side:シアン(全部バレた男が制裁を受ける話)

「ううっ……!?」


 リュウガたちが放つプレッシャーを一身に浴びるシアンは、何も言えずに押し黙るしかなかった。

 まさか、馬鹿正直に「ネリエスの試験の邪魔をしてました」なんて言えるはずもなく、冷や汗を流して焦燥の表情を浮かべる彼であったが……それが何よりも雄弁に全てを語る証拠になっている。


「管制室の人々が倒れているのも、重過ぎるユーゴのデバフも……全てお前の仕業だな、シアン!」


「自分を裏切ったネリエスたちに仕返しをするために、こんなことをしでかした……ってところでしょうね」


「っっ……!!」


 完璧な答えに辿り着いたマルコスとセツナの言葉に顔色を青くするシアン。

 そんな彼の反応から、二人の考えが正しいと悟ったピーウィーとヴェルダが信じられないといった表情を浮かべながら言う。


「これはネリエスの人生がかかった試験なのよ!? そこで、こんな真似をするだなんて……!!」


「あんたは腐ってる! 最低最悪の野郎だ!!」


「うるっ、せえっ! 元はと言えば、元はと言えばなぁ! お前らが悪いんだ! お前らが、俺を裏切ってパーティを抜けるから!!」


「……その発言、自白と取っていいな? お前は、悪意を持ってネリエスの試験を邪魔した……そういうことだな?」


「そうだよ……! それの何が悪いんだ? あいつらが俺を、主人公である俺を裏切るから……っ!! 悪いのはあいつらだろうがっ!!」


 もう、シアンは開き直るしかなかった。完全に頭に血が上った状態で、自分の中で渦巻くドロドロとした憎しみと怒りの感情を叫ぶ以外に、できることはなかった。

 その発言を聞いた一同が怒りに拳を震わせる中、目を細めたリュウガが淡々とした口調で言う。


「……僕は、お前の動機になんてこれっぽっちも興味はない。情けをかけるつもりなんて毛頭ない。ただ事実として、お前は僕の相棒を陥れ、前を向いて進もうとしている一人の少女の努力を踏みにじろうとした。その報いを受ける覚悟は、できているんだろうな?」


 細めていた目を見開き、瞳に怒りを滲ませたリュウガが魔力を解き放ちながらシアンへと言う。

 龍の逆鱗に触れた相手にその報いを受けさせるべく、龍王牙を構える彼であったが……それよりも早く、別の人物が動いた。


「シッッ!!」


「ぬっ!? うああっ!?」


 風の用に飛び出したその人物が、鋭く息を吐きながらシアンへと拳を見舞う。

 不意打ちな上に目にも止まらないその動きに反応できなかったシアンは、胸を突く痛みに悲鳴を上げながら後退し、浅く荒い呼吸を繰り返し始めた。


「あなたは、あなたという人は……っ!」


 シアンを殴り飛ばした人物は、わなわなと肩を震わせながら彼のことを睨んでいた。

 本当に珍しく、普段は無表情なその顔に怒りの色を滲ませている彼女の、ミザリーの姿を見た仲間たちは、彼女が抱く激憤を察すると共に息を飲む。


「あなたの行いは、ネリエスさんの人生を大きく狂わせるかもしれなかった。一歩間違えれば、彼女のこれまでの努力が全て無に帰していた。あなたのその身勝手な行動のせいで、ネリエスさんは……っ!」


 試験に挑むと決めてから今日まで、誰よりも近くで努力するネリエスの姿を見てきたミザリーは、シアンの暴挙が許せなかった。

 かつての自分と姿を重ねた相手が、訓練を重ねる日々の中で絆を育んだ友達が、これから先のことを誓い合った親友が、一歩間違えれば何もかもを失うところだった。


 その原因になりかけたシアンに、悪意を持ってネリエスを陥れようとした相手に、並々ならぬ怒りを燃え上がらせるミザリーであったが、彼はそんなこともおかまいなしに自分勝手な理屈を吼える。


「知るか!! お前たちは俺の思い通りに破滅するべきだったんだ! 悪いのはお前たちなんだよ!!」


「……っ!!」


 どこまでも反省しないシアンの言葉に、ミザリーが憤怒を通り越して驚愕の表情を浮かべる。

 そうして固まった彼女の姿を見たシアンは、武器である槍を取り出しながらミザリーへと襲い掛かった。


「邪魔だっ! 退けっ!!」


 もう、どうにでもなれだ。何もかもを滅茶苦茶にしてやる。

 開き直ったが故に、全てを壊そうとしたシアンは、まず最初に目の前のミザリーを倒そうとしたのだが、その眼前に巨大な壁が立ちはだかった。


「ぬおおおおおおおおおおっ!!」


「なっ……!?」


 雄叫びを上げて自分とミザリーの間に入ってきたヴェルダが、繰り出された槍をその身で受け止める。

 シアンの攻撃を受け止めたヴェルダはぎりぎりと歯を食いしばりながら、鋭い目で彼を見つめ、唸った。


「あんたのパーティを抜けて正解だったよ。あんたは英雄候補なんかじゃない! ただのゲス野郎だ!!」


「このっ……! お前、お前っ!!」


 ヴェルダの挑発の言葉に、シアンの脳内が怒り一色に染まる。

 全ての意識を彼に向けたその瞬間、ピーウィーの声が響いた。


「ヴェルダ、ミザリー、避けてっ!!」


「!?!?!?」


 その声にハッとしたシアンがピーウィーの方へと顔を向ければ、巨大な火の玉を作り出した彼女がそれを撃ち出す構えを取っている姿が目に入った。

 壁役タンクが敵を引き付けている間に、後衛が強力な攻撃を繰り出す……RPGの鉄板ともいえるその戦法に自分がまんまと引っかかったことに息を飲むシアンへと、ピーウィーが火の玉を放った。


「ぶっ飛べ!! このっ、クソ野郎っっ!!」


「ぎゃああああああっ!」


 直撃……勢いの乗った魔法がシアンの体にぶち当たる。

 炎の爆発によって吹き飛ばされたシアンはそのまま管制室の窓を突き破って演習場内に落下し、ごろごろと地面を転がっていった。


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