side:主人公(ラストチャンスに全てを懸ける男たちの話)

 そう言った一人の転生者の意見に、他のメンバーたちも大きく頷いて肯定の意を示す。


 ルミナス学園の修学旅行……それは、レベルやスキル、資金や仲間たちの信頼度を稼ぐのにうってつけの舞台。

 ここでしか手に入らないアイテムや装備、更には修学旅行中限定のイベントなどもあり、ここをどう有効活用するかでその後のゲームプレイが大きく変わると言っても過言ではないほどに重要なイベントだ。


 しかもありがたいことに、ここで出現する敵キャラはあまり強くなく、弱点もパッと見で理解できる親切設計になっている。

 レベリングが上手くいっていない自分たちにとって、ここは一発逆転の最後のチャンスだ。

 ここまで何度か似たような状況もあったが、その全てで満足いくような結果が出せなかった転生者にとって、ここだけは絶対に成功させなければならないタイミングでもある。


「ここを逃したらもうチャンスはない。絶対に、徹底的にレベル上げをしねえと……!」


「武器も金も信頼度も、全部稼ぎまくるんだ! 絶対に、絶対に……!!」


 ……気合が入るのも当然だろう。正真正銘、これがラストチャンスなのだから。

 修学旅行が終われば、『ルミナス・ヒストリー』のシナリオも大きく動き始める。経験値稼ぎだとか言っている暇はなくなるのだ。


 故に、ここでしっかりと準備を整えなければならない。

 ここでその準備を整えられなければ……全て終わりだ。


「だけど、どうする? またシナリオにないイベントが起きたりしたら……!」


「その可能性は十分にある。だが、これまでの想定外のイベントを振り返れば、修学旅行の根幹を揺るがすような出来事は起きないんじゃないかって、俺は思うんだ」


「確かに……! 戦巫女のイベントも基本は流れ通りに進んでたもんな」


「俺たちのレベル上げが足りなかったり、エゴスが馬鹿やったりしたせいで変なイベントが起きた感はある。そう考えると、修学旅行は基本的にシナリオ通りで、所々に異変が起きてる……って感じか?」


「その所々で起きる変なイベントで強い敵が出てきたらどうするんだよ!? 今の俺たちじゃ勝てない敵キャラが出現する可能性だって十分にあるぞ!!」


「いや、大丈夫だ……そいつらの相手は、ユーゴに任せればいい」


 不安がる一人の転生者に対して、別の転生者がそう述べる。

 一同が驚く中、彼は淡々と自分の意見を話していった。


「恐らくだがあいつは、になったんだ。ゼノンの馬鹿がやらかしたせいで、シナリオが狂った。そのせいで難易度が上がったゲームの手助けをするために、女神が用意したんだろう。性格が変わったのも、きっとそのせいだ」


「そ、そんなこと、あり得るのか……?」


「いや、待て……! 考えてみれば、戦巫女たちが学園に残ってるのも、ユーゴがリュウガの好感度を上げておいたお陰だ。ヤバい敵を倒してくれてる部分もあるし、あいつは俺たちの手助けをしてくれてるってことになるんじゃないか……?」


「正確には主人公兼お助けキャラってところか? 前にも話したが、ゼノンと立場が入れ替わって主人公としてもカウントされるようになったんだろう」


「そういうことだ。だから、修学旅行で厄介な事態が起きたら、全部ユーゴに任せればいい。俺たちはその間にやれることをやって経験値や金を稼ぐ……女神のサポートをありがたく受け取ってな」


 色々と都合のいい考えではあるが、割と筋が通ってしまっているその想像を下地に修学旅行間の行動を決める転生者たち。 

 会議を主導していた男子は、仲間たちへと追加でこんな意見を述べる。


「もう一つ、修学旅行中についてだが……無理に協力するのは止めよう。情報の共有も成果の分割も、無理にする必要はない」


「そうだな。今は自分の強化を優先すべきだ。他の奴らに経験値や金を譲るような余裕はないんだし、なあなあでいくのは無理だな」


「協力したい時は協力する。そうじゃない時は蹴落とす……それがベストだろ」


「確かに、同盟を結んでも意味のない奴らが二人いることだしな!」


「ぐっ……!!」


「っっ……!」


 パーティメンバーに見放され、修学旅行を前に一人で動くことになってしまったウォズとトリンが侮蔑の言葉に呻く。

 協力関係を結ぶにしても、彼らはどのみち邪魔になるだけ……だったら最初から排除して考えてしまっても構わないという部分は、二人を除く転生者たち全員が共通して考えていることのようだ。


 その上で、各個人が自分たちのことを優先して行動を決める。

 協力するも蹴落とすも、そいつの考え次第で動こう、という意見に乗った転生者たちは、ラストチャンスをものにすべく気合を入れていく。


「修学旅行が最後のチャンスなんだ。ここをしくじるわけにはいかない。絶対に、上手くやってやるんだ……!!」


 静かに呻いたその言葉に、他の転生者たちも無言で同意する。

 そんな中、彼らの輪に入れないでいるウォズとトリンは、ぎりりと歯を食いしばりながら逆襲を心に誓っていた。


(俺だってまだ終わったわけじゃない! 絶対に、ここから復活してやる!!)


(ゼロからの再スタート……勝ちの望みはある! ラストチャンスを逃せないのは、僕も同じだ!!)


 様々な想いを胸に、彼らもまた修学旅行へと臨もうとしている。

 争い、他者より上を目指そうとする者たちがこうして集っている以上、波乱が巻き起こるのも当然の話だろう。


 そしてそれは、物語の裏で動く者たちもまた同じであった。

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