訓練は続くよ、どこまでも
「すごいな、お前! 今の勝負、実質的にお前の勝ちみたいなもんだろ!?」
「……私の勝ちであるものか。ユーゴの奴はまだ本気を出していない。それに――」
今の攻防、自分にはネリエスの強化魔法がかかっていたが、ユーゴは素の状態で戦っていた。
紫や炎の鎧といったブラスタの別形態も使っていなかったし、自分は有利な状態でただ彼の攻撃を防いでいただけだ。
最後のネリエスを狙った動きも、彼女への戒めのためにわざとああしたのだろう。
足払いで崩された際、そのまま自分を狙われていたら危なかったということを理解しているマルコスには、今の戦いで自分が勝ったなどとは微塵も思えなかった。
(強化魔法をかけた状態でこれか……奴と私の間には、どれだけの差があるんだ?)
これを勝利と判断して慢心することなんてできない。むしろ、自分とユーゴとの実力差を見せつけられた気分だ。
無論、訓練ということで自分も本気を出したわけではないが……それでも、やはり思うところはある。
とまあ、そんなふうにマルコスが悶々と色んなことを思い悩みながら、この実力差を埋めるにはどうすればいいのかと考えていると……?
「ええい! もう我慢できないでござる!!」
「えっ……!?」
なんだかとっても元気というか、底抜けに楽しそうな声が響いたかと思った次の瞬間、訓練場のど真ん中に何かが降ってきた。
ズドンッ、という衝撃を響かせながら着地したそれがサクラであることに気付いた一同の前で、戦闘用の巫女服モードに変身した彼女が瞳をキラキラと輝かせながら叫ぶ。
「拙者も! ユーゴ殿と! 手合わせしたい! でござる!!」
「え、えええ……っ!?」
若干バーサークが入っているというか、やっぱりあのタダカツの血を引いているんだな……と思わせる言動を見せるサクラへと、苦笑を浮かべながらユーゴが言う。
「あ、あはははは……じゃあ、こっからはサクラにも参加してもらうとするか!」
「えっ!? ええっ!? わ、私がヤマトの戦巫女さまに指示を出すんですか!?」
「そこは気にしないでいただきたいでござる! 拙者も今はネリエス殿と同じ、この学園に通う生徒の一人! 立場の差などないでござるよ!」
留学生であり、VIPでもあるサクラに自分が指示を出すのかと、下手をしたら二重の意味で首が飛ばないかと不安になるネリエスへと、あっけらかんと笑いながらそう述べるサクラ。
そう言われてもな……と心の中で思いながらも、こうなっちゃったんだから仕方がないという感想を抱きもしているネリエスの前で、声色に少し楽しさをにじませながらユーゴが口を開く。
「さて……そんじゃあ、俺も少し気合入れるか。超変身!!」
再び変身ポーズを取ったユーゴがブラスタの形態を変化させる。
重量と共に攻撃力、防御力を増させた紫の鎧へとフォームチェンジした彼は、自分を見つめるネリエスたちへと不敵な笑みを向けながら、挑発するように言った。
「さあ、お前らはこれをどう攻略する? コンティニューしてでも、クリアしてみな!」
「あれは……前に病院で見たやつか! 剣が無いとはいえ、パワーと硬さは半端ねえぞ!?」
以前、病院での事件にて、紫の鎧の力を目の当たりにしたヴェルダが目を丸くしながら叫ぶ。
彼と同じか、それ以上にその力を理解しているマルコスたちもまた、自分たちの適性を踏まえながら話をしていく。
「見ての通り、あの形態は重量と引き換えに圧倒的な攻撃力と防御力を獲得している。私は攻撃は凌げるかもしれないが……ダメージを与える決定打はないな」
「同じく、普通の形態でもパワー負けしてる俺には厳しそうな相手だな……ネリエス、どう攻める?」
「え、ええっと……物理的な防御はすごいけど、魔法防御はそうでもないとしたら、属性攻撃ができる人がいてくれればなんとかなるんじゃないかな? 私も一応、属性攻撃付与の魔法を使えるしさ」
「ならば、拙者の適任でござるな! ご覧の通り、水を使った属性攻撃ならお手の物! 攻撃が届く範囲も長く広いでござるから、機動力と組み合わせれば押し切れるでござるよ!」
「あるいは、手数に優れる私に属性攻撃付与の魔法をかけるのもいいかもしれませんね。機動力という面でも自信がありますし、時間はかかるかもしれませんが、相性はいいかもしれないです」
「そうそう、そういうのだよ! ヒーローの条件・その五……仲間と手を取り合い、共に戦える存在であれ。一人じゃできないことも、みんなで協力すれば可能になる! 力を合わせることで何倍にも強くなれる! それがプリ……ごほん! ヒーローだからな!」
「は、はい!」
サムズアップしながらのユーゴの言葉に、大きく頷いて返事をするネリエス。
指示されて動くのではなく、仲間たちと意見を出し合った上で自分なりに考え、判断を下す……大変なことだが、協力して訓練していく中でできることや可能性が広がっていく感じがして、気持ちが充実していった。
自分に何ができるのか? 仲間が得意としていることはなんなのか? それを活かすためにどんな強化魔法を使うか?
考えるのが楽しいし、上手くいった時には嬉しいと思う。戦いは苦手だが、みんなで協力して何かを成し遂げたという経験は間違いなくネリエスの自信につながっていた。
「いいなぁ……! 私も仲間に入れてほしいな~!」
「そう焦るなって。遠距離攻撃勢はもう少し慣れた後に参加することになるだろうさ。今はここで見守ってやろうや」
「まあ、そうね。ユーゴのプランを崩しちゃ悪いものね」
一足先に飛び込んだサクラが楽しそうに訓練している様子を見たメルトたちが、羨ましそうに感想を呟く。
そうやって彼女たちがネリエスの訓練を見守る中、さらにまた離れた位置から憎々し気な目で一同を見守る人物がいた。
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