水着回って多いのか少ないのかわからない
「やっほ~い! 海だ~っ!!」
宿泊先となるホテルに移動してからの集会を終え、修学旅行初日のプログラムは全体レクリエーションへと移っていく。
全体レクリエーションといってもホテルのすぐ近くにあるビーチで過ごすことが義務付けられているだけで、この時間に何をするかは自由だ。
中には明日から始まる自由行動にて、何処に行って何をするかを再確認するという奇特な生徒たちもいたが……基本的には遊びの一択である。
というわけで、大体一日の長い船旅の中、船内にて過ごしていた窮屈さを晴らすように快晴の空の下に飛び出したルミナス学園の生徒たちは、それぞれのグループに分かれて海での遊びを楽しんでいた。
「フィーも私に付き合わずに、ユーゴさんと一緒に遊んできていいのよ? 折角の海なんだし……」
「いいんだよ。僕、その……そもそも泳げないんだ。だから兄さんと一緒に遊ぶのは無理なんだよ」
「おっとぉ? フィー、なんだその言い方は? 別に泳がなくっても、一緒に遊ぶことくらいできるだろ?」
「えっ!? に、兄さん?」
「こっち来いよ! ユイちゃんと一緒に、でっかい砂の城でも作ろうぜ!!」
一足早くに合流したフィーとユイがパラソルの下で躱す会話を耳にしたユーゴが笑みを浮かべながら二人へと言う。
バケツとシャベルを手に快活な笑顔を見せる兄の姿にフィーもまた笑みをこぼす中、荷物番をしているリュウガが妹へと声をかけた。
「あまり遠くには行くなよ。人も多いし、はぐれたら探すのが大変だからな」
「わかってます! お兄様は心配性なんだから……!!」
兄からの注意に煩わしそうな反応を見せつつ、頷くユイ。
言いつけ通り、彼女がフィーとユーゴと共にすぐ近くの砂場で遊び始めたところで、マルコスが姿を現す。
「海はいい。船旅も悪くはなかったが、やはり狭い船内だと体が凝って仕方がないからな」
「とは言いつつ、元気がなさそうな顔をしているが、大丈夫かい?」
「船旅の疲れが抜けていないだけだ。日に当たっていれば、じきに良くなる」
そうリュウガに返しつつ、準備運動を始めるマルコス。
多少派手な黄金の海水パンツが目を引く彼だが……彼ら全体には、それ以上の他の海水浴客からの視線が集まっていた。
「なんか、格好いいわよね。あの人たち……!」
「ええ……! すごく、いい……!!」
ユーゴたちをちらちらと見ながら、ひそひそと話をする女子たちが顔を見合わせて小さく頷き合う。
そう……彼女たちから見れば、ユーゴたちはかなりハイレベルな男子の集まりにしか見えないのだ。
楽しそうにはしゃぎながら子供たちと遊ぶユーゴは、悪人面だが面倒見のいいお兄ちゃんとしての姿をこれでもかと晒している。
実際にその通りなのだが、彼の悪評しか知らない生徒たちからすれば、そのギャップが想像以上の衝撃を与えていた。
同じく、パラソルの下で妹たちを見守るリュウガは異国の知的かつ格好いい美青年にしか見えない。
傍らに携えた刀を手放さないその姿もまた異国の侍めいた雰囲気を醸し出しており、凛々しさと美しさを併せ持つその横顔を見れば、男だってドキッとしてしまう。
ゴールデンパンツなマルコスもまた、黙っていれば普通にいい男なのだ。
しかも、日々の鍛錬で磨いた見事な肉体美を惜しげもなく曝け出しており、全身の生傷もまた勲章のように見える。
三人が三人とも鍛え上げられた体をしており、細く強く研ぎ澄まされたその肉体は見ていて気持ちがいいものだ。
更には三者三様のイケメン……悪人オラオラ系と正統派美青年と(黙っていると)端正な顔つきの貴族という、綺麗に好みが分かれるイケメン三人組には、色んな感情が乗せられた視線が集中していた。
(クソッ……! なんか見てると頭にくるんだが……!?)
(流石は師匠。服を羽織った上からでもわかる鍛え上げられた肉体。私もあれを目指さなければ……!)
(ウホッ、いい漢……!!)
「……なんか見られてる気がするな? 気のせいか?」
嫉妬、羨望、その他諸々……様々な感情を込めた視線がユーゴたちへと集中する。
今まで彼らと接点がなかった女子たちだが、こうして見ると素材の良さというか、総合的な得点の高さがわかってきた。
折角の海だし、解放感に任せて声をかけて、これを機にお近付きになってみようかなと……修学旅行&海というシチュエーションから、大胆な行動に出ることを考える女子たち。
しかし……そんな真似を彼女たちが許すはずもない。
今日、この日に全てを懸けて準備をしてきた彼女たちからすれば、ぽっと出の誰かさんにその邪魔をされることなど絶対に許せないことだ。
無論、そんなことを直接声に出して言ったりはしない。全ては行動で語り、黙らせるだけである。
暑い常夏の島の海にて繰り広げられる、熱い勝負……その火蓋を切って落としたのは、やはり彼女であった。
「お~い! ユーゴ~っ!!」
「ん? んっ……!?」
自分を呼ぶ快活な声に顔を上げたユーゴは、その声のした方へと顔を向け……小さく唸った。
夏の海にぴったりな弾ける笑顔を浮かべ、こちらへと手を振りながら駆け寄ってくる、一人の少女。
一歩ごとにピンク色の髪と大きな胸を弾ませるメルトの姿に硬直するユーゴへと、駆け寄ってきた彼女が言う。
「えへへ……! どう? この水着、似合ってる?」
「お、おう。似合ってる、と、思うぞ……?」
「本当!? 良かった~! 一生懸命考えた甲斐があったよ~!」
嬉しそうにはにかんだメルトが、その笑みに少しだけ邪悪さを混じらせながら一歩距離を詰める。
戸惑うユーゴに対して顔を近付けた彼女は、からかいと本気を同居させた笑顔のまま、彼へとこう言った。
「ユーゴのために選んだ水着なんだから、いっぱい見ていいからね。今日だけの特別サービスだぞ!」
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