第二戦VSブルゴーレム!

「ユーゴさん! 攻撃以外の行動に支障はありませんか!?」


「ああ、普通に動くこと自体は問題ない!」


「わかりました! それでしたら、物理ではなく魔法で攻めましょう! 攻撃に属性を付与エンチャントします! ユーゴさんはそのまま攻撃を!」


 こちらの攻撃力が下がっていて、かつ相手は堅い鎧に包まれているとなるとダメージを与えにくい印象を受けるが……あくまでそれは物理攻撃のみの話だ。

 ブルゴーレムが纏う岩の鎧も、魔法によるダメージには弱い。ユーゴの力が弱まっていようとも、属性を付与した攻撃ならば十分に痛手を与えられる。


 頑健な肉体を持つ敵への対処法以外にも、様々な敵と相対した時の戦術を訓練の中で学んできた。

 そして、それをパニックにならずに冷静に思い返せるようにしてきたネリエスは、落ち着いてユーゴへと属性付与魔法をかける。


「炎属性を付与しました! いつもと同じ感覚で戦えるはずです!」

 

「OK!! 助かったぜ、ネリエスっ!!」


 最も扱いなれている炎属性を付与してもらったユーゴが拳を握り直しながらブルゴーレムを睨む。

 トンッ、と地面を蹴って駆け出した彼は、瞬時に魔鎧獣の懐に潜り込むと共に拳を堅い岩に覆われた敵の腹に叩き込んでみせた。


「ウッラアアアアッ!!」


「ブグッ! ブモッッ!?」


 殴られた腹から背中までを衝撃と炎の魔力が貫通する感覚にブルゴーレムが呻く。

 拳と共に叩き込まれた炎が魔鎧獣の背中から噴き出す中、よろめきながら体を『く』の字に折った敵の顔面へと、ユーゴ渾身の跳び膝蹴りが撃ち込まれる。


「俺流必殺技・紅蓮轟炎脚!!」


「ブモオオオオオオッ!?」


 炎を纏った跳び膝蹴りを顔面に見舞われたブルゴーレムは、堪らず悲鳴を上げて後方へと吹き飛ばされた。

 大技を繰り出したユーゴは相手が隙を見せている間に体勢を立て直し、油断なく魔鎧獣を睨む。


(冷静だな。クレイも必要以上に出しゃばることなく、セレインに指示を任せている)


 戦いを見守るウノは、即座に属性魔法で相手にダメージを与える戦い方にシフトしたユーゴを見ながら、その戦法を選択したネリエスの判断能力に頷いていた。


 アラクロより強力な敵だが、ユーゴには炎の鎧がある。腕輪の効果で攻撃力を下げられたとしても、それを使えばどうとでもなるだろう。

 相手に合わせた戦い方を思い付けるかどうかをテストしたのだが、ネリエスはウノの予想を超える判断を見せてくれた。


 ユーゴもまた、この戦いの主役と指揮役はネリエスであると考え、口出しをせずに彼女の判断に従っている。

 ウノの目には、ユーゴの信頼に応えるようにしっかりと正答を出しつつ、必要以上に彼の力を借りないように戦い方を決めているネリエスの姿が普段よりも大きく見えていた。


(炎属性を選んだのも、クレイが扱いなれていることを考慮したか。思っている以上に、信頼し合っているようだ)


 いつもと同じ感覚で戦える、というネリエスの言葉から、彼女が付与する属性を決めた基準を理解したウノが口元に小さく笑みを浮かべる。

 彼女とユーゴが本格的に関わり出してまだ間もないだろうに、お互いのことを理解し合っている二人の姿と、成長したネリエスの姿を見ていると、どうにも嬉しさが込み上げてきてしまう。


 今は試験中なのだから、厳格に戦いぶりを判断しなくては……とその笑みを隠しつつ、引っ込めたウノの前で、ネリエスはユーゴへと叫んだ。


「ユーゴさん! 付与する属性を風に切り替えます! そっちの方が効くはずです!!」


「了解!」


 立ち上がり、こちらへと雄叫びを上げて突っ込んでくるブルゴーレムを見据えながら、腰を落とすユーゴ。

 居合を思わせる構えを取った彼は右手に風の魔力を集めると、ブルゴーレムとすれ違う瞬間に腕を振り抜いてみせる。


「……ブラスタ・霞斬り!」


「グブモオオッ!?」


 唸る風を纏った手刀がブルゴーレムの腹部を守る岩にぶち当たれば、堅牢なそれを荒れ狂う嵐によって即座に砂へと分解していく。

 剥き出しになった腹筋も鋭い手刀で一閃。今度は属性攻撃だけでなく物理的な攻撃のダメージを受けたブルゴーレムは、先の炎の拳を超える痛みに悲鳴を上げ、体勢を崩した。


「今だっ! 攻撃力、強化っ!!」


 ブルゴーレムが大きなダメージを受けたことを見て取ったネリエスがトドメを刺すチャンスとばかりにユーゴの攻撃力を強化する魔法を発動する。

 彼女のお陰で普段通りの力を取り戻したユーゴは、自身も魔力を解放すると纏った風属性を強化していった。


「はぁぁぁぁぁぁ……っ!!」


 ユーゴを中心に、風の奔流が吹き荒れる。

 徐々に竜巻として形作られていったその風は重い鎧を纏った彼の体を浮き上がらせ、上空高くへと運んでいった。


「さあ、決めようか!」


 十分な高度まで浮き上がったユーゴが、竜巻の向きを変える。

 唸りを上げる竜巻を背負い、ブルゴーレムを見据えたユーゴは、暴風に背中を押される勢いを活かした急降下キックを繰り出した。


「スピニング・ブラスタアアアアアアッ!!」


「ブゴッ……!?」


 ブルゴーレムが顔を上げた次の瞬間には、彼の体に大きな穴が空いていた。

 竜巻を纏ったキックで魔鎧獣の体を貫通したユーゴが地面に着地すると同時に、ブルゴーレムが断末魔の悲鳴を上げながら爆発する。


「ウゴオオオオオオオオオオオオオッ!?」


「へっへっ……! ここでカードを投げられたら気分は最高だったんだけどな……!!」


 楽し気なその呟きを聞いたネリエスが首を傾げる。

 まあ、意味のない独り言だろうと結論付けて特に気にしないようにする中、二体目の標的も難なく倒した二人の戦いぶりを見ていたウノは大きな頷きを見せていた。


(不測の事態にも冷静に対処しつつ、相手に有効な戦略を取ることもできた。クレイの実力が抜きん出ている部分は否めないが、セレインも十分にサポートをこなせているな)


 ここまで敵を圧倒できているのはユーゴの強さがあってのことだとは思うが、組んでいるのは彼でなくともこの戦いの勝敗は変わらなかっただろう。

 敵の弱点を見抜き、的確に有効な戦法と属性を選択して、タイミングを見計らって強化魔法を使う……これだけの補佐ができていれば、もう十分だ。


 アラクロとブルゴーレム、二種類の魔鎧獣を相手取った戦いの中で、ネリエスは自分の実力を見せてくれた。

 落ち込んだメンタルも回復し、かつてと同じ……いや、それ以上の活躍ができるようになった彼女なら、もう心配はないだろう。


 ああして支えてくれる友人も多くいるようだし……と、若者たちの友情と絆の力に青臭くも頼もしいものを感じたウノは、これ以上の試験は必要ないと考えていたのだが……?

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