そして、その日がやって来る

 ……それからも、ネリエスの訓練は続けられた。


 基本的なことを学び、積み重ね、それを習得する。

 本当に基礎の基礎とでもいうべきことの連続であったが、その中で彼女は着実に力を付けていった。


 力が付けば自信も付き、自信が付けば精神が安定する。

 少しずつ、だが確実に前に進み続けるネリエスは、少し前まで引きこもっていたことが嘘のように明るい表情を見せるようになった。


 ヴェルダやピーウィーといった友人に恵まれていたことが、彼女の最大の幸運だったのだろう。

 あるいは、彼らに気にかけられるような優しい性格をしていたことがその幸運につながったのかもしれない。


 なんにせよ、一時は退学の危機に瀕していたネリエスも、それを十分に回避できるところまで成長を遂げた。

 ルームメイトであり、新たな友人であるミザリーとの約束もまた、彼女の強い心の支えになってくれているようだ。


 そうして迎えた筆記試験の日……友人たちからの若干過剰な応援に見送られながら、ネリエスは試験を受けに行った。

 あくまで退学させるか否かを決める試験であるため、問題自体は難しくなく、その上、地頭もよく、対策もしっかりしていった彼女にとって、この程度は何の心配もない話だった。


 唯一の懸念点である精神面も友人たちのお陰で安定しており、特にミスすることもなく試験を終え……自室で待ってくれていたユーゴたちと共に行った自己採点では、合格ラインを軽く上回る点数を叩き出した。

 そこでも友人たちは少し過剰なくらいに喜びを見せており、そんな彼らの姿にネリエスは苦笑を浮かべたものだ。


 だが、そうやって自分のことのように喜んでくれる友達が傍にいてくれることは、とても嬉しかった。

 改めて、前向きになったネリエスは、もう一つの試験である実戦形式の実技試験に向け、気持ちを切り替える。


 訓練の中であの日のトラウマが蘇ることもあったが……それでも、ネリエスは自分のできることをやろうと考えていた。

 今日、この日まで積み重ねてきた、友達と協力して身に付けてきた全てを見せるだけだと、気負うことなく気持ちを整えたネリエスは、ついにその日を迎える。


「ネリエス、頑張るのよ。応援してるからね」


「鍛えたものを出しきれば大丈夫だ。訓練の成果、見せつけてこい!」


「うん……二人とも、本当にありがとう……!!」


 実技試験当日……試験開始前にピーウィーとヴェルダから応援されたネリエスは、硬い笑みを浮かべながら二人へと応える。

 今日、こういった形でこの日を迎えられたのも、全ては二人が自分を気にかけ続けてくれたお陰だと……最後まで自分を見捨てないでくれた友人に感謝しながら、ネリエスが口を開く。


「試験、無事に合格できたらさ……また、パーティ組んでくれる?」


「当たり前でしょ! また一からやり直しましょう! 一緒に!!」


「そのためにも、絶対に合格してこいよ! 信じて待ってるからな!」


「うん!」


 既に涙目になっているピーウィーと、普段よりも冷静なヴェルダ。

 いつもと役割が逆だなと思いながら、友人たちの新しい一面を見たネリエスが微笑みながら頷く。


 きっと、自分が知らない友人たちの新たな一面は、まだまだあるのだろう。

 ネリエスにだって、それなりに長く組んでいたが、二人に見せていない顔があるのだと思う。


 これからも二人と一緒に活動し、仲を深め、お互いに気持ちを重ね合わせていくためにも……絶対に試験に合格してみせる。

 そう、ネリエスが改めて覚悟を決めたタイミングで扉が開き、ユーゴが顔を出した。


「ネリエス、準備はいいか?」


「はい! 大丈夫です!」


 ユーゴの問いかけに大きな声で返事をしてから、深呼吸。

 気持ちを整えたネリエスが、息を吐きながら心を落ち着かせていく。


 もう、全部を出しきるだけだ。やれることをやって、全力でぶつかるだけ。

 自分自身に言い聞かせるようにそう考えた後、顔を上げたネリエスはピーウィーとヴェルダを見つめながら、二人へと言った。


「じゃあ、行ってきます!!」

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