訓練しよう、そうしよう!
ネリエスが受ける試験は、筆記と実技に分かれているらしい。
ピーウィー曰く、ネリエスは筆記に関しては何の心配もないだろうから、問題は実技の方だそうだ。
実技試験の内容は、ネリエスと彼女が指名した生徒が二人組になって、学校側の用意した模擬標的と戦うというもの。
支援役の彼女がその戦闘の中でどれだけの活躍ができるかを教師が見て、判断するらしい。
試験官は厳格だが生徒想いでもあるウノが担当するとのことで、よっぽどのことがなければ落ちることはないとは思うが……だからといって、油断できる要素は微塵もない。
試験に向け、できる限りの備えをしておくべきだろうという判断を下したユーゴたちは、早速訓練場に赴き、ネリエスの特訓を行っていた。
(余談だが、リュウガはドアを破壊した件でネリエスを委縮させかねないと言って、敢えてこの場に来ていない)
「ネリエス! 強化を頼む!!」
「はいっ!」
怒号のように響くヴェルダの叫びを受けたネリエスが、彼へと強化魔法をかける。
魔力を受け取り、攻撃力を強化したヴェルダは、そのまま並ぶアラクロたちへと拳を叩き込んだ。
「ウギャアアアアアアッ!!」
「よし! どんなもんだ!!」
悲鳴を上げ、吹き飛んだアラクロが消滅する様を目にしたヴェルダが威勢よく叫ぶ。
ここまでの戦いを見守っていたユーゴは、パンパンと手を叩くと彼らに声をかけた。
「お疲れさん。そろそろ休憩にするか」
ユーゴの言葉を受け、訓練場からヴェルダたちが出てくる。
アラクロにトドメを刺したヴェルダ、彼に強化魔法をかけたネリエスと続き、その後で並んで出てきたミザリーとマルコスを呼び止めたユーゴは、二人に感想を尋ねた。
「二人とも、お疲れさん。一緒に戦ってみてどうだった?」
「悪くはない。扱える強化魔法の種類も効果も、なかなかといった感じだ」
「そうですね。流石は英雄候補と呼ばれるシアンさんが選んだ方だと思います」
特訓とはいったが、初日の今日はネリエスが久々の戦闘ということもあって、肩慣らし程度の訓練に留めている。
マルコス、ミザリー、ヴェルダの三人と共に、模擬標的として召喚したアラクロと戦ってもらうというのがそれだ。
このメンバーも決して適当に決めたのではなく、それぞれ防御、速度、そして純粋な力に秀でた者を選出した。
その上で、ユーゴはピーウィーたちと共に戦いを見守り、ネリエスの戦いぶりを評価しようと考えたわけだ。
見たところ、ネリエスの戦いぶりに問題があるようには思えなかったが……今回は弱い魔鎧獣であるアラクロが相手だったからだという可能性もある。
それに、外から見てもわからない問題も、内側からならわかるかもしれないという考えの下、訓練に参加した二人に質問してみれば、素直な賞賛の言葉に続いて、気になった部分についての言及が始まった。
「ただ、強いて言うならば判断が甘いかもしれんな。受け身になり過ぎていると言った方が正しいかもしれん」
「確かにそうですね。指示を受けるまで、あまり動こうとはしませんし……そこが気になったといえば気になったかもしれません」
「ふ~む、なるほどなぁ……」
考えてみれば、ヴェルダが最後の一撃を叩き込む時も、ネリエスは彼の指示を受けてから強化魔法をかけた。
その前の戦いから見ても、指示待ちになっている状態が多かったかもしれないと考えるユーゴに対して、話に加わってきたピーウィーが言う。
「それは仕方がない部分もあるのよ。
「そうですね。ちなみに、シアンさんのパーティとして戦っている時はどうしていたのですか?」
「シアンが全部指示を出してたわ。あの人、それなりに判断は良かったし、相手の弱点とかもすぐに見抜けてたしね」
「英雄候補と呼ばれるだけあって、ある程度は指揮能力にも秀でていた、ということか」
ピーウィーの言う通り、強化魔法を使う人間には考えなければならないことが多くある。
攻めの力を強めるべきか、守りを固めるべきか。魔力を温存するために単体強化に留めるか、はたまた全体にバフを撒くべきかなど、やれることが多ければ多いほど、その役目は複雑になっていく。
シアンのパーティに参加していた際は、その辺りのことはリーダーに任せていたが……今は、それが仇になっているようだ。
どの状況で、どんな強化魔法を、誰にかけるか? その辺りの判断をシアンに一任していたネリエスは、自分でそれを決めるのに慣れていない。
決してシアンと組んでいた時のやり方は間違っていたとは言わないし、最適解の一つではあるとは思うのだが、今回はそれではいけない理由があった。
「今回の試験はネリエスの動きが見られる。自分で考えて動かなきゃダメだし、ネリエスの自信につながらないと思う」
「確かにな。だが、どうする? いい案はあるか?」
誰かに指示を出されるままに動くだけでは、試験に落ちてしまう可能性がある。
仮にそれで試験に受かったとしても、ネリエスが自分で考え、動き、戦いに貢献しなければ、この先につながらないだろう。
指示を待つのではなく、自分なりに考えて動けるようなってほしいと……そう語るユーゴの意見に同意したマルコスが、ネリエスをそうさせるためのいい案はあるのかと尋ねる。
その質問に対して頷いたユーゴは、仲間たちとネリエスを見回してからこう答えた。
「方法はある。みんなに協力してもらって、午後からの訓練の内容を変えてみよう!」
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