何も知らないユーゴさん(15歳)

「いや~! 働いた、働いた! これで修学旅行のお小遣いはばっちりだな!!」


 もう少しで日が完全に沈む頃、ルミナス学園に帰る道すがら、ユーゴはじゃらんじゃらんと音を響かせる硬貨がたんまり入った袋を振りながら上機嫌に笑っていた。


 旅行そのものの費用は父親が出してくれたが、お土産やら出先での食事やら他にもなんやらのためにお小遣いは多めに用意しておいた方がいい。

 というわけでここ最近は依頼を受け続け、時に魔鎧獣と戦ったりもしてきたユーゴは、無事に修学旅行を直前に控えたこのタイミングで目標金額に到達することができたようだ。


「初等部との合同旅行だからフィーも一緒だし、兄貴として色々奢ってやらないとな~! 親父にも感謝のためにお土産を買うべきだろ~? 何を贈ったら喜ぶか、フィーに聞いておくか~!」


 とまあ、そんなふうに修学旅行への期待に胸を膨らませながらスキップしていたユーゴは、向かいから見知った顔ぶれが歩いてくる様を見て動きを止めた。

 向こうもこちらに気付いたようで、足早に駆け寄ってくる彼女たちへと手を振って応える。


「よお! メルトたち、揃って買い物か?」


「うん、そんなとこ! ユーゴは依頼の帰り?」


「おう! お互い、修学旅行の準備はばっちりみたいだな!」


 偶然にも出会ったメルトたちと、そんな会話を繰り広げるユーゴ。

 彼女たちが持っている大量の荷物を見れば、修学旅行に備えて色々と買い物をしてきたんだろうなということが一目でわかる。


「んで、何を買ってきたんだ? 女子ってそんなに必要な物があるのか?」


 結構長期間の旅行になるとはいえ、そんなに必要な物があるのかと気になったユーゴが、メルトたちが持っている荷物を見ながら問いかける。

 そうすれば、女子たちは少し不機嫌な表情を浮かべながら、こう答えてきた。


「むぅ~……! 私たちが今日、誰のせいでこんなに悩んだと思ってるんだか……!!」


「えっ?」


「乙女には色々と思うところがあるのよ。あなたが想像できないくらいね」


「えっ? えっ?」


「やれやれ。恋する女子の気持ちをもう少しわかってもらいたいもんだねぇ……!」


「えっ、ええっ!?」


「メルト殿たちは今日、修学旅行用の水着を買ってたでござるよ! どれがユーゴ殿の気を引けるかと一生懸命に頭を悩ませてたでござるから、拙者の水着も含めて、期待して待つでござる!!」


「エッッ!!」


「……サクラちゃん、それ、言っちゃいけないやつだと思うよ?」


「そうだって! 折角、海でお披露目してユーゴをびっくりさせる計画が台無しじゃん!!」


 なんだかよくわからないが詰られていることだけはよくわかる女子たちからの言葉に困惑するユーゴ。(最後の悲鳴だけ意味が違った)

 うっかりネタバレしてしまったサクラをメルトたちが叱責する中、その輪の中から一人外れたユイが声をかけてくる。


「修学旅行が待ち遠しいですね、ユーゴさん! ライハさんも気合を入れて水着を選んでいたから期待しておいてくれと、お兄様にお伝えください!!」


「ゆ、ユイさんっ!? 何を仰ってるんですか!? ち、違います! 別に気合なんて入れてませんし、リュウガさんにお伝えするひちゅようなんてなっ! 痛いっ! 舌噛んだっ!!」


「おおお、落ち着け、ライハ! ちょっと雷出てる! 目も出ちゃってるから!!」


「ちなみに私も気合を入れて水着を選びました! これでフィーも悩殺です!」


「そういうの良くない! まだ子供なんだから、プリンセスみたいに清く正しく美しくを心掛けて!」


 ユイの一言に慌てたライハが龍としての一面を本人も気付かない内に露出させてしまっていることにユーゴも慌ててツッコミを入れる。

 舌を噛んで涙目になっているライハと、とても楽しそうにニコニコと笑っているユイを交互に見つめた後、天を見上げた彼は、強引にこの場をまとめるべくこう述べた。


「お、女の子の気持ちとか準備とかはよくわかんねえけど……修学旅行、楽しみだな!!」


 若干引き攣っている笑みを浮かべ、言い争ったり慌てたりドヤ顔を浮かべている女子たちへとそう言うユーゴ。

 このまま放置していると混乱が続くだろう……と考えた彼の苦肉の策であったが、そんな彼の言葉を耳にした女子たちは揃ってため息を吐く。


「出たよ、にぶちんブラザーズ長男……」


「悪い奴じゃないってのはわかってるんだけどねぇ……」


「なんでそんな反応されるんだ!? えっ、何? 俺、何か対応ミスった!?」


 昼間、女子たちが彼(とその友人二名)のことをにぶちんブラザーズと評した時に思い浮かべた妄想とそっくりなことを言ってのけたユーゴの言葉に、女子たちは少しばかり残念そうな反応を見せている。

 彼女たちのその態度に困惑するユーゴは、励ましやら慰めやらの言葉をかけられながらトボトボと学園へと向かうのであった。

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