弱さを知ることが第一歩!
「あ、あのっ! ちょっといいでしょうか!?」
「うん……? なんだ、フィー? 今、私は真剣な考え事をしているところだ。話をしたいなら手短に頼む」
「は、はいっ! その、リュウガさんの質問に関して、僕が思ったことなんですけど……」
思い切って手を挙げたフィーの言葉に、難しい顔をしながら耳を傾けるマルコス。
話を聞く態度を見せてくれた彼へと、フィーは自分なりの意見を話し始める。
「マルコスさんが疲弊している原因は、防御し続けたからじゃないかなって、思うんです」
「……ふふっ」
「防御し続けたからだと? どういう意味だ?」
フィーの意見を聞いたリュウガが楽し気に笑みをこぼしたことが気になったが、彼から話を聞くのは癪なので放置することにした。
先の言葉の意味をフィーへと尋ねれば、少し緊張した面持ちでこんな話をし始める。
「兄さんが言ってたんですけど……『戦いはノリがいい方が勝つ』らしいんです。ちょっと意味がわからなかったんですけど、今のお二人の戦いを見ていたら、なんとなく理解できたような気がします」
「なるほど、ユーゴらしい教え方だ。わかりにくいようでわかりやすい」
再び、フィーの話を聞いたリュウガが楽しそうに笑みをこぼす。
ライバルの軽過ぎる言葉の意味とこの状況がどうつながるのかをいまいち理解できないマルコスへと、フィーは今、得たばかりの知見を述べ始めた。
「今の戦いはリュウガさんの攻撃をマルコスさんが防御し続ける展開が続いていました。戦いの主導権を握っていたのはリュウガさんで、ペースを作っていたのもそう。これってつまり、全部リュウガさんに有利な状況が出来上がっていたってことじゃないでしょうか?」
「……!」
「あくまでこれは、お互いに相手の手の内を知っているお二人だからってこともあるんでしょうけど……リュウガさんは自分が作り上げた有利な状況の中、気持ち良く攻撃を続けられる。気持ち良く攻められるから、攻撃に勢いが乗っていく。逆にマルコスさんは自分に不利な状況で勢いを増していくリュウガさんの攻撃を防ぎ続けるしかない……ここが思っているより大きな差につながるんじゃないかなって……」
「流石だね、フィー。ほぼ満点に近い解答だ。マルコスも理解できただろう?」
「……ある程度は、だがな」
憮然としながらも、わかりやすいフィーの説明に納得したマルコスが腕を組みながら唸る。
スポーツなんかもそうだが、戦いの中には
『嫌な流れ』だったり、『逆転する雰囲気』だったり、そういった人間に影響を与える場の空気は確かに存在しているのだ。
その空気を自分のものにする。自分に有利な流れを自ら作り出す……それができているかどうかが、リュウガやユーゴと自分との差なのだろう。
不利な空気の中で戦い続ければ精神的なプレッシャーがかかり、体力を余計に消耗する。動きも固くなり、実力を十全に発揮することもままならなくなるかもしれない。
それこそがユーゴが言っていた、『戦いはノリのいい方が勝つ』という言葉の意味なのだろう。
考えてみればだが、ユーゴは滅茶苦茶な戦法でいつも相手を自分のペースに巻き込んでいるし、リュウガはほとんど動揺せずに文字通り空気だけでなく何もかもをぶった斬っている。
自分と彼らとの大きな違いに気付いたマルコスが考えを巡らせる中、今度はリュウガが口を開いた。
「少し、僕の方から補足させてもらおう。フィーは君が敗れた理由は守り続けたからだと言っていたが、それは正しい表現ではない。守りを固め、敵の隙を突く戦い方でも主導権は握れるし、後の先を取る居合のような戦い方も存在している。では何故、一方的な展開になったか? という部分だが……言われなくてもわかっているな?」
「……ああ。防御し続けたから負けたのではない。私に防御以外の選択肢がなかったから負けた、そういうことだろう?」
正解、というようにリュウガが拍手を送る。
少しずつ課題が見えてきたことに手応えを感じながら、マルコスは自分の考えを改めてまとめていった。
「ギガシザースを用いた私の防御は堅牢だ。しかし、それ以外の選択肢がない故に戦いでは常に後手に回ることになる。だから主導権を握れない。そうして相手に有利な雰囲気が作り上げられ……そのまま敗北する、ということか」
「そう。君の戦い方は相手の攻撃を防ぎ続け、盾に蓄積した魔力で一発逆転を狙うといったスタイルだ。逆に言えば、反撃のための魔力が溜まり切るまでは何も怖くない。だから僕は攻めに意識を傾けられた……そういうことさ」
少しずつ、自分にとっての課題が見えてきた。
しかし、マルコスは無力感を覚えてはいない。むしろ、興奮した気分になっている。
笑みのような、それとも違うような表情を浮かべるマルコスを見たリュウガは、小さく鼻を鳴らすと……彼へと言った。
「わかったかい、マルコス。これが、君の実力を正しく評価した結果だ。自分の弱さを認められる君の強さを正しく使えば、こういうことができる」
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