シアン、学校やめ(させられ)るってさ


「なっ、なんだ!? 今の爆発は!?」


「あれは……シアンさん? どうしてここに……?」


「う、うがっ、ぐっ、ぐぅぅ……っ!」


 突如として起きた爆発と、何かが演習場内に転がってきたという展開に、事情を知らないユーゴとネリエスは驚きを隠せないでいる。

 その間に、痛みに呻き、苦しみながらも何とか立ち上がったシアンは、こちらを見やるネリエスの姿を見て、再び身勝手な怒りを燃え上がらせた。


「ネリエス……ネリエスゥゥゥッッ!!」


「え? えっ!?」


 こいつさえ引きこもっていれば、こいつが前を向いて楽しそうにしなければ……自分がこんな目に遭うことはなかった。

 追放ざまぁ系の悪役のように、あのまま潰れて消えてさえいれば……という怒りを膨れ上がらせたシアンは、その憎しみを叫びとして吐き出しながらネリエスへと突進する。


 武器を手に、ネリエスを襲おうとするシアンを止めようとしたユーゴであったが……どうやらその必要もなかったようだ。


「こっ、来ないでっっ!!」


「べぶっ!?」


 魔法の直撃と落下によるダメージがあったのだろう。シアンの動きはそこまで素早くなく、ネリエスでも容易に対処できるほどだ。

 ユーゴが助けに入る必要もなく、ネリエスは一歩踏み込むと共に持っている大きな杖を振ってシアンの顔面を殴打し、彼の暴走を止めてみせた。


「おお、ナイススイング! ……って、そうじゃねえ! なんだ、この状況は!?」


 綺麗にシアンを殴り飛ばしたネリエスのスイングを褒めたユーゴが、瞬時に冷静になって自分にツッコミを入れる。

 もうさっきから理解不能な展開が続いているぞと、彼が混乱しかけたタイミングで管制室の窓からミザリーの声が響いた。


「ユーゴ師匠! ネリエスさん! その人です! その人が、全ての元凶です!!」


「えっ……?」


「あぁ? ……そういうことか」


 メイルビートルの出現から続く不可思議な事態と、管制室で起きた爆発、及びそこから吹き飛んできたシアン。

 そして、彼のネリエスに対する憎しみに満ちた行動を一連の出来事としてつなげたユーゴは、全てを理解すると共にシアンを睨む。


「ぐっ、ぞぉ……! くそぉ……っ!」


「……なるほどな。事情は。やり過ぎだ、てめえ」


「うるせえっ! 俺は、俺は主人公なんだ! 俺は――っ!!」


 淡々とした、されど怒りが滲む口調で声をかけてきたユーゴへとキレ返すシアン。

 その頭上から黒い影が迫っていることに気付いた彼がハッとして顔を上げれば、管制室から飛び降りてきたミザリーの姿があるではないか。


「ネリエスさん! 私に強化魔法を!」


「は、はいっ!」


 突然の事態に驚きながらも、ミザリーの指示に従うネリエス。

 彼女が攻撃力の強化と共に雷属性付与の魔法を発動すれば、ミザリーが構える針の先端に稲妻が弾け始めた。


「サンダー・スティング・ストライクッッ!!」


「うぎゃああああああああっ!?」


 落下の勢い+渾身の左ストレート+強化魔法&雷属性。

 ミザリーとネリエスの合体技ともいえる上空からの電撃針での一撃は、見事にシアンが防御のために取り出した槍をへし折りながら彼の体にぶち当たった。


 再び地面を転がった彼が立ち上がろうとしたところで、ユーゴがその胸倉を掴む。


「放せ……! 放せぇえぇぇぇえぇっ!!」


「……ネリエス、今の内にこいつに言いたいこと、あるか?」


「はい。一つだけあります」


 暴れるシアンを抑えながら、背後のネリエスへと問いかけるユーゴ。

 彼の言葉を受けたネリエスは、息を吸ってからシアンへと言う。


「まだ、ちゃんと言ってませんでした。シアンさん――!!」


 ここで一度言葉を区切り、深呼吸をするネリエス。

 真っ直ぐにシアンを見つめた彼女は、はっきりと言い切るような大声で叫んだ。


「私……あなたのパーティ、抜けますっ!!」


「ははっ……! だってよ、シアン」


「てめええええっ! 俺を、俺を馬鹿にすんじゃねえええええっ!!」


 もはや、この後のことなど考える余裕などないシアンは、自分を苛立たせるネリエスへの怒りを叫ぶことしかできないでいる。

 そんな彼の胸倉を掴んでいたユーゴは、軽くその胸を押しながら手を開くと共に、もう一方の拳を強く握り締めながら振り上げた。


「受け取れ、シアン。これが――!」


「!!!」


 不意に体を押されたことでバランスを崩したシアンは、自分へと迫る拳を見て、息を飲んだ。

 振り抜かれた拳に横っ面を殴られ、その場で回転しながら吹き飛んだ彼は、その寸前にユーゴの声を聞く。


「これがわたしネリエスの、脱退届だ!!」


「へぶぅっ!?」


 壁に叩きつけられ、情けない悲鳴を上げるシアン。

 腫れあがった顔を上げ、何かを言おうとしたところで……ゆっくりと彼の下に近付いてきたウノが口を開く。


「私はお前に言ったはずだ。次に勝手なことをしたらその時にはもう容赦はしない、と……その上で、このような真似をしたということは、覚悟はできているな?」


「あ、う……」


「その覚悟、しかと受け止めよう。下される処分を楽しみにしているんだな、フェイル」


「う、ぐっ……」


 追いかけてきたに直面したシアンががくりと肩を落とす。

 こうして……波乱が起きながらもネリエスの実技試験は無事に終了し、同時にシアンには処分が下されることになるのであった。


―――――――――――――――

ネタバレ・処分はタイトルに書いてある。

ついでに今回の元ネタ、わかるかな~?

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