side:黒幕(舞台が始まる、その前に)

「ここで全てを終わらせる、っていうのは気が早過ぎるんじゃないかな?」


「んっん~……! そうでしょうかねぇ? 私は、今がベストだと思いますが」


 暗闇の中に、一つの円卓がある。

 ずらっとそれを囲んで座る者たちがいる中、ちょうど向かい合って座す二人の人間が意見をぶつけ合っていた。


 今の彼らが示しているように、二人の意見は真っ向から対立している。

 勝負を仕掛けようとしているアビスと、それをやんわりと制止するロストは、静かながらもはっきりとした拒絶の意志をお互いに見せ合っていた。


「今日までにゲームオーバーに至った主人公()は四名も出現しています。これは我々の想定を遥かに上回るスピードです。ここまで連続して脱落者が出たことから考えても、オーディエンスもそろそろ飽きがきている頃でしょう」


「だから終わらせるってことかい? 物語が盛り上がってくる、このタイミングで?」


「このタイミングだからこそですよ。今の彼らでは、この先の戦いに対応できない。既にゲームセットが見えている以上、ストーリーが盛り上がりなどなんの意味もないですからね。それならば……物語が佳境に入るこの段階で、最高のクライマックスを作り上げてしまった方がいい。そう思いませんか?」


 どこか芝居がかった口調で、ピエロのような弾んだ口調で語るアビス。

 ロストは、そんな彼に対して普段と変わらない様子で答えを返す。


「私はそう思わないよ。主人公として転生した連中に関しては君と同意見だが、その枠組みを外れた者だっている」


「んっん~……!! あなたがご執心のイレギュラーのことですね? なるほど、なるほど。まあ、あなたの言いたいことはわかりますよ」


 愉快気に笑ったアビスが、目を細めてロストを見やる。

 その視線を受けながら、真っ向から彼を見つめ返すロストは、黙ってアビスの話を聞いていった。


「確かに彼は素晴らしいイレギュラーです。主人公()たちが想定よりも早く、そして無様に脱落していった理由も彼にあるでしょう。ここまでの舞台の盛り上げに、彼は実に貢献してくれました。しかし――」


 一度言葉を区切ったアビスが楽し気に鼻を鳴らす。

 イレギュラーと称される彼を、その彼の活躍に注目するロストを嘲笑うような態度を見せたアビスは、こう話を続けた。


「オーディエンスはそんなものを求めてはいないんですよ。友情・努力・勝利を体現したような青春ドラマなんて見たくはない。悪を打ち砕くヒーローの活躍なんて、求めちゃいないんです。彼らが求めているのは、調子の乗って粋がった連中が無様に滅び、絶望的なバッドエンドを迎える様なんですよ。他人の不幸は蜜の味……そういうでしょう?」


「……それはどうかな? その意見は、単なる君の妄想でしかない可能性だってある」


「その言葉をそのままそっくりお返ししますよ、ロスト。あのイレギュラーの活躍を見たいと願っているのはあなただけだ」


「え~? ドロップちゃん的には結構期待してるんだけどな~? 彼が活躍する度に主人公(笑)がぐぎぎ~! ってなるの、面白いじゃん?」


 そうやって茶化すように話し合いに介入しつつ、ロストの側に立ったドロップを一瞥したアビスは、その意見を無視することにした。

 無言で懐からチケットのような物を取り出した彼は、それを円卓に起きながらこの場に集まった面々へと言う。


「何にせよ、私は計画を立て、動き始めている。今回のゲームはここで終わりです。わかっているとは思いますが……舞台の邪魔をしようだなんて、絶対に考えないでくださいね、ロスト」


「はぁ……わかってるよ。お互い、必要以上に協力したり、潰し合ったりはしない。それが私たちのルールだ。」


「結構。まあ、あなたが残念に思う気持ちはわかりますが、仕方がないことです。お詫びも兼ねて最高の席を用意しますから、せめてそこで私が思い描いた破滅の物語とエンディングを楽しんでください」


 そう言って笑った後、アビスの姿が消える。

 円卓に並んでいた人々の気配が次々消えていく中、ロストと共に最後まで残っていたドロップは、彼へとこう問いかけた。


「どうすんの? アビス、本気で終わらせるつもりだよ? この間もゲームオーバーになった主人公(屑)を連れてきてなんかしてたし、アイテムにも改造してたしさ」


「準備万端、ってところだね。研鑽を怠けに怠けた主人公たちじゃあ、太刀打ちできないだろう」


「……もしかしてだけど、諦めモード? 打つ手なしだから、ヒーローくんの死に水くらいは取ってあげよう的な?」


「違う、違う。むしろ逆さ。私は彼に期待しているんだよ。この苦しい試練を乗り越えて、本物のヒーローになってくれる……ってね」


 ドロップにそう答えながら、椅子の背もたれに体を預けるロスト。

 天井を見上げる彼は、フードから覗く口元を歪めて笑みを浮かべると、独り言のように呟く。


「アビスの言っていることは正しい。オーディエンスが求めているのは、主人公たちが無様に苦しみながら滅ぶ姿だ。もう彼らが味のしなくなったガムみたいに無価値な存在になった以上、全てを滅ぼしてしまうという考えは間違ってはいない。だが――」


「そうやって暗躍するアビスをヒーローくんが撃破したら、オーディエンスも興味が湧く。黒幕VSヒーローくんっていう、新しい構図を作ることができる……そういうことでしょ?」


 パチン、と指を鳴らしてドロップの意見を肯定したロストが浮かべている笑みを更に強めた。

 椅子から立ち上がった彼は、小さく口笛を吹きながら再び独り言を呟く。


「マイヒーロー、今回の敵は一味違うよ。なにせ、これまで物語の裏で暗躍していた黒幕が、表に出てくるんだからね。でも、君ならそれを乗り越えられる。アビスを踏み台にして、君が真のヒーローになってくれるって、私は信じているよ……!!」


 その言葉を最後に、ロストとドロップの気配も消えた。

 誰一人いなくなった暗闇の中には、何の音も光も響かない。


 主人公、黒幕、そして何も知らない者……それぞれの思惑が絡み合う修学旅行が、始まろうとしている。

 多くの運命を巻き込み、絡ませ合い、うねり合わせて作り上げられた、南の島での物語。


 滅びと再生のどちらに天秤が傾くかわからない、壮大な舞台の幕が今、幕を開けようとしていた。


―――――――――――――――


ここまで物語を読んでいただき、本当にありがとうございます。

短編はここで終了し、次から第四章・修学旅行編が始まる予定です。


いつもと違う舞台で繰り広げられる物語ということで、四章は劇場版をイメージして書いています。

わかりやすくオマージュしつつ、その中にオリジナリティやクスッと笑ってもらえるネタ、熱いドラマを加えて書けるよう、頑張っていくつもりです!


ただ、そのために少しだけ準備期間を頂くかもしれません。

1週間……くらいお休みさせてもらうかもしれない。申し訳ない。だが私は謝らない。


コミカライズも皆さんの応援のお陰で黒字にはなってるみたいです!(本当に安心)いつも応援ありがとうございます!!

でも重版したいので良ければ買ってほしい!2巻が出た時も買ってほしい!!


という醜いおねだりを書いたところで、一旦締めさせていただきます。

年度末といういい時期にいい感じに締められたので、いい感じに春休みをもらって、続きも頑張って書いていきますね!


あと、番外編みたいな感じでメルトのお話を別小説で書いてあるので、そちらも読んでください!次のキャラを誰にするかも考え中なので、ご意見いただけると嬉しいです!


では、また春休み明けにお会いしましょう!

烏丸英

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