英雄候補について話しながら……オチ

「そうだね……あんたらは知らないだろうけど、イザークって奴もいたんだ。利用され、やりたい放題やった末に消されちまったんだけどな……」


「今はマシになったけど、ゼノンも最初の頃はひどかったもんね。そう考えると、英雄候補っていうよりは問題児って言った方が正しくない?」


 セツナたちの会話に混じったアンヘルとメルトが、自分たちの知る英雄候補とその悪行を思い返しながら言う。

 ここまで名前が出た英雄候補たちのあれこれを振り返ったユーゴもまた、渋い表情を浮かべながらそのことについて呟きを漏らした。


「なんか、あれかもな……最初に活躍して、調子に乗っちまったのかもな……」


「散々調子に乗った結果、勘当されたお前が言うと説得力が違うな」


「おい、マルコス! それは言うなって!! いや、言う通りなんだけどさ!」


 あはは、とマルコスの発言にユーゴがツッコミを入れたところで、仲間たちの笑い声が響いた。

 その状況にユーゴが表情を険しくする中、ここまで黙っていたリュウガが口を開く。


「彼らに問題があるのは間違いないが、それと同じくらいに周囲の人間にも問題があったのかもね。盲目的に祭り上げられたことで、彼らが必要以上に増長した可能性もある」


「確かにな。ゼノンがユーゴを倒した頃は、学園の生徒たちも大いに浮かれていたからな。奴を英雄視する空気も、熱狂的な信者もいた」


「ただ……あの頃のゼノンは確かに強かったし、シアンも俺たちの適性を見抜いて、適切な指示を出してたと思う。優秀ってことは間違いないんだよな」


「だからこそ、厄介なんだろうね。まあ、あいつらも失態を重ねたお陰で昔みたいに全肯定されることも少なくなってきてる。英雄候補様たちにとっては、ここからが正念場ってやつだな」


 エゴスの暴走から始まり、ザラキの騒動の際に何もしなかったことやここ最近のシアンの愚行、他にも細々とした失敗を重ねた結果、英雄候補たちを憧れの眼差しで見ていた生徒たちも色眼鏡を外しつつあるようだ。

 英雄候補たちのことを推しに推していたラミーが今ではすっかり彼らを厄介者扱いしているように、反転アンチと化した生徒たちもいるのだろう。


 これで多少は彼らの暴走も減ってくれればいいのだが……と一同が考える中、パンパンと手を叩いたピーウィーが彼らへと言う。


「はいはい、この話はここまで! 今はネリエスが試験に合格したことを喜ぶ時間でしょう?」


「そうですね。色々ありましたが、これからも一緒に学園で過ごせるようになって良かった、といった形でまとめることにしましょう」


 ピーウィーの言葉を受けたミザリーが、先の英雄候補に関する話題も含めて話をまとめる。

 これ以上、シアンたちについて特に話すこともないからそれでいいかと思いながら、ユーゴは再びネリエスたちへと話しかけた。


「そういえば、ネリエスたちはパーティを組むことになったんだろ? これから楽しみだな!」


「はい! みんなで一緒に頑張っていきます!」


「一気に仲間が増えて、私も心強いです。ユーゴ師匠の弟子同士、これからよろしくお願いしますね」


「うんうん、いいことだ! ……ん?」


「あれ? どうかしたの、ユーゴ?」


「いや……なんか大事なことを忘れてるような……?」


 今回の一件で仲良くなった者同士がパーティを組んでこれからも一緒に活動していくことを喜ぶユーゴであったが……そこでふと、何かが引っかかることに気付いた。


 なにか……そう、とても大切な何かを忘れているような気がする。決して忘れてはいけない、とても大切な何かを。

 それが何だったかと、全力で思い出そうと努力したユーゴは、ぽんと手を叩くと共に声を漏らした。


「あ、そうだ。あいつのことを忘れてた!」

 










「――というわけで、今日から一緒にパーティを組むことになった皆さんです。仲良くしてくださいね」


「え? あ? へ……?」


 数十分後、ネリエス、ヴェルダ、ピーウィーを連れたミザリーは、自分の相方であるヘックスへと三人を紹介していた。

 唐突に三人を紹介され、これからパーティに加わると無表情(でも少し嬉しそう)な相方に言われたヘックスは、唖然とするしかない。


「え? ちょっと待ってくれ。お前、少し前にユーゴに頼まれてなんやかんやで忙しくなるって言ってたよな? そこからどうしてこうなった?」


「その辺のことはおいおい説明していきます。とりあえず、今日から一気に大所帯になりますが、一緒に頑張っていきましょう」


「待て待て待て待て! 唐突! 唐突過ぎる!! 状況が理解できないって!!」


「大丈夫。ヘックスなら飲み込めますよ」


「ごり押しでどうにかしようとすんじゃねえ! 嘘だろ? またこのパターンかよ!?」


 割と言い出したら聞かないミザリーに押し切られたヘックスが何とも言えない表情を浮かべる。

 もう何もかもが決定されている中、彼は大声で抱えた不満を叫んだ。


「頼むから、俺を蚊帳の外にした状態で話を進めないでくれ! 報連相を徹底してくれ~~っ!!」


 ……頑張っているのに割と影が薄い苦労人、ヘックス・オーノ。

 彼の苦悩は、これからも続いていく――。

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