海(ここ)で決めなきゃ女が廃る!

「うぉう、おお……!」


 髪の色と同じ、ピンク色の水着。

 ビキニタイプであり、腰にパレオを巻いたそれを纏ったメルトの言葉に、ユーゴが戸惑いながら顔を赤くする。


 活発で明るいメルトと海というシチュエーションはまさにベストマッチで、そこに彼女のスタイルの良さが合わさるとそれなりに健全な男子高校生であるユーゴには刺激が強過ぎる。

 フィーとユイがすぐ傍にいるこの状況で変な真似をするのは「ダメです!」というやつなのだが……それはそれとして、水着姿のメルトを前にすると色々と意識してしまうことは避けられない。


(キス、したんだよなぁ……なんかこう、ムズムズするっていうか……)


 もう随分と前のことだが、今でもはっきりと思い出せるメルトとのキス。

 そこからも緊急事態だったり偽物だったとはいえ裸を見てしまったり、その前にはパンツを見てしまったりもしたんだっけと考えたユーゴの顔が更に赤くなる。


 最近、特に好意を隠さなくなったというか、女の子として接してくるこの世界で初めての友達に対して、どう接するのかが正しいのかがわからなくなってきているユーゴが恥ずかしさと困惑で視線を泳がせる中、次なる挑戦者がエントリーしてきた。


「あら、早かったのね、メルト。もう合流してたの」


「お、おう、セツナか……!」


 メルトとは対照的に静かな雰囲気で声をかけてきたセツナに、僅かに笑みを浮かべながら応えるユーゴ。

 学校指定のスクール水着を着ている彼女の姿を見て、その露出の少なさに安堵した彼であったが……徐々に違和感があることに気付いた。


「ふ~……少し、窮屈ね。こっちの水着ってこんなに締め付けが強いの?」


「ん? え、ええっと……俺は女子の水着のことはよくわかんねえかな~って……」


 そう呟きながら食い込みを直すセツナから目を逸らしつつ、彼女の質問に答えるユーゴ。

 最初は気のせいかと思ったが……多分、間違いない。今、セツナが着ているスクール水着は、サイズが合っていない。


 全体的にパツパツしているというか、そのせいでセツナがムチムチしているように見えるというか……胸の谷間やら太腿やらがサイズの合っていない水着の締め付けのせいで強調されているように見えてしまう。


 露出度が低いからと安心していたが、その奥にあった危険に気付いてしまったユーゴがある意味ではメルト以上に過激なセツナの水着姿にどう対処すべきか悩む中、蠱惑的な笑みを浮かべた彼女が誘うような声で囁いてきた。


「多分、サイズが合ってないのよね。担当者が間違えたのかしら? それとも……」


「そ、それとも? なんだ?」


「ふふっ……! 私が育っちゃったのかも、しれないわね……!」


 そう言いながら、意味深な笑みを向けながら、胸の谷間を強調するセツナ。

 再び視線を宙に向けたユーゴが反応に困る中、笑みを浮かべたままのセツナが言う。


「急に日に当たったせいか、少し気分が優れないのよ。少し、日陰で休憩したいんだけど……付き合ってくれる?」


「うえっ……!?」


 詰め将棋の如く、ユーゴへと的確なアプローチを繰り出すセツナが静かに微笑む。

 一回り小さなサイズの水着を注文し、敢えてメルトを先に行かせることで露出低めだが過激というギャップを際立たせ、そのことに気付いて慌てるユーゴが冷静になる前に彼の行動を誘導する……という、優れたプロポーションと知能を活かした完璧な策を実行するセツナであったが、そこに邪魔が入った。


「あ~、そうなんだ! 大変だね、セツナ! じゃあ、リュウガと一緒に荷物を見ててよ! ゆっくり休んでていいからさ!」


「む……!!」


「そうだ! あっちの方に売店があったから、セツナのために冷たい飲み物でも買ってこようよ! ね、ユーゴ!」


「えっ? あ、そ、そうだな……」


 ニコニコと笑いながら、セツナの作戦を妨害するメルトがそれを利用してユーゴと二人きりになれるシチュエーションを作ろうとする。

 もはや、成すがままになっているユーゴが頷く様を見たセツナは、メルトと同じような笑みを浮かべながら彼女へと言った。


「いいのよ、メルト。そんなに気を遣わないで。少し休めば元気になるだろうし、私はここでユーゴと一緒にフィーくんたちを見守ってるから」


「セツナこそ気を遣わないで大丈夫だって! ほら、ユーゴ! 買い物に行こう! みんなの分の飲み物も買ってきちゃおうよ! はい、けって~い!!」


「いやいやいやいやいや……!」


「いやいやいやいやいや……!!」


「あ、あの、メルト? セツナ? その、大丈夫か……?」


 普段はとても仲良しだし、今も決して憎み合っているわけではない二人ではあるが、どうしたって相容れない瞬間というものはやってくるものだ。

 海、水着、修学旅行……このシチュエーションでユーゴと二人きりになれるという美味し過ぎる状況をむざむざ相手に渡すことなんて、できるはずがない。


 ここで退いたら女が廃る……! それを理解しているからこそ、メルトもセツナも必死になっているのだ。


(流石はセツナ……既に全て計算済みってわけだね。でも、そう簡単に予定通りには進ませない!!)


(くっ……! わかってはいたけど、そのプロポーションとビキニの合わせ技は反則よ、メルト!)


 双方、お互いが素敵な女の子だとわかっているからこそ、本気でぶつかり合っている。

 本当に……決して仲が悪いわけではないのだが、互いに威圧感を発しながら火花を散らし合うメルトとセツナの様子にユーゴをはじめとした面々が怯える中、そんな空気を全く気にしていないような呑気な声が響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る