side:主人公(崖っぷちな男たちの話)

「来るぞ、修学旅行が……! お前たち、今回は本当にわかってるだろうな!?」


 深夜……いつもの空き教室に集まった転生者たちは、久々に真剣そのものといった様子で会議を行っていた。


 最初の頃は文字通りゲーム気分でへらへらとしながら集まっていた彼らだが、今はその様子を一変させている。

 変わっているのは表情だけでなく、集まる人数もそうで……そのことに関して、彼らが話をし始めた。


「ここに集まるメンバーも随分と減ったな。まだゲーム開始から数か月だってのによ」


「ゼノンはクレアと一緒にどっか行っちまったし、イザークは死んだ。エゴスととシアンはやらかして退学からの行方不明だ。こんなハイペースで消えるとは思ってなかったぜ」


「そいつらがいなくなったことはどうだっていいんだよ! むしろ、ライバルが減って良かったじゃねえか! 問題は、あいつらのやらかしに俺らも巻き込まれてることだっつーの!!」


 この短期間で既に四名の脱落者が出現していることを話し合う一同であったが、問題は転生者が減ったことではない。

 協力し合う関係ではなく、蹴落とし合う間柄である彼らにとっては、それは喜ぶべきことであった。


 では、何が問題なのかといえば、消えた四人がありとあらゆる部分でやらかしてくれたことだ。

 そのせいで学園に残っている自分たちが迷惑を被っているのだと……苛立ちを露わにしながら彼らが話し合う。


「戦いに一般人を巻き込んだり、魔剣の力で学園を荒らした上に魔鎧獣になったり、同じ学園の生徒を殺したりレイプしようとしたり、犯罪者の手助けみたいな真似をしたり……あいつら、どんだけ馬鹿なことやってくれてんだよ!?」


「そのせいでで同じ英雄候補の俺たちまでヤバい奴らだと思われちまってるじゃねえか!!」


 ここまで名前を挙げた転生者たちのとんでもないやらかしは、同じ英雄候補と呼ばれる他の転生者たちの名声にも大きな傷を付けていた。

 ゼノンが失敗した頃は彼が実質英雄レースとでもいうべき勝負からいち早く脱落したことを喜びつつ、その失敗を嘲笑うことができていた転生者であったが……今はもう、そんな余裕もなくなっている。


 謎の黒い蟹が起こした事件の中で活躍を見せ、英雄候補と呼ばれ、生徒たちから尊敬されるようになったところまでは良かった。

 しかし、その後のイザークとの争いで彼に敗れたり、想像以上に協力になった魔鎧獣に敵わなくなったり、挙句の果てにゼノンたちが害悪行為を働いたせいで、その頃の信頼の貯金がゼロになりつつある。


 ゲームの知識を活かして細々と活躍をしても、それをひっくり返すとんでもないやらかしのせいでまた疑念の目で見られるようになってしまう。

 特に最近のシアンのやらかしは最悪で、警備隊の作戦を台無しにして被害を拡大した上、仲間を退学にするようなクズと同類という目で転生者たちも見られるようになっていた。


「シアンも問題だが、それ以前からヤバいんだよ! 消えた連中のせいで、俺たちのゲームライフは滅茶苦茶だ!!」


「クレアとメルトのメインヒロイン両翼が消えたのはゼノンのせいだっていうのに、あの野郎、クレアを連れて楽しく旅になんて出掛けやがって……!!」


「イザークの野郎が魔剣なんかに手を出したのがケチの付け始めだ! 陰キャぼっちが暴れたせいで、アンもネイドも仲間にできなくなった!!」


「変な計画でフィーを殺そうとした上にライハを襲ったエゴスがいなければ、戦巫女たちだって俺たちのパーティに入ってくれたかもしれないのに……あいつのせいで!」


「そこでシアンのやらかしが入って、もう滅茶苦茶だ! ウォズ! トリン! お前らも同罪だからな!?」


「うっ……!」


「ぐうっ……!!」


 人気ヒロインたちを仲間にできなくなったのも、自分たちの信頼が低下するきっかけを作ったのも、今現在、自分たちが苦しむ原因になったのも……全ては学園から消えた転生者たちのせいだ。

 好き勝手に暴れた上にとんでもない被害を残してくれたゼノンたちへの怒りを燃え上がらせる転生者は、シアンと似たようなやらかしをしたウォズとトリンにその鬱憤をぶつけるように叫ぶ。

 負い目がある上にシアンが退学になったことでますます気まずい思いをしている二人は、その叱責に何も言えずに小さくなるばかりだ。


 そうやって彼らに怒りをぶつけていた転生者たちであったが、こんなことをしていても事態は好転しないと考え直し、話し合いを再開する。


「そもそもだ。ゲームシナリオが狂いまくってるせいで、俺たちの知識がほとんど通用しない。異世界転生したっていうのに知識チートできないとか、何の意味もねえだろ!?」


「高めに設定してもらったステータスも完全に意味がなくなってるしな……敵が強過ぎるんだ。どう考えても、この時期に出現する強さじゃねえよ」


「見たことも聞いたこともない敵キャラと次々エンカウントする。どうなってんだよ、これ……?」


 ゲームの難易度が、信じられないくらいに高くなっている。もっと正しくいえば、自分たちがプレイしていた【ルミナス・ヒストリー】のシナリオから所々かけ離れた展開が起きてしまっている。

 そのせいで敵キャラに対応できなかったり、自分たちの知識が及ばない展開が起きて判断に迷ってしまったり、色々な弊害が起きていると……この状況に苦しんでいる転生者たちであったが、もうなってしまったものはしょうがないとばかりに割り切ると共に話を切り替える。


「ここはもう、修学旅行に向けて切り替えるしかない! ここが一発逆転できる最後のチャンスなんだからな!」

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