ユーゴVSマルコス!(訓練です)

「おいおい、俺が好敵手ライバル相手に手を抜くような奴だと思ってんのか? 気を抜いて戦えるような相手じゃねえよ、お前は」


「はっ……! わかっているならそれでいい。純粋な一対一とは言えない勝負だが、お前に私の実力を見せるには絶好の機会だ! 勝たせてもらうぞ、ユーゴ!」


 自分の言葉にそう返してきたユーゴへと盾を構え、突っ込むマルコス。

 その突進を横にステップして回避したユーゴは、真横からマルコスを殴りつけようとしたのだが、瞬時に反応した彼に防がれてしまった。


「へっ! やるじゃねえか!!」


「そちらこそ! それでこそ私の終生のライバルだ!!」


 ユーゴの攻撃に反応し、防御の構えを取ったマルコスも見事だが、ユーゴもまた回避の段階から次の手を考えて動いていた。

 突進を避ける際、ギガシザースを持っていないマルコスの右半身側へと動き、彼の防御を遅らせようとしていたのだが、それでもマルコスは反応してついてきた。


 最初からそうこの突進攻撃が当たると思っていなかったから、次の行動を考えていたこともあるのだろう。

 しかし、何よりユーゴならばどう動くか? という部分を理解しているからこその反応を見せたマルコスは、そのまま彼の攻撃をギガシザースで受けつつ、隙を見て反撃を繰り出していく。


「せやっ! はあっ!!」


「ふんっ! 甘いぞ、ユーゴっ!!」


 繰り出されるワンツーコンビネーションを、回し蹴りを、魔力を込めた拳での一撃を……難なく防ぐマルコス。

 防御を強化する魔法をかけられているとはいえ、あのユーゴの猛攻を平然と受けきっている彼の実力には、見守っているネリエスたちもびっくりだ。


「マジかよ……!? 強化があるとはいえ、マルコスの奴、あの攻撃を受け止められるのか……?」


「言ったでしょう? マルコスさんの実力は確かだって。こと防御に関しては、あの人以上に秀でている人を私は知りません」


 ヴェルダには、あっさりと自分を吹き飛ばしたユーゴの攻撃をあれだけ耐えているマルコスのすごさが身に染みて理解できていた。

 そんな彼に対して、どこか得意気にミザリーがそう言う中、ユーゴが次の動きを見せる。


「やっぱそう簡単には崩せねえよな、お前は! なら、こうさせてもらうぜ!!」


「ぬっっ!?」


 そう言ったユーゴの姿が、マルコスの視界から消えた。

 次の瞬間、足を払われたマルコスは体勢を崩され、その場に尻餅をついてしまう。


 あっ、と戦いを見守っていた面々が思わず声を上げる中、ユーゴは体勢を崩したマルコスへと追撃を……行わなかった。


「悪いが、こっちを狙わせてもらうぜっ!!」


「えっ!? あっ! あっ!?」


 ユーゴが狙ったのは、戦いを見守っていたネリエス……マルコスに強化魔法をかける、補助役の彼女の方だ。

 思い切り跳躍をしながら拳に魔力を込め、自分目掛けて飛び掛かってくるユーゴの姿にパニックになったネリエスは、防御も回避もできないまま、その場でおろおろとしていたのだが――?


「……おいおい、随分とつれないことをしてくれるじゃないか。私を放っておいてくれるなよ、ユーゴ」


「げっ……!?」


 ネリエスへと襲い掛かっていたユーゴの体が、空中でぴたりと止まった。

 その体を黄金の魔力の鋏が左右から挟んでいる様を目にしたネリエスが息を飲む中、ユーゴを捕えたマルコスが思い切り彼をぶん投げる。


「うおわあっ!?」


 ネリエスの反対方向へと放り投げられたユーゴは、驚きの声を上げながら地面を二度、三度とバウンドしていった。

 呆気にとられながらこの攻防を見守っていたネリエスであったが、自分の傍に歩み寄ってきたマルコスに声をかけられ、顔を上げる。


「……無事だな?」


「は、はい。ありがとうございます……」


「当たり前のことをしただけだ、礼は要らん。しかし、お前は自分が戦いに参加しているということを自覚するべきだ」


「……!」


 マルコスの言葉に、自分が彼とユーゴとの戦いを観戦するだけの状態になっていたことに気付いたネリエスがびくっと体を震わせる。

 ヴェルダやミザリーと違い、自分は戦いに参加している人間であるという意識が希薄になっていたことを彼女に指摘したマルコスは、そのままこう話を続けた。


「目の前の敵が厄介なら、それを強化する後衛から倒せばいい……ユーゴの判断は妥当なものだ。実際の戦いでは、お前から狙われることも少なくないだろう。敵に襲われない、襲われたとしても仲間にカバーしてもらえる、そんな位置取りを心掛けることもお前の役目の一つだ」


「は、はい……」


「まあ、今のは私に全幅の信頼を置いていたから、ああしていたということにしてやろう。次からは気を付けろよ」


 誰にどんな強化魔法をかけるか? どのタイミングで魔法をかけ直すか? 後衛として、どのポジションに位置を取るか? ……考えることは山ほどある。

 シアンに指示を出されていた時とは違い、全てのことを状況を見つつ、自分で判断しなければならないことの難しさに直面したネリエスが頭を抱える中、ミザリーがそんな彼女に声をかけた。


「すごいですよ、ネリエスさん。もう訓練が次のステップに移行しています。私の時には考えられない速度です」

 

「ダメな部分がわかっただけですよ。すごいだなんて、そんな……」


「改善点が早期に判明するということは、修正に時間をかけられるということです。協力して、問題点を潰していきましょう。私たちはそのためにいるのですから」


「……ありがとうございます、ミザリーさん」


 考え方を変えれば、ミザリーの言う通りかと……ネガティブになる必要はないのだと考え直したネリエスが彼女へと感謝を述べる。

 その間、マルコスは戦いを見守っていたヴェルダから興奮気味な賞賛の言葉を投げかけられていた。

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