想定外の三戦目……?

「ん……?」


 突如として光の渦が演習場内で渦巻き始めた様を目にしたウノは、訝し気な表情を浮かべながら小さく疑問の声を漏らした。

 なんの指示も出していないというのに、どうして標的の召喚が始まっているのだと、誤作動でも起こしたかと思った彼は、召喚システムの操作を担当する管制室へと呼び掛ける。


「管制室、聞こえるか? 何故、演習用魔鎧獣の召喚を始めた? こちらはまだなんの指示も出していない。誤作動ならばすぐに取り消せ」


 しかし、その呼びかけに対しても管制室から答えが返ってくることはない。

 何かがおかしいと、そうウノが危機感を抱き始める中、事情を知らないユーゴとネリエスは最後の相手となる魔鎧獣の姿を見て、話をしていた。


「あの、魔鎧獣は……!!」


「……なるほど、そうきたか」


 鈍い輝きを放つ重厚な鎧と雄々しい一本角が特徴的なその魔鎧獣の姿を目にしたネリエスの脳裏に、嫌な記憶が蘇る。

 自分の心に深いトラウマを刻んだ相手と酷似している魔鎧獣と対面し、ごくりと息を飲む彼女であったが、ユーゴに声をかけられてハッと顔を上げた。


「ネリエス、あの魔鎧獣ってなんて名前だっけ?」


「あの魔鎧獣は……メイルビートル。リビングメイルとジャイアントビートルが融合した魔鎧獣です」


 頭の中にある知識を引っ張り出し、ユーゴの質問に答えながら、気持ちを落ち着かせるネリエス。

 自らの意志で動く鎧の魔物『リビングメイル』に巨大なカブトムシの魔物『ジャイアントビートル』の魂が憑りつくことで誕生する『メイルビートル』は、鎧と甲虫という実に相性のいい組み合わせということもあってか、お互いの長所を引き立て合っている。


 リビングメイルの鎧と甲虫の外殻が一体になったことで堅牢さは増し、昆虫のパワーはそのままに人型になったことでより強力な武器を使えるようになっているメイルビートルは、パワータイプの魔鎧獣の中でもかなりの強敵だ。


 単純な力だけならばブルゴーレムの方が上だが、メイルビートルには武器を使えることやブルゴーレムよりも魔法攻撃に強いという特徴がある。

 総合的に見れば、三つの戦いの締めにちょうどいい敵だと……そう考えながら息を整えるネリエスへと、ユーゴが言う。


「キャッスル先生からの最後の試練だな。こいつを倒して、過去を乗り越えろってメッセージだろ」


「……!!」


 あの日、昆虫館でトリルが変身した魔鎧獣と戦ったユーゴには、目の前のメイルビートルが彼とよく似ているということに気付いていた。

 同時に、ネリエスにトラウマを植え付けたカブトムシ型の魔鎧獣を試験の最後の相手として召喚した意味にも予想を付けている。


 トラウマの元凶となった相手と対面してもネリエスがパニックにならないかを確かめ、その上で彼女にこの標的を倒させることで過去を乗り越えろというメッセージなのだろうと、これはウノからの愛の鞭であり、ネリエスに対する最後の試練なのであると、そう考えた。


 ネリエスもまた、乱れかかっていた心をユーゴの言葉で落ち着かせると共に、覚悟を決めていく。

 確かに最後の試練の相手にはうってつけだと、そう思い直した彼女はユーゴへと静かに声をかけた。


「大丈夫です……! 私はもう、逃げたりなんかしない! あいつを倒して、自分の弱さを乗り越えてみせます!」


「よっしゃ! その意気だ! ラスト、気合入れていこうぜ! ……って、あら?」


 気合を入れたネリエスの言葉に、頼もしさを感じたユーゴが応える。

 そうしながらメイルビートルに向き直り、戦いの構えを取ろうとした彼であったが……突如として体を襲ってきた不調に声を出してよろめいてしまった。


「うぉぉ……っ!? キャッスル先生も容赦ねえな。でも、これでこそやりがいがあるってもんだぜ」


「ゆ、ユーゴさん、大丈夫ですか?」


「平気、平気! この程度、ちょうどいいハン、デ……?」


 ブルゴーレムと戦っていた時以上に力が入らないし、鉛でできた重りを括りつけられたような重さも感じている。

 この調子だと、防御力も随分と下げられているんだろうなと思いながらも、ヒーローとしてネリエスを不安にさせないように明るく返事をしたユーゴであったが……そんな彼を無視できない異変が襲った。


「なんだ、これ……?」


 メイルビートルを映していたはずの視界が、黒く染まっていく。

 瞬く間に真っ暗闇に支配されてしまった世界の中、何も見えない状態になったユーゴが驚きのあまり声を漏らしながら周囲を見回すも、やはり視界には暗闇が広がるばかりだ。


「見えねえ……!? 何も、見えな――ぐあっ!!」


「ユーゴさんっ!!」


 メイルビートルの攻撃に対して、何の反応も示さなかったユーゴがそのまま弾き飛ばされる様を目にしたネリエスの叫びが響く。

 続けて繰り出される直剣での攻撃を成す術なく受け続ける彼の姿にネリエスが硬直する中、そんな衝撃的な光景を管制室から観賞する男の姿があった。


―――――――――――――――

ブンブンジャー、始まりましたね……!(予約投稿時点では放送されてない)

これから毎週、楽しみにさせてもらいます!


全く関係ないですけど、てれびくんスーパーヒーローコミックスで連載されてるこの小説のコミカライズもよろしくね!

八話の更新もそろそろだと思うんで、楽しみにしててください!

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