日焼け止め!アンヘル!ベストマッチ!!

「お~お~。気持ちはわかるけど、はしゃぎ過ぎだろ? ちったぁ落ち着きなって」


 全く別方向から聞こえたその声のした方向へと一同が顔を向ければ、リュウガが荷物番をしているパラソルのすぐ傍に、いつの間にかまた別のパラソルとシートを出していたアンヘルの姿が目に映った。

 自分の荷物をごそごそと漁る彼女へと、驚いたメルトが声をかける。


「あ、アン!? いつの間に……!?」


「ああ、これ? 海に行くって話だったから、簡単に設置できる休憩所を用意しておいたんだ。魔力を流しながらボタン一つで簡単にポン! 使えるだろ?」


「いや、そうじゃなくって……っ!?」


 聞いているのはパラソルとシートをいつの間に出したのかではなくて、どのタイミングでやって来たなのかなのだが……と言おうとしたメルトが、こちらを向いたアンヘルの姿を見て息を飲む。

 なんというか、そう……やっぱり彼女は、色々と規格外であることを思い知らされてしまった。


 自分もセツナもプロポーションが優れている方だと自負しているが、アンヘルはそれに輪をかけてすごい。

 セツナのような小細工を弄さずとも、その暴力的な発育が一目で見て取れてしまう。


 スポーティなオレンジ色のビキニを纏ったその姿は、可愛さとセクシーさの両方にポイントを割り振ったメルトとは真逆。

 完全に……自分の武器を最大限に活かす方向、つまりはセクシーさのみを突き詰めて極めていた。


「でっっっっか……!!」


「褒めてくれてありがとさん、メルト。まあ、お陰でかわいい水着が見つからなくって、困っちまったけどね」


 思わず口からこぼれた一言を拾いつつ、愚痴っぽく語るアンヘル。

 確かに彼女が選んだ水着は実に洒落っ気のないものではあったが、だからこそその暴力的なまでのプロポーションが活きる。


 何より、水着のデザイン自体はごく普通のもので、マイクロビキニのようなエロ系のものではないからそこをツッコむこともできない。

 シンプルに、単純に……着ているアンヘル自体がすごいだけなのだ。


 多分もうこの時点でユーゴの脳内からはメルトとセツナの水着姿を見て覚えた衝撃は消え去っている。

 ライバル二人の懸命の努力を文字通り一発で消し去ったアンヘルであったが、彼女はここからもさらに策を仕掛けていった。


「お前ら、海にきてはしゃぐのはいいけど、ちゃんと日焼け止めとか塗っとけよ? じゃないと、後でひどいことになるぞ?」


 そう言いながら、荷物から取り出した日焼け止めのローションを手に垂らし、自分の体に塗り始めるアンヘル。

 首、肩、腕ときて、胸にローションを塗り始めた彼女の姿に色々と思うところがあった男性陣は、即座に顔を背けてアンヘルのことを見ないようにした。


「ふぅ……さ~て、あとは背中だけど……」


 そうやって自分の手が届く範囲に日焼け止めを塗り終えたアンヘルが、くすりと笑いながら男性陣を見やる。

 咄嗟にその視線からユーゴを庇うように立ったメルトとセツナであったが、アンヘルは彼を指名せず、別の男子へと声をかけた。


「フィー、悪いがお姉さんの背中に日焼け止めを塗ってもらえるか?」


「えっっ!? な、なんで僕が……!?」


「美少年の繊細な指先で塗ってもらった方が効果がありそうだろ? それともなにか? フィーはアタシの体に触るのが恥ずかしいのかな?」


「おいっ! ちょっと待て! フィーに変な真似をするのは止めろ!!」


 日焼け止めを塗る相手にユーゴではなくフィーを指名したアンヘルの行動を理解できなかったメルトたちであったが、ユーゴが抗議の声を上げた瞬間に全てを理解した。

 フィーにセクハラめいたことをすれば、間違いなくユーゴはそれに待ったをかける。そうなることを予想して動いたアンヘルは、思い通りに彼が声を上げたことに笑みを浮かべながら口を開く。


「お? なんだ? だったらお前がアタシに手を貸してくれるのか、ユーゴ?」


「うっ……!?」


 しゅるり、と静かに音を鳴らしながらビキニの紐を外したアンヘルが、シートの上にうつ伏せになりながら試すような視線をユーゴに向ける。

 その光景と眼差しに気圧されたユーゴが声を詰まらせる中、メルトとセツナは必死に彼女の企みを妨害すべく動く。


「あ、アン! 日焼け止めだったら私たちが塗ってあげるよ!」


「そ、そうね。私たちもまだ塗ってないし……」


「ああ。だったらお前さんたちは二人で日焼け止めを塗ればいい。そうしている間にアタシはユーゴに世話してもらう……時間のロスにならなくていいだろ?」


「「ぐぬぅ……!!」」


 メルトたちの発言を見事に受け流し、自分の望む展開へと導くアンヘル。どうやら彼女はありとあらゆる状況をシミュレートしているようだ。

 『ユーゴを射んとする者はまずフィーを射よ』……ということわざをこれ以上なく端的に実行しているアンヘルの行動に、メルトたちが焦りを募らせる。


(誰よりも早く素肌にボディタッチ! しかもあのダイナマイトボディを間近で見ながらだなんて、色々ヤバいって!!)


(絶対に……この先の展開も考えてるわね。上手いことラッキースケベなハプニングを起こして、ユーゴを揺さぶりにかかるに決まってるわ……!!)


 圧倒的な武力と絡め手も使える知力を併せ持つアンヘルの作戦に恐怖すら感じているメルトとセツナは、このままではいきなりゲームセットを迎えてしまうであろう状況を打破しなければと考えを巡らせたが、アンヘルの用意周到さはその上をいっている。


(諦めな、メルト、セツナ……! あんたたちには悪いが、ここはアタシの独壇場さ!!)


 自分の最大の武器がなんであるかを理解しているアンヘルが、ライバルたちに心の中で勝利宣言を言い放つ。

 彼女の視線から勝利を確信していることを理解したメルトとセツナは、このままアンヘルの思うがままに事態が進んでしまうのかと悔しさに歯軋りしていたのだが……?


「――ゴ殿~っ! ユーゴ殿~っ!!」


 ――大概の場合、こういう神算鬼謀が満ちる状況をぶっ壊すのは、無策のまま、純粋に動く者だ。

 そして、彼女たちは忘れていた。自分たちの中に、とびっきりの天然バカがいるということを……。


 聞こえてきた声に思わず振り返ったユーゴたちが、声の主の姿を見て一気に噴き出す。

 そんな彼らの反応も意に介さないまま、満面の笑みで話をし始めた。


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てれびくんスーパーヒーローコミックスさんでコミカライズ8話が更新されてます!

久々の本編、楽しんでください!

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