女子たちの前哨戦!(水着を選んでいるだけです)
「ここにいたのね、メルト」
「水着か。まあ、海に行くから必要な物だよな」
「だよね~! やっぱ学校の水着はかわいくないし、胸もお尻も大きくなってるんだから、それに合わせたのを買わないとね!!」
水着売り場へとやって来たセツナとアンヘルへと、にこやかにそう話すメルト。
一見すると他愛のない女子たちの会話に思えるが、よくよく見ないとわからない火花が三人の間を飛び散っている。
(私がどんな水着を買うかをリサーチして、情報アドバンテージを握るつもりか! そうはさせないから!)
(やはりメルトはビキニタイプの水着を買うみたいね。王道のかわいさとセクシーさを持つ水着と活発なメルトの組み合わせ、侮れないわ……!)
(ちいっ! 胸と尻のデカさならアタシだが、ウエストに関しては二人が有利! そこも比較されることを考慮しなくっちゃな……!!)
二人がどんな水着を選ぶのかを探り、自分だけが手札を開示するような展開にならないよう立ち回るメルト。
そんな中でも情報を分析し、何が驚異で、それに対してどう対応すべきかを考えるセツナ。
最大級の武器を所持してはいるが、同時に普通科の二人と比べて
この短い会話の中で彼女たちはそれぞれに戦略を立て、牽制し合っている。
横に並び、水着を選ぶ最中も、三人は相手の考えを探り続けていた。
「う~ん、どうしようかな~? どんなのがいいかな~?」
「あら、迷ってるの? 思い切りのいいメルトらしくないわね」
「ビキニにしようとは思ってるんだけど、色とデザインがね……セツナはどんなのにするの? 参考がてら教えてよ!」
「私も迷ってるのよ。ヤマトとこっちでは水着のデザインが全然違うし、何がいいのかもよくわからないからね」
「あ~、そっか。やっぱそういう文化の違いってあるんだね……」
これまた普通の会話に聞こえるメルトとセツナのやり取りだが、現在の彼女たちの思考はこうなっている。
(ちっ……! 躱された。流石はセツナ、一筋縄ではいかないか……!!)
(やるわね、メルト。既に開示されている情報を使って、私の手の内を明かさせようとした。油断ならないわ)
――とまあ、こんな感じである。
笑顔でやり取りしているように見えて、水面下でこんな戦いを繰り広げる二人へと、今度はアンヘルが声をかけてきた。
「なあ、二人とも。これとか面白そうじゃないか?」
「「……っ!?」」
そう言いながらアンヘルが笑顔で見せつけてきた物を見たメルトとセツナは、揃って息を飲んだ。
アンヘルが手にしている水着……それは、非常に大胆なデザインをしたスリングショットタイプの水着だった。
こういった店に並んでいるだけあって、露出度に関しては控えめではあるのだが、それでもかなりのセクシーさを醸し出しそうなオレンジ色のそれを手にしているアンヘルは、二人へと言う。
「アタシの髪色と合ってるし、こういうのもありかもな! 流石に紐みたいな細さだとヤバいけど、このデザインならまあ許容範囲だろ!」
「え、ええ、そうね。アンにぴったりだと思うわ……」
「う、うっかりポロリしないように気を付けてね……」
あの水着を着たアンヘルの姿を想像した二人は、悔しいがかなりの破壊力を持つことは間違いないと認めざるを得なかった。
そもそも、自分たちの中で一番大きいのは彼女だ。その彼女があんなデザインの水着を纏ったら、もうそんなの大量破壊兵器が誕生したのと同義ではないか。
「わ、私、あっちの方を見てこようかな~……?」
「私も少し一人で見てくるわね……」
早急に対策を考えないとマズい。そう判断したメルトは、アンヘルともセツナとも別れて店内を物色し始めた。
セクシーさに全振りのアンヘルに立ち向かえる水着はないかと、必死になりながら武器を探す彼女は、脳内で様々な形をシミュレートしていく。
(紐ビキニで腰周りをアピールしつつ、ハプニング狙いでいく? いや、ここは敢えてかわいさに全振りして、アンの対極を狙うって形もありか? でもやっぱりユーゴの目を引くためにも大胆な水着の方がいいんじゃ……?)
悩み、考え、最適な戦略を練り続けるメルト。
歩き続ける中、露出面積多めなマイクロ的なビキニを発見した彼女がごくりと喉を鳴らす。
(これなら、十分アンにも対抗できる……!)
過激過ぎず、ある程度はまともなデザインのこの水着なら、アンヘルにも見劣りしないだろう。
その水着へと手を伸ばそうとしたところで、全く同じタイミングで横から手が伸びていることに気付いたメルトがビクッと体を震わせてそちらを向けば、同じく驚いた顔をしたセツナがそこにいた。
「あ、セツナ……! も、もしかして、これを買うの?」
「え、ええっと……! ず、随分と面白い形の水着があるなって、ちょっと興味が湧いただけよ。メルトの方こそ、これを買うつもり?」
「あ、いや、そのぉ……流石に、ねぇ?」
そうやってお互いに引き攣った笑みを浮かべながら話していると、多少は冷静になってくる。
確かにギリギリセーフのラインにあるこの水着だが、流石に実際に着てみるとなると恥ずかしさの方が勝るものだ。
ここでセツナと鉢合わせて、助かった……と背中に冷や汗を流していたメルトは、あることに気付くとハッと息を飲む。
「そうだ……! フィーくんのこと、忘れてた……!!」
「え……? あっっ!!」
一気に表情を変えたメルトの一言に、困惑気味の声を漏らしたセツナであったが、即座に彼女が言わんとしていることに気付く。
今回の修学旅行は初等部の生徒たちも同行する。ユイを買い物に誘ったのも、彼女も一緒に旅行に行くからだ。
つまりはフィーも修学旅行に同行するし、そうなったらユーゴはかわいい弟と一緒に行動するだろう。
体が弱い弟を心配して、海では傍についていくに違いない。
ということは……海にいる間、ユーゴの傍には常にフィーがいる。
そんな状況でマイクロビキニのような過激な水着を着てユーゴの前に出たら、彼はどんな反応をするだろうか?
……決まっている、弟に悪影響だから離れろと言うだろう。あるいは、水着を変えてこいと言うはずだ。
そうなったら自分たちの計画は全てご破算になる……と考えたところで、二人は揃って目を見開いた。
「まさか、アンヘルがさっき私たちに水着を見せたのは――!?」
「その状況を作り出すため……!?」
そのことに気付いた二人が視線を感じた方へと顔を向ければ、そこにバレたか、といった表情を浮かべたアンヘルが普通の水着を手にこちらを見ている姿を発見した。
すぐに引っ込んだ彼女の策略を間一髪で見抜いた二人は、安堵のため息を吐いてから口を開く。
「もう、戦いは始まってるんだね……! それも、想像以上に厳しい戦いが……!!」
「そうね……メルト、先に言っておくけど、恨みっこなしよ。私もここは譲れないわ」
「それは私だって一緒だよ。誰が勝っても、恨まないでよね」
バチバチ、と火花を散らした後、それぞれ逆方向へと歩き出す二人。
本番とも呼べる修学旅行中の戦いの前哨戦ともなる水着選びの戦いは、こうしてこの店の中で続いていくのであった。
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