この課題、君はどう克服する?
「……確かにお前の言う通りだ。自らの実力を過大評価することはもちろんだが、過小評価も良くないということがよくわかった」
「わかってくれたならそれでいい。さて、次の段階に進もう。見えてきた課題、君はどう克服する?」
正しく自分の実力を把握し、そこから見えてきた課題の乗り越え方を考えるマルコスを見守るリュウガは、とても楽しそうだ。
そんな彼の前で、マルコスは提示された問題についての克服方法を思案していく。
(ユーゴと同等の実力を持つ相手との戦いは、守るだけでは勝てん。それ以外の選択肢を持たなくては)
そこまでは誰だって思い付く内容だ。大事なのは、ここから先の話だろう。
新たに得るべき選択肢はどんなものにすべきなのか? わかりやすく言ってしまえば、どんな戦法を身につけるかということだ。
単純に遠距離攻撃用の魔法を習得し、接近されたらギガシザースを使って敵の攻撃を凌いで距離を取り、再び魔法で攻撃……という手段がまず最初に思い付く。
これならば遠近両方の戦闘に対応できる上に敵が放った牽制の攻撃をギガシザースで防ぐことで大技を繰り出す準備を進めることができる。
戦う相手に何らかのデバフを付与するような手段を持つのも面白いかもしれない。
所謂、初見殺しのような形になってしまいはするが……自分の防御技術とタフネスを活かすならば、これも十分に選択肢に入る。
時間が経てば経つほど相手が不利になるし、それを知っている精神的余裕が立ち回りにもいい方向に作用してくれるだろう。仮にこの戦法が露見したとしても、逆に相手の焦りを誘えるのだから利点もある。
「……色々思い付いてるみたいだね。自分の殻の破り方を」
「お陰様でな。リュウガ、お前の意見を聞きたい。私はどんな戦い方を身につけるべきだ?」
「……ふふっ」
緩やかに、リュウガが笑う。
無垢に、そして貪欲に、強くなろうとする友人から助言を求められたことを喜び、微笑んだ彼であったが……一つ息を吐くとその笑みを引っ込め、真剣な表情を浮かべてからこう答える。
「マルコス……僕に、質問するな」
「……!!」
ここまで試すように、成長を促すように、質問に答えてきたリュウガが、唐突にいつも通りの彼に戻った。
お決まりの台詞を口にして、自分を突き放すような態度を取った彼の変化に驚くマルコスであったが、すぐにその真意に気付く。
「……ここからは私が一人で答えを見つけなくてはならない、ということか」
「その通りだ。時に助言を求めることも正解になるだろうが……この一歩を踏み出すのは君自身の意志でなくちゃならない」
ここまでマルコスはボルグ家に伝わる魔道具の扱い方を学び、それを守りながら強く成り続けてきた。
その『守』の段階から進むにあたって、また誰かの言葉を指針にしては意味がない。それでは、真の意味で『破』の領域に進んだとはならないだろう。
自分なりに考え、最適な形を見つけ、それを実現するために試行錯誤する。
リュウガの道案内はここまで。この先は、マルコス自身の手で自分が進む強さの道を作り出していかなければならないのだ。
「さっきも言った通り、『破』の段階は指針がほとんどない状態で試行錯誤を繰り返さなくちゃならない。ここが一番長く、つらい段階だろう。挫けるなよ、マルコス」
「はっ……! 誰にものを言っている? 私はマルコス・ボルグ! 誇り高きボルグ家の嫡男だ! そう簡単に挫けるものか!」
激励の言葉にいつも通りの反応を見せたマルコスが、大きな声で笑う。
その様子に頷いたリュウガが、フィーを連れて訓練場を立ち去ろうとした時……その背にマルコスが声をかけた。
「リュウガ! ……お前のお陰で、私は一つ山を越えられそうだ。助言と本気でぶつかってくれたことに感謝する! ……ありがとう」
「……友として、当然のことをしたまでだ。それに……僕は君に、もっと感謝してるよ」
振り向かないまま、そう答えたリュウガが手を振って歩き去る。
その後を追ったフィーが彼の横に並べば、視線を向けた少年へとリュウガが申し訳なさそうに呟いた。
「……ごめんね、フィー。食事に行くはずだったのに、こんな時間まで付き合わせちゃってさ」
「いえ、いいんです。僕も、マルコスさんのことは応援してますから……!」
出会いこそは最悪だったが、心の底から認めた相手に近付こうと足掻くマルコスのことはフィーも応援している。
同じ相手を尊敬していることや、自分にはないものを求めて努力を続け、決して諦めないでいる彼の姿を見ていると、自分も頑張ろうと思えるのだ。
今日も徹底的に叩きのめされていたが、それでも諦めずに戦い続けていたし……と考えたところで顔を上げたフィーは、横を歩くリュウガへと言う。
「リュウガさんも手を抜きませんでしたね。あれだけ圧倒していたのに、最後まで本気でぶつかってました。マルコスさんもそのことに感謝してましたよ」
「……そこに関しては感謝される筋合いなんてないさ。彼を導くために手を抜かなかったわけじゃない。本気でやらなきゃ勝てない相手だったからそうしたまでだよ」
「……!!」
さらりとそう言ってのけたリュウガへと、驚きの表情を向けるフィー。
勝敗こそリュウガの圧勝だったが……もしかしたら、彼の「自分とマルコスの間には左程実力差などない」という言葉は嘘ではないのかもしれない。
その言葉を直接言ってあげたら、マルコスも喜ぶんだろうなと思いながら……そこまでしたら今度は調子に乗ってしまうかもなと考え直して笑みを浮かべたフィーは、少し先を歩くリュウガを駆け足で追いかけ始めるのであった。
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