緑の射手

「射撃戦用のブラスタ……! いつの間にそんなものを……!?」


「で、でも、肝心の射撃武器を持ってないじゃないですか! いったい、どうするつもりで……?」


 ヤマトの戦巫女御三家から貰った龍の素材たち。それを使ったブラスタの新形態を目の当たりにしたセツナたちが驚きに息を飲みながらユーゴの背を見やる。

 しかし、射撃戦用と言っておきながらそのための武器を持っていないことに気付いたフィーがその疑問を口にすれば、アンヘルは意味深に笑いながら、「まあ見てな」という視線を彼に送ってみせた。


「ジンバさん、トーマスさん……二人から託された力、使わせてもらうぜ!」


「あれは……!?」


 フィーたちが見守る中、手をかざしたユーゴの前に黒と緑の武器が生成されていく。

 どこか見覚えのあるその武器の出現に目を丸くするフィーたちに向け、アンヘルが説明をし始めた。


「少し前、ジンバさんから貰ったボウガンがあっただろ? あれを解体、再構築して、ブラスタの微粒子金属と合体させた専用の武器に改造したんだ。元々が折り畳み式だったから、その辺の調整も楽で助かったよ」


 レーゲンの事件を経て、ユーゴの手に渡った折り畳み式のボウガン。

 ジンバとその相棒であるトーマスの想いが込められたその武器を、新たなる形に組み上げて完成した銃を手に取ったユーゴが、人々を襲うサハギンたちを視界に捉える。


 位置、数、射線を遮る人や物の存在……そういったものを瞬時に判断する機能を持つ兜の補助を受けて準備を整えたユーゴは、構えた銃の引き金を引き、風の魔力を込めた弾丸を撃ち出す。


「ギッ!? ギャッ!!」


「ギャンッッ!?」


「ギャギャギャアッ!?」


 前方斜め上に銃口を向けて繰り出された弾丸は、それぞれがロックオンした敵を追尾して飛んでいく。

 あるサハギンは真正面から風の弾丸を受けて吹き飛ばされ、あるサハギンは人を襲おうとしていたところで横っ面に弾丸を食らってその場に倒れこみ、またあるサハギンは予想外の軌道を見せる弾丸に驚愕している間に全身を撃ち抜かれ……といったように、海辺の混乱をものともせずに次々と魔物を射貫いていく緑の鎧の性能に一同が驚愕する中、セツナが口を開いた。


「風の魔力を用いた曲射ね。でもあの数を、あの連射速度で対応できるなんて……!!」


「兜を通じて視認した敵をロックオンし、障害物を回避して自動追尾する機能を取り付けておいた。鎧にはその補助機能も付いてる。武器だけじゃなく、ブラスタをフルに使って射撃をアシストさせているんだ」


「左右非対称の形状の理由はそれね。銃を持つ方の腕に機能を集約させた、と」


「そういうこった。まあ、大前提として龍の素材なんていう高級品をふんだんに使えたから作れたものではあるし、通常のブラスタと比べて防御力が落ちてることは間違いないんだけどな」


「でも、それをもって余りある性能ですよ!」


 御三家から貰った龍の素材とジンバから託されたボウガン、そこに試作品としてブラスタに搭載していたアローアームの試験データを参考にして作り上げた緑の鎧は、沢山の人たちの協力があって完成したものだ。

 広い範囲の敵を撃退し、人々を守ることができる射撃戦用のブラスタの力に感激するフィーであったが、今、彼が見ているものは緑の鎧の力のほんの一端でしかない。


「ギョギョギャッ! ギャオッ!!」


「おっと! 奴ら、俺が邪魔してるって気付いたみたいだな!」


「ユーゴ殿、拙者の後ろに! お守りするでござる!」


「大丈夫だ、サクラ! 確かに援護を頼むって言ったが、何から何まで世話になるつもりはねえよ!」


 ユーゴが自分たちを狙撃していることに気付いたサハギンたちが、一斉に彼を狙って集まってくる。

 射撃戦用のブラスタでは接近戦は不利だと判断したサクラが彼を庇うように立つが、ユーゴはそんな彼女を制すると共に持っている武器の後部に設置されているハンドルを回転させた。


 ガチャンッ! という音が響く中、自分へと迫るサハギンの一体に銃口を向けたユーゴは、叫びながら引き金を引く。


「ブラスターボウガン……マシンガンモード!」


「ギョエッ……!?」


 引き金を引いた瞬間に撃ち出される螺旋状の風の弾丸。それも一発ではなく、同時に三発の銃弾が繰り出される。

 その全てを直撃させられたサハギンが後方へ吹き飛ぶ中、ユーゴは自分へと迫る魔物たちへと次々に風の弾丸を見舞っていった。


「ふっ! はっ! はあっ!!」


「ギョオオッ!?」


「ギョギャアッ!!」


「ギギギギギイッ!?」


 先ほどよりも射程距離と正確性は落ちているのだろうが、それを犠牲に連射力を高めた銃を用いての接近戦を行うユーゴは、迫るサハギンを寄せ付けない戦いぶりを見せている。

 リュウガとサクラの援護もあるが、それでも十分過ぎるほどに自衛を行えているユーゴは、今また自分に襲い掛かろうとしていたサハギンに風の銃弾を雨あられとばかりに叩き込み、その息の根を止めてみせた。


「うっ、らあああっ!!」


「ギョギョッ!?」


 厄介な射撃を繰り出す敵を仕留めようとするも、近付くことすらままならないサハギンたち。

 そんな彼らの足元を狙撃したユーゴは、海辺の砂を風で巻き上げることで魔物たちの視界を奪い、動きを硬直させた。


 舞い上がる砂を前に動きを止めたサハギンたちの耳に、静かな水の音とサクラの声が響く。


「水龍舞踊・演目――『蒼玉光』」


「ギョ……ッ!?」


 横に並んだ四体のサハギンの体に刻まれる、蒼色の斬光。

 その名が示す通り、蒼玉サファイアを思わせる美しい光が最大級にまで膨れ上がった瞬間、サハギンたちの上半身と下半身が泣き別れになった。


 穢れを浄化する水の魔力を込めた薙刀での一撃を受け、天に召されるサハギンたち。

 その一撃を放ったサクラは、静かに薙刀を構え直すと、随分と数が減った魔物たちを睨みながら口を開く。


「獰猛な魔物でも、人前に姿さえ現さなければ手出しはしなかった。しかし、こうして人を襲ったからには見過ごすわけにはいかない。さあ、覚悟を決めよ」

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