乙女心はかくせません!!
「サクラちゃんは水着を買いに行かなくていいの?」
「拙者は自前の物を使うから大丈夫でござる! そういうライハこそ、必要ないんでござるか?」
「私は……ルミナス学園の水着を使うつもりだから……」
「そうなんですか? でも、折角の機会なんだから、かわいい水着を選べばいいのに……」
店外にて、三人で座って仲良く話をしているサクラ、ライハ、ユイは、店の中の面子と違って和やかな時間を過ごしている。
投げかけられた質問に対して答えたライハは、店内のセツナを見て、小さく微笑みながら口を開いた。
「セツナちゃん、すごく楽しそう。こっちに来て、本当に良かったね」
「そうでござるな。良き友人に加え、将来の婿候補まで見つけられた。最初はどうかと思ったでござるが、かけがえのないものを幾つも見つけられたでござるよ」
普段はクールで冷めた姿を見せるセツナが、あそこまで一生懸命になって水着を選んでいる。
ユーゴと出会えたこともそうだが、彼を奪い合う恋敵でありながらも良き友人でもあるメルトたちの存在が、セツナをいい方向に解放してくれたのだと思う。
「それは、私たち……というより、お兄様も同じです。ユーゴさんと出会い、過去を受け入れたことで、お兄様もようやく前を向いて歩き始めることができたのですから……」
「ユイさん……」
そんな自分の意見に同調するようにそう述べたユイの言葉に、ライハはどう反応していいのかわからなかった。
彼女とリュウガの人生を狂わせた存在である自分が、その意見に良かったなどと軽々しく言っていいとは思えない。リュウガに許されたとはいえ、まだ自分は罪を償っている最中の身だ。だから、言葉に迷ってしまった。
そんなライハへと、何も考えてないようで色々と考えているサクラが言う。
「変わったのは、ライハもそうでござろう? 己の罪と向き合い、前を向いて歩き始めた……その事実に変わりはないでござるよ」
「サクラちゃん……」
「……今までずっと、自分の罪に苦しみ続ける姿を傍で見続けてきたでござるからな……リュウガ殿に全てを打ち明け、許されたことが、大きな変化を生み出した。拙者は、それを素直に喜ばしく思っているでござるよ」
「………」
……正直に言えば、ライハ自身も自分が変わったという自覚がある。
ただ俯くだけでなく、自分ができる償いの形を見つけ出し、そのために動くことがリュウガとユイへの贖いになると、そう思えるようになった。
自分の罪を告白して、父の仇を討つ形でリュウガの手に掛かって……それが一番の罪滅ぼしになると、そう考えていた自分を赦し、生きて償う姿を見せろと彼に言われた時……心が揺り動かされたことを覚えている。
憎悪が消えたわけじゃない。全てを許し切ったわけでもない。それでも……リュウガは命を懸け、傷だらけになりながらもザラキを倒し、自分を助けてくれた。
コウマルへの敵討ちを捨ててでも友の信頼に応えようとしたあの時から、彼の止まっていた時は動き出したのだろう。
それと同時に、終わるはずだったライハの時も動き始めた。
いつ終わってもいいと思っていた自分の命が、彼をはじめとする友人たちに救われたことで、確かな価値を持つようになった。
今の自分には、生きる意味がある。生きてやり遂げたいと思うこともある。
そう思える自分になれたのは、リュウガのお陰だと……強く彼に感謝するライハは、それ以外の感情も抱くようになっていた。
(だけど、私は……)
自分の気持ちを整理し、過去を振り返って、そうしたライハがぐっと胸を押さえる。
この気持ちは、きっと許されない。自分が抱えていいものではない。だから、抑え込まなくては。
自分にそう言い聞かせ、平静を装おうとするライハであったが……その耳に、ユイからの直球な質問が響く。
「……ライハさんは、お兄様のことをどう思っていますか? お兄様のことを、好ましく思ってくださっていますか?」
「えっ……!?」
ドクン、と心臓が跳ね上がった。思わず声を漏らしてしまった口から、心臓が飛び出るような錯覚すら覚えた。
ストレートが過ぎるユイの質問に言葉を失ったライハに代わって、サクラが口を開く。
「好いているでござろう? 隠す必要なんてないでござるよ」
「さ、サクラちゃん!? なに言って――!?」
「長年、友として傍にいた身でござる。ライハのリュウガ殿を見る目が変わっていることくらい、すぐにわかるでござるよ。以前は罪悪感にあふれた目で彼のことを見ていたが……今は、それよりもっと温かで柔らかい目をしているでござる」
「っっ……!?」
恥ずかしさよりも、息苦しさが勝る。自分は周囲から見て、そんなふうに思われていたのだろうか?
もしかしたら、リュウガ本人にもバレているのではないかと、そう不安になるライハへとユイが再度質問を投げかける。
「私に負い目を感じる必要なんてありません。お兄様にこのことを伝えるつもりもありません。ただ、知りたいんです。ライハさんがお兄様のことをどう思っているかを……」
「私、は……」
言葉が上手く出てこない。答えるべきか、そうでないのかも判断できない。
自分よりもずっと年下の、自分のせいで目が見えなくなった少女に気を遣われているということも相まって、どうすればいいのかわからなくなってしまったライハが呻く中、不意にぱんっ! という手を叩く音が響いた。
「はい、そこまで! そういう話はこんな往来でやるもんじゃないって!」
「そうそう。女の子の秘密の話っていうのは、それに相応しい場所でやるもんだよ」
「あ……っ!?」
その音にびっくりして顔を上げたライハは、いつの間にやら買い物を終えて店から出てきていたセツナたちの姿を目にして呆然とした。
もしかしなくとも、今の話を聞かれていたということに気付いて慌てる彼女を落ち着かせるように、セツナが口を開く。
「長年あなたの友達をやってるんだから、気持ちくらいはわかるわ。色々と、複雑なんでしょう?」
「………」
「こういう時は色々と吐き出すのが吉でござるよ! 男子たちがいない今が、女子たちだけで話すいい機会でござるからな!」
「いいじゃないか。普段、色々と話を聞いてもらってる礼だ。今日は、アタシたちがあんたの相談に乗るよ」
「わ~っ! 女子会、というやつですね! 私、一度でいいから参加してみたかったんです!」
「よ~し! それじゃあ、エーンのお店で女子会をしながら、恋愛トークをしよう! はい、けって~い!!」
とんとん拍子に何もかもが決めて、荷物を手に歩き出す女子たち。
あわあわと状況についていけずに慌てるライハへと、セツナが優しい口調で声をかける。
「メルトも、アンも、サクラも、ユイちゃんも、もちろん私だって……あなたのことを気にしてるのよ。悩んでることがあるのなら、喜んで力になるわよ。友達でしょ?」
「……!」
友人の温かい言葉に目を丸くしたライハが、静かに頷く。
自分を気遣ってくれる友達に感謝しながら……彼女たちの後を追って、ライハも駆け出すのであった。
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