ブラスタ、爆現!
一方的に攻撃され続けていた鬱憤を晴らすような、荒れ狂う想いをさけびとして放つユーゴ。
対して、またしても彼に辛酸を嘗めさせられたメイルビートルもまた、怒りを燃え上がらせて吼える。
「ジュギラオオオオオッ!」
咆哮、直後に突進。
ここまでの戦いの中で最速の、勢いを乗せた動きを見せる魔鎧獣がユーゴを叩き斬らんと剣を振り上げる。
突撃の勢いを乗せ、腕力を振り絞り、渾身の一撃で彼を頭から真っ二つにしようとしたメイルビートルであったが、攻撃を繰り出そうとした瞬間、その顔面に鈍い衝撃が走った。
「!?!?!?」
ぐわん、と視界が歪む。痛みが、衝撃から一拍遅れてやってくる。
何が起きたのかわからないでいるメイルビートルは、続けて叩き込まれる拳の連撃を受け、自分が殴られていることを理解した。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「ジュギッ!? グガッ……!!」
速い、目に見えない。回避どころか、防御すらままならない。
メイルビートルには、鎧に覆われた自分にこれほどまでのダメージを与えてくるユーゴの強さに、彼が先ほどまでとは打って変わって一気に強くなったことに、驚きを隠せなかった。
さっきまで、自分に一方的に嬲られていただけだったのに。抵抗も受けたが、まだ許容範囲内の痛みだったというのに……今は何もかもが違う。
叩き込まれる一発一発の拳が、重く、鋭く、そして痛い。どうして急にここまで強くなったのか、さっぱりわからない。
つい先ほどまでユーゴが強烈なデバフを受けていたことなど知る由もないメイルビートルは、思考を混乱させたまま強く殴り飛ばされた。
呻き、地面を転がって、それでも萎えぬ怒りを燃え上がらせながら立ち上がろうとしたところで……彼は見る。
迸る熱が渦を巻き、炎となって噴き上がる。
紅蓮の爆炎をマフラーのように靡かせて立つユーゴの姿を目にした瞬間、メイルビートルの心の中で恐怖の感情が膨らみ始めた。
「ガッ……!?」
メイルビートルの視界から、その目に確かに映していたはずのユーゴの姿が消える。
そう思った次の瞬間には炎を纏った拳がその腹に叩き込まれていて、痛みと熱に呻いた魔鎧獣は体をくの字に折って動きを止める。
「うおおおおおおおっ!!」
「ジュ、ジュギ、ジュラ……!?」
追撃。アッパーカットからの前蹴り。
雄叫びと共に繰り出された連撃を受けたメイルビートルは、怒りを塗り潰すほどの恐怖を覚え、完全に戦意を失った。
武器である剣を放り捨て、背中を見せて逃げようとするメイルビートルであったが、ユーゴが見逃してくれるはずもない。
魔鎧獣が落とした剣を拾い、自分用の武器へと変化させたユーゴは、炎の鎧の力でその剣に赤く燃える炎を纏わせると共に顔を上げる。
「ブラスタ……爆現っ!!」
「ジュッッ……!!」
カッ、と瞳を紅に光らせながら跳躍。炎を纏った剣を上段に構え、メイルビートル目掛けて飛び掛かる。
襲われる寸前、魔鎧獣は見た。自分へと斬りかかるユーゴが、燃え上がる太陽を背負っている姿を。
「ブラスタ・ジャッジメント!!」
胸部に埋め込まれた魔法結晶から広がる、炎属性を帯びた魔力。
全身を、武器を、その魔力で最大限に強化したユーゴが落下の勢いを乗せて繰り出した唐竹割りは、メイルビートルの強固な鎧ごとその体を頭から股へと両断した。
「ギャ、グアアアアアアアアッ!!」
断末魔の悲鳴を上げ、斬られた傷口から炎を噴き出した後で大爆発を起こす魔鎧獣。
息を吐き、振り下ろした剣を緩く持つ形に変えたユーゴへと、息を整えたネリエスが歩み寄る。
「ユーゴさん! やりましたね!」
「ああ。ネリエスのお陰だ。ありがとうな。だが――」
ネリエスと拳を打ち合わせ、お互いの健闘を称え合うユーゴ。
そうした後、ブラスタを纏ったまま、周囲を見回した彼は、結界が解除されないことやウノから声がかからないことに兜の下で渋い表情を浮かべる。
試験開始前、確かにウノは戦いは三回行うと言った。その言葉が正しければ、メイルビートルを倒した時点で試験は終了のはずだ。
それなのに、なんの動きもない。最後の戦いで起きた不可解なあれこれから考えると、自分とネリエスが感じた嫌な予感は当たっていたようだ。
「おいおい、何がどうなってるんだ?」
なんだか、ありとあらゆる形でトラブルに巻き込まれている気がするという思いを愚痴じみた呟きとして漏らしながら、何があってもいいように、ユーゴは警戒を払いつつ、周囲の様子を窺い続けるのであった。
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