天然がふんどしでやってくる
「お待たせして申し訳ない。少し着替えに手間取ってしまったでござる」
「着替えって、お前……!? そ、その恰好は……!?」
そう、無邪気に話しかけてきた声の主……サクラの出で立ちを見て、言葉を失うユーゴ。
そんな彼の反応に少しだけキョトンとした反応を見せた後、ああ! といった様子で頷いたサクラがこれまた笑顔で言う。
「ああ! ユーゴ殿は見慣れない格好でござったな! ヤマトの国では、水練の際にはこういった格好になるんでござるよ!」
そう言ってから、くるりと一回転するサクラの姿を間近で見てしまったユーゴが再び盛大に噴き出す。
それもそのはずで……今の彼女は、サラシにふんどしというあまりにもあれな格好であった。
「さ、さ、さ、サクラ!? あなた、それはマズいでしょ!?」
「む? 何がマズいでござるか? というより、何故セツナもリュウガ殿もその様な格好を……?」
親友の場違いのようで実はそうでもないがやっぱり場違いな格好を見たセツナが珍しく大慌てしながらサクラにツッコミを入れるが、彼女はいまいち自分の何が問題なのかわかっていないようだ。
目元を覆ったリュウガは恥というよりも呆れた様子でそんなサクラへと言う。
「……今時、ヤマトでもそんな恰好で泳ぎの練習なんてしないよ。君の家が特別なだけだ」
「なんと!? そうだったのでござるか……!! これはとんだ世間知らずを晒してしまったでござるな……!!」
「い、いや、世間知らずよりももっととんでもないものを晒してる気しかしねえんだが……!?」
なんとなく察していたことだが、アマミヤ家は良くも悪くも古風な家のようだ。
古き良きヤマトの教えを大事にするのはいいが、そこにサクラという単純で純粋な性格の人間がどっぷり浸かってしまうと、とんでもない天然世間知らず娘が誕生してしまうことがよくわかった。
いや、今はそんなことはどうだっていい。最優先で考えるべきは、今のサクラの格好のことだ。
上半身に関しては、まあ問題ない(?)としてもいいだろう。
キツくサラシで締められているおかげで上から見ると胸の谷間が強調されるような格好にはなっているが、それでも露出度という点に関しては女性陣の中でも抑え目な方だ。
問題は……下半身。その背面にある。
水練用に前垂れを排除したそのふんどしは、一言で言ってしまえばTバッグ同然……いや、それ以上の露出面積を誇っていた。
サラシと同じくキツめに締められた紐は大きく形のいいサクラの尻をこれでもかとばかりに強調しており、ほぼ丸出しのそれは巨大な白桃と見紛うほどだ。
さっき回転した際に一瞬見ただけだが……あれは刺激的が過ぎる。
しかもそういったことに無頓着なサクラが好き勝手に動くものだから、背後から見たら過激さはマシマシ! 色々とヤバメ! であることは間違いない。
これが、この尻が、惜しげもなくルミナス学園の生徒たちだけでなくこの海水浴場を訪れている客たち全員に晒されていることに恐怖する一同。
そんな仲間たちの胸中など知る由もないサクラは、問題となっている尻(背中)をユーゴに向けると、海を指差しながらはしゃいだ様子で言う。
「さあ、ユーゴ殿! 折角海に来たのですから、拙者と遠泳勝負をしましょうぞ! 水龍を奉るアマミヤ家の水練の技、とくとご覧いれましょう!!」
「ストーップ! サクラ、ストーップッ!!」
ユーゴに泳ぎの勝負を持ちかけながら、自分に気合を入れるように剥き出しの尻を叩いてみせるサクラ。
ぱぁん! という実にいい音を響かせながら震える大きなそれを間近で見たユーゴの脳内には、片腕がサイコな銃になっている奴の姿が浮かぶと共に、広大な宇宙が広がっていた。
プロポーション抜群かつ自分の魅力を引き立てる水着を選んできたメルトとセツナのことを頭から追い出したアンヘルすらもユーゴに忘れさせたサクラの衝撃に、再び恐怖を感じる一同。
これら全てを天然でやってるのだから、本当に恐ろしい子……! なのではあるが、本人に邪気がないから責めることも難しい。
色々と限界なメルトがようやくツッコミを入れつつ、彼女を制止する中、宇宙猫状態になっていたユーゴはこちらへと集まる視線に気付き、ハッと目を見開いた。
(こ、この視線は……!! 海水浴場に集まる、野郎共の視線だ……!!)
つい先ほどまで自分たちに向けられていた視線には気付かなかったこの男も、欲望の色がありありと浮き出ている無数の視線を仲間に向けられれば流石にそれに感付く。
周囲を見回せば、ルミナス学園の男子たちや海水浴場の男たちが、再びサクラがこちらに背中(尻)を向けてくれないかと期待しながら鼻を伸ばし、視線を向ける様が目に映った。
(ま、マズい……! この状況で万が一のことがあったりなんかしたら……!?)
世間知らずの天然娘と開放的な海辺というシチュエーション。いろいろ解放されているサラシ&ふんどしという格好とそれを見て邪な感情をサクラに抱く男たち。
考えれば考えるほどに、こういうのは良くないと思える条件が揃いまくっている。
ルミナス学園の生徒たちは別だが、今日、偶々この海水浴場を訪れただけの客たちはサクラがヤマトのVIPであることなど知るはずもない。
もしも、万が一、ちょっとチャラめな男たちが露出の激しい格好をした健康優良体型の美少女であるサクラを見て、ちょっと声をかけてみようなんて考えてナンパして、そこでふざけ半分に丸見えのお尻に文字通り手なんて出した暁には……国際問題待ったなしだ。
というより、ルミナス学園の男子たちの中にも信用できない連中がちらほらいる。具体的にいえば、英雄候補と呼ばれている連中がそれだ。
彼らが変なことをした瞬間、幾つかの首が飛ぶ気がしてならない。そしてその変なことをされる可能性がかなり高いというのが現状だったりする。
そんなことを考えていたユーゴの視界にサクラへと不躾な視線を向ける英雄候補たちの姿が映った瞬間、彼は反射的に動いていた。
我が全身全霊を懸けて、この場で起きるトラブルを回避する……! そう決意したユーゴは、早速そのための行動を開始する。
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