人たちだよ。ただ、やり方が良くないからあんまりいい評判は聞かないし、ウインドアイランドのみんなからも危ない人たちだって思われてるね」


「過激な環境保全団体といったところか。そんな問題になるなら、どうしてもっと早くに警備隊が動いてないんだ?」


「元々は【青い海を守る会】っていう海岸のゴミ拾いとか、そういうボランティア活動をするだけの普通の団体だったんだよ。でも少し前に【エヴァーピース】っていう少人数だけど過激な活動をする団体と合体してさ。そこからおかしくなっちゃったみたいなんだよね……」


 二つの団体が合併した結果、所属していた人々が声の大きな人間の意見に毒されるようになってしまった。

 その結果が自然を守るという正義の下で無関係な人々に物を投げつけたり、自分自身の手で島を汚したりといった活動に繋がっているのかと、異世界でもああいう手合いのやることは変わらないなとユーゴが考える中、エレナが話を続ける。


「【ブルー・エヴァー】の人たちは、ウインドアイランド近辺に生息してる生き物の保護活動にも取り組んでるみたい。でも、それが少しやり過ぎなんだよね……」


「やり過ぎって、どういうこと?」


「あの人たちはウインドアイランドの人たちの漁業とか魔物の狩猟を邪魔してるんだ。そのおかげで確かに人の手で殺される命は減ったけど……色んなところで問題が起きてる。さっきのサハギンの事件も、これが原因なの」


 悲しそうに首を振りながらそう述べたエレナが俯く。

 その話を聞いたユーゴは、難しい表情を浮かべながら口を開いた。


「そうか……餌になる魚や魔物の数が増えたから、食物連鎖のトップにいるサハギンの数も増えた。おまけに駆除もされないから、その数は増える一方だ」


「サハギンたちは獰猛な魔物だから、数が増えたら仲間同士で縄張り争いが起きる。もしかして、さっき海水浴場を襲撃したのは――!」


「うん……縄張り争いに負けちゃった子たち。同じように住処を追い出された子たちはいっぱいいて、今までサハギンがいなかった場所に進出して新しい住処を作るから、今までそこに住んでた生き物たちも食い荒らされちゃうんだ。ウインドアイランドのみんなでサハギンを倒して、どうにかそれを阻止してるんだけど……」


「【ブルー・エヴァー】はそれも邪魔をする、ということでござるな?」


 こくり、とサクラの言葉に頷くエレナ。

 話を聞いた一同は、少しずつ彼女やこの島を取り巻く事情というものを理解し始めた。


「なるほど、合点がいったわ。危険な魔物であるサハギンが観光地にまで出没したのは、大体あの団体が原因ってことね」


「エレナが狙われてるのも、あの人たちの活動を邪魔してるから?」


「それもある。でも、それ以上にあの人たちは私たちのことを嫌ってるみたいなんだ……私たちは一緒に生活してる魔物たちの抜けた羽や脱皮した時に残る甲殻を貰って、それを加工して売ったりしてるんだけど、それが気に入らないみたい」


「魔物を家畜扱いするな~! ってやつか? それとも、生き物は全て自然の中で生きるべきだ! ってパターンかい?」


「……どっちも、かな? パパから聞いただけだからわからないけど、あの人たちは私たちに一緒に住んでる魔物たちを解放して、自然に返すべきだって言ってるみたい。でも、そんなの無理だよ……」


「カニィ……」


 寂しそうに呟くエレナの様子を見たポルルが、彼女へと寄り添う。

 そっと家族である蟹の魔物を撫でながら、エレナは静かにユーゴたちへと話を続けた。


「……ポルルは赤ちゃんの頃に仲間をサハギンたちに殺されて、たった一匹で私たちの島に流れ着いた。同じ境遇の子たちは何匹もいる。そんな子たちをいきなり解き放っても、生きていけるわけがないよ。それに、私も家族と離れ離れになるのは悲しいし、嫌だよ……」


「カニカニィ……」


 悲しそうに語るエレナの頭をポルルが巨大な鋏で撫でる。

 複雑であり、面倒でもある事情を抱えた彼女をユーゴたちが不憫に思う中、小さく息を吐いたマルコスが口を開いた。


―――――――――――――――

このお話で500話です!いつも応援ありがとうございます!

でもこの話が500話でよかったんだろうか……?

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