海底からの襲撃者
「なんだ、今の声……!?」
痴漢に遭ったとか、そういうレベルの話ではない。何かもっと、命の危機に瀕しているような恐怖に満ちた悲鳴を耳にした一同がそれぞれの会話を止めて顔を上げる。
声のした方向へと視線を向けたフィーは、そこに広がっていた光景を目にしてあっ! と驚くと、指差しながら叫んだ。
「兄さん! 見て、魔物だっ!!」
フィーが叫んだ内容を、ユーゴたちもまた目にしていた。
海の方から砂浜へと、水生の魔物の集団が続々と上陸してきているその光景は、見る者にとんでもない威圧感を感じさせる。
ぬめぬめと光る鱗に覆われた青色の肌。指と指の間や背中にヒレを生やしたその体。
真っ黒に輝く瞳で周囲を見回し、そこにいる人間に向けて鋭い牙を剥き出しにして威嚇するその魔物たちの姿を遠目に確認したメルトが口元を抑えながらその名を呻く。
「サハギン!? どうしてこの海に!? 観光地なんだから、対策はしてあるはずでしょ!?」
「マズいぞ! サハギンは獰猛な魔物だ! そんな連中があの数で暴れたら……!!」
海から上陸してくるサハギンたちの数は、軽く数えても二十は超えている。
獰猛な魔物であり、同時に肉食でもあるサハギンたちが海水浴場に集まった人々を襲わないはずがない。
そんなアンヘルの想像は正しく、魔物たちは上陸するや否や、海水浴客を襲撃し始めた。
「う、うわ~っ!」
「誰か、助けて~っ!!」
「や、ヤバいって! 【スワード・リング】、荷物から取り出さなくっちゃ!!」
「ええい、クッソっ! アタシの【
水着姿かつ、魔道具を荷物の中にしまっていたメルトたちが大慌てでサハギンたちに対抗するための準備を整え始める。
ルミナス学園の生徒たちも、海水浴で浮かれ気分だったために即座に切り替えができず、焦っているようだ。
「セツナ、ライハ! 拙者たちで魔物を押し留めるでござるよ!」
「わかったわ! メルトたちはその間に戦闘準備を整えて!」
「ユイさんとフィーくんは避難を! リュウガさんも――あれ?」
そんな中、瞬時に巫女服へと変身できるおかげで仲間たちほどの手間を取ることもなかった戦巫女たちが即座に意識を切り替えると共に叫ぶ。
駆け出そうとする親友たちの姿を見ながら、自分もまた立ち上がると共にリュウガの方を見たライハは、そこに彼の姿がないことに気付き……同時に、ユーゴとマルコスの姿も忽然と消えていることに気付く。
ついさっきまでサクラたちと話していたはずなのに、彼らはどこに……? とライハが困惑する中、セツナたちの視線の先でサハギンが逃げ遅れた子供に狙いを定め、今まさに襲い掛かろうとしていた。
「危ないっ! 逃げてっ!!」
「うあああああっ!?」
この距離では巫女服に変身してからの攻撃も間に合わない。そう判断したセツナが必死に子供へと叫ぶ。
しかし、腰が抜けたその子供は逃げるどころか立ち上がることもままならず、悲鳴を上げて顔を庇うことしかできないようだ。
危ない……! その場面を見ていた誰もが最悪の事態を想像する中、子供に襲い掛かろうとするサハギンの体に、黒い影が差した。
「はあっ!!」
「グギャッ!?」
自分へと伸びる黒い影に気付いたサハギンが振り向けば、そこに飛び蹴りを繰り出すユーゴの姿があるではないか。
突然の事態に対処できずに硬直した魔物に強烈な一発を食らわせてやった彼は、そのまま腰を抜かしている子供に駆け寄るとその肩を叩く。
「大丈夫? 怪我はない?」
「あ、う、うん……!」
「良かった! マルコス、この子を頼む!!」
「心得た! さあ、急いで逃げるぞ!」
ギガシザースを展開したマルコスがユーゴから子供を託されると共に、彼を庇いながらその親と思わしき人物の下へと送り届けていく。
巨大な盾に守られているという安心感のおかげで落ち着いた子供とできる限りの速度で離脱していくマルコスを援護するように、彼らを襲おうとした別のサハギンを斬り捨てたリュウガがユーゴに声をかけた。
「ユーゴ、ブラスタは忘れてないよね?」
「あたぼーよ! どういう時でも戦えるようにしておくのがヒーローの心構えってやつだからなっ!!」
左の手首に輝く腕輪を見せつけつつ、迫るサハギンにパンチとキックを叩き込むユーゴ。
その頼もしさにリュウガが笑みを浮かべる中、離脱したマルコスと交代するように前線に到着したサクラが薙刀でサハギンをまとめて吹き飛ばしながら悔しそうに呻いた。
「くぅ~っ! この魔物どもめっ! 拙者とユーゴ殿の逢引を邪魔して……!! 絶対に許さんっ!!」
ユーゴとのデートまであと一歩だったと、割と惜しいところまでいったサクラがそれを台無しにしたサハギンへと恨みを籠めつつ薙刀を構える。
しかし、状況を確認した彼女は、忌々し気に舌打ちを鳴らすとユーゴたちへと言った。
「この状況、厄介でござるな……! 逃げ惑う人々が邪魔で、広く展開した魔物たちへの対応が難しいでござる!」
観光名所であるこのビーチには、ルミナス学園の生徒たちだけでなく多くの海水浴客が訪れている。
サハギンの上陸によって彼らは避難しているが、逃げ遅れた者やはぐれた同行者を探すために右往左往する者たちもおり、状況はかなりパニック気味になっていた。
サハギンと戦おうとすると、逃げ遅れた人々を巻き込みかねない……特に薙刀というリーチが長い武器を使うサクラは猶更だ。
サハギンがそれなりに広く展開していることもその状況を加速させていく中、ユーゴたちの背後からアンヘルの声が響いた。
「ユーゴっ! 聞こえてるかっ!!」
自分を呼ぶ声にユーゴが振り返れば、ビキニを着け直す時間も惜しいとばかりに膝立ちになり、胸を腕で抑えて隠しながらこちらへと叫ぶアンヘルの姿が目に映った。
振り向いた彼と視線が交わっていることを確認したアンヘルは、再び大声でユーゴへと叫ぶ。
「新機能の調整は完了してる! この状況なら、あれが役に立つはずだ!」
「ああ! 早速、使わせてもらうぜ!! リュウガ、サクラ、援護頼む!」
アンヘルの言葉に頷いたユーゴは、再びサハギンの群れへと向き直ると共に傍に立つ仲間たちへとそう叫んだ。
左腕の腕輪、そこに嵌っている宝石を紅ではなく緑色に輝かせながら、顔の前に伸ばした右腕と腰と腹の間に置いた左手をゆっくりと動かしたユーゴが戦いの覚悟を漲らせながら吠える。
「超変身!!」
吹き荒ぶ風が竜巻となり、ユーゴの周囲を囲うように唸りを上げる。
やがてその風の中で緑に輝く瞳が一際強い光を放ったかと思えば、次の瞬間には竜巻を両断するように縦の手刀が繰り出され、変身を終えたユーゴが姿を現した。
「あれは……!?」
「……お前さんたちの親父さんがくれた龍の素材。それを使って開発したブラスタの新形態さ」
竜巻を割り裂いて姿を現したユーゴを見たセツナが目を丸くする中、その形態を開発したアンヘルが得意気な笑みを浮かべながら彼女へと語る。
左右非対称の特異な形状をした、翡翠色に輝く鎧が陽光を浴びて凛々しく輝く様を目にしながら、開発者であるアンヘルは仲間たちへとその名を告げた。
「あの鎧の名は【緑の鎧】! 風龍の素材をメインに使った、射撃戦用のブラスタだ!」
―――――――――――――――
おまけというかスピンオフの方で水着女子とのIFルート的なお話を書きたいなと思っております。
一人だけ選ぶとしたら誰がいいか、教えていただけるとありがたいです。
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