試験、開始!

「きたか。お前たち、準備は整っているな?」


 ユーゴと共に演習場へと向かったネリエスは、そこで待っていたウノの言葉に力強く頷く。

 観客席には応援にきてくれたメルトたちの姿もあり(やっぱりリュウガはいない)、そのことを心強く思う彼女へと咳払いをしたウノが声をかける。


「ネリエス・セレイン……これより、お前の実力を図る実技試験を開始する。パートナーは、ユーゴ・クレイでいいんだな?」


「は、はい……!」


「わかった。では、試験開始前に改めて内容の説明と注意事項を話しておく。よく聞いておくように」


 ネリエスに最終確認を行った後、再び咳払いをするウノ。

 深呼吸をして気持ちを整える彼女とユーゴへと、彼は試験の内容を説明していった。


「試験の内容は至ってシンプル、これから我々が召喚する標的を二人で協力し、倒せばいい。その中でセレインがどのような活躍を見せたかを確認した上で、合否の判断を下す」


「ただ単純に勝てば合格、ってわけじゃないってことっすね?」


「そうだ。逆に言えば、召喚した標的に勝てずとも、十分な活躍をしたと判断できれば合格になる。見るのは勝敗ではなく、お前の動きだということを忘れるな」


「は、はい……!」


 大事なのは勝てるかどうかではなく、ネリエスが自分の役目をしっかりと果たせるかどうか。

 そして、引きこもりになるくらいにメンタルが不安定になっていた彼女が、しっかりとそれを回復させているのかという部分だと、合否の基準を明確に示すウノ。

 ただ勝てばいいというわけではないが、負けても合格の可能性は十分にあるという言葉にネリエスが頷く様を見てから、彼は話を続ける。


「召喚する標的は私がお前たちの戦いぶりを見て、判断する。無駄に強過ぎる敵も、逆に弱過ぎる敵も出すつもりはないということを先に言っておく」


「はい! 質問っす! 敵って何体出てくるんすか?」


「そこははっきりと明言はできない。集団に対するお前たちの戦いを見たいと思えば数は増えるし、逆に強力な個体への対処を見たいと思えば数は減るからな。まあ、三パターンほどの戦いを見せてもらうつもりだ」


「了解です! 教えてくださってありがとうございます!」


 簡単にいえば、敵は三ウェーブ来るということだ。

 多いのか少ないのかわからないが、アピールするだけの時間は十分にあるだろうと考えるユーゴへと、ウノがある物を差し出す。


「クレイ、先にこれを渡しておく。試験中はこれを装着するんだ」


「ん? なんすか、これ? 腕輪……?」


 ウノが差し出した金色の大きな腕輪をまじまじと見つめ、首を傾げるユーゴ。

 まあ、言われた通りにするかと右腕にそれを着ける彼へと、ウノが言う。


「その腕輪は装着者に弱体化の魔法デバフをかけるためのものだ。弱体化の内容は管制室が決める。まあ、そこまで強力な魔法をかけるつもりはないから、そこは安心しろ」


「なるほど……俺が一人で暴れて、ネリエスの出番がなくなるのを阻止するための措置っすね?」


「それもあるが、セレインがこの事態にどう対処するかを見るためでもある。勝手に腕輪を外すなよ、クレイ」


「わかってますって! そもそも、ブラスタを展開したら外せなくなりますしね!」


 ユーゴにデバフをかけるための腕輪を装着させたウノが、注意事項を説明する。

 特にこのハンデを重く思っていないユーゴがからからと笑う中、ウノは今度はネリエスへと顔を向け、口を開いた。


「最後に、試験開始後は外部からの干渉を防ぐために演習場に結界が張られる。クレイと二人で召喚される標的を倒し、実力を証明しろ。わかったな?」


「は、はい……っ!」


「……説明は以上だ。質問があれば、今の内に聞いておけ」


 全ての説明を終えたウノが、最後にそう締めくくる。

 二人が何も言わないことを確認した後、戦いを見守るために演習場から出ていこうとした彼は、その寸前に立ち止まるとネリエスへと思い出したように言った。


「セレイン……既にお前もわかっているだろうが、先に受けた筆記試験の点数は合格ラインを超えている。この実技試験さえ合格すれば、退学処分を取り消しになるだろう……励めよ」


「はい! あ、ありがとうございます!」


 本来ならば筆記試験の合否を伝えることはタブーなのだろうが、それを敢えて破った上でエールを送ってくれたウノへとネリエスが感謝を述べる。

 ユーゴもまた、ミザリーの一時的な引っ越しを認めてくれた彼に感謝しながら、改めてウノが生徒想いのいい先生であることに笑みを浮かべる中、監督室に向かった彼の声が響いた。


「では、これより試験を開始する。結界を張り次第、標的を召喚するぞ」


「了解っす! 準備は万端、いつでもOKですよ!」


 ユーゴが手を振りながらウノへとそう叫べば、彼は管制室に合図を送ってみせた。

 少し間があって、青白いバリアーのような結界が張られるのと同時に演習場内に三体のアラクロが出現し、その様子に二人は試験が始まったことを実感する。


「ギギッ! グギギギギッ!!」


「ユーゴさん、来ます! 戦闘準備を!」


「おう! 最近はダークヒーローっぽいやつばっかりやってたから、今日は正統派に――!!」


 唸るアラクロたちがこちらへと敵対行動をしてきたことを見て取ったネリエスがユーゴへと声をかける。

 ユーゴもまた、戦意を燃え上がらせると共に右腕を真っ直ぐに斜め左方向へと伸ばしながら、ブラスタに魔力を込め、叫んだ。


「変身っ!!」


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