試験と、その後のことを
「ネリエスさん、今日はお疲れ様でした。訓練をしてみて、手応えはどうでしたか?」
「あ、ええっと……まだはっきりと言えることはない、ですかね……? 本当に始めたばかりですし……」
「確かにそうですね。しかし、これを続けていけば力が付いてくるはずです。一緒に頑張りましょう」
自然に、今日の訓練についての話題を振ってくれたミザリーへと、心の中で感謝するネリエス。
サイズ感が同じという部分もあるが、昨夜から聞き続けているこの平坦なしゃべり方がなんだか気分を落ち着かせてくれると考える彼女へと、ミザリーが言う。
「今までと違うことを試すというのは大変ですよね。私も経験がありますから、気持ちはわかります」
「ミザリーさんもファイトスタイルを変えたって仰ってましたもんね」
「はい。大変でしたが、そのお陰で今の私があります。そうやって試行錯誤をしていく中でもこれまでやってきたことが役に立つこともありました。これからネリエスさんにも、過去に積んだ経験が役立ってくれることがあると思います」
「過去に積んだ経験、ですか……」
そう言われて改めて考えてみると、シアンと組んでいた時に学んだことも少なからず存在していることに気付く。
複数の補助魔法だったり、相手とのコミュニケーションだったり、そういった得たものだって確かにあるはずだ。
シアンの指示に従っていたせいで、そうやって得たものをどう活かすか? ということに関しては全く考慮せずにきたわけで、それが自分の最大の問題だったんだろうなと思い至ったネリエスは、浴槽に背中を預けながら呟いた。
「確かにそうですね……得た技術も、反省点って、役立つことばかりです」
「それを理解できるだけの前向きさを取り戻せたなら良かった。そう、私は思います」
頬笑みを浮かべながらのミザリーの言葉に、ネリエスが少し顔を赤らめる。
ピーウィーもそうだが、なんだかんだで自分は友達に恵まれているのだなと考える彼女へと、ミザリーはこんな質問を投げかけた。
「ところでなんですが……実技試験で組む相手は誰にするつもりですか?」
「ああ……まだ全然考えてなくって……誰にお願いするのがいいですかね……?」
実技試験の内容は、ネリエスと彼女が指名したもう一人が組んで共に挑むというものだ。
自分の人生の今後を左右するパートナー選びに関してだが、本日は訓練のことでいっぱいいっぱいだったネリエスはまだその相手を決めるどころか、候補を選べもしていない。
まあ、自分の訓練に付き合ってくれている誰かに頼むのがベストなのだろうが……と考える彼女に対して、ミザリーが提案をする。
「でしたら、ユーゴ師匠に頼むのがいいでしょう。私たちの中で一番強いのは師匠ですしね」
「ユーゴさんかぁ……確かにそうですよねぇ……」
本日、仮想敵として訓練の相手になってくれたユーゴの強さは、文字通り身に染みて理解している。
様々な特徴を持つ鎧とその扱い方によって、あらゆる状況に対応できるそのオールマイティさは本当に頼りになるし、彼ならばどんな相手でも問題なく対処してくれるだろう。
そこに自分の補助魔法が加われば、まさに怖いものなしというやつだ……と考えるネリエスであったが、微妙に迷ってもいた。
ユーゴは強いが、強過ぎる。彼が活躍したところで、本当に自分の貢献があったといえるのだろうか?
シアンからユーゴへと、頼る相手が変わっただけということにならないだろうか……と悩むネリエスへと、ミザリーがこんな助言を送る。
「お気持ちはわかります。であるならば、その不安を師匠や友人に話してみるのが一番です。絶対に、ネリエスさんの力になってくれますから」
「……そうですね。一人で悩むより、しっかり話をした方がいいですよね」
今の自分は一人ではない。部屋に引きこもっていた時とは違って、周囲には沢山の仲間がいる。
抱えている不安や迷いも彼らに話すべきだと、そう考えて前向きになった彼女は、ミザリーへとこんな提案をした。
「ミザリーさん。私が無事に試験に合格できたら、一緒にパーティを組みませんか? ミザリーさんが迷惑じゃなければ、の話ですけど……」
「迷惑なんかじゃありませんよ。ネリエスさんのパーティと私のパーティ、組み合わさるとかなりちょうどいいと思います」
「ミザリーさん、どこかのパーティに参加なさってるんですね。大丈夫なんですか?」
「問題ありません。パーティ、といっても二人組ですし……どちらも前衛なので、後方から支援がしてくれる仲間がほしかったところなんです」
「だったらちょうどいいですね! 私たちの場合は後衛の方が多いから、二人も前衛が加わってくれれば安定感が増します!」
そんなふうに話をする二人は、とても楽しそうだ。
試験に合格して、その先の目標を立てて……そこからのことを考えながら揃って天井を見上げた後、ネリエスが言う。
「私、頑張りますね。約束、守りたいですから……」
「はい。私も微力ながら応援させていただきます」
平坦なようで、その実感情がしっかり籠っているミザリーの声に頬笑みを浮かべるネリエス。
自分が昨日より前向きになっていることを自覚した彼女は、自分の胸がアンヘルたちにも負けず劣らずに弾んでいることに楽し気な感情を抱くのであった。
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