ハイヌーン・ソードファイト
「やっちまえ! あの舐めたガキを血祭りに上げろ!」
「うおおおおおおおおっ!!」
指揮を執るギモールの叫びを合図に、悪漢たちが雄叫びを上げてリュウガへと突っ込む。
その先頭に立つのは、先ほど彼に蹴り飛ばされた男……この屈辱をそのままにしてなるものかと、怒りに満ちた表情を浮かべながらリュウガへと挑みかかる。
「お前はこの剛力のグローザ様が叩きのめして――はげっ?」
丸太のように太い腕を振り上げ、リュウガへと殴り掛かろうとしたところで、グローザは天地がひっくり返っていることに気付いた。
何が何だかわからないままに崩れ落ちた彼を見向きもしないまま、リュウガが呟く。
「まず三。残りは九十七……いや、これで九十か」
最初の一刀でグローザを含む三人を斬り捨てたリュウガが、水の魔力を纏わせた龍王牙を振るう。
圧縮された水の刃が悪人どもを切り裂き、吹き飛ばす中、小さく息を吐いた彼は淡々と言った。
「……それで、隠れているつもりか? そこにいるのはわかってるぞ」
「キキキッ! なら、これもわかっているだろう!? 暗殺者ジンギに背中を取られた時点で、お前の死は確定したってこともなぁ!」
カメレオンのように姿を消していた暗殺者が、姿を現すと共にリュウガへと襲い掛かる。
無防備な背中に鋭い爪を突き立てようとしたジンギであったが、それよりも早くに彼の体があべこべに切り裂かれたではないか。
「ぎっ、ぎやあああああああっ!?」
「嵐龍剣術・風の型【風刃結界】……敵が背後にいるとわかっていながら、何の対処もしないわけがないだろう」
「ぶべっ……!」
先んじて敵が狙うであろう背後に罠を仕掛けていたリュウガが、そこに飛び込んできたジンギへと回し蹴りを食らわす。
ズタボロになった彼もダウンする中、リュウガは敵の真っ只中に斬り込むと愛刀を振るい続けた。
「五、三、五……更に四。さっきの男も合わせて十八か。そろそろ数えるのも面倒になってきたな」
軽くため息を吐きながら、続く横薙ぎの一撃で数名の悪党を斬り倒すリュウガ。
四方八方から迫る敵を斬り、突き、蹴り飛ばして倒していった彼は、三方向から自分を取り囲むようにして魔法を構える男たちの姿に気付く。
「今回のハンティングに勝つのは僕だ!」
「いいや、俺の魔法で仕留めてやる!」
「負けた奴は勝った奴に何か奢るんだからな!!」
炎、水、雷。それぞれが三属性の魔法を発動した男たちが緊張感のない声で話し合っている。
その会話と、狩りという単語を聞いたリュウガが目を細める中、男たちは彼に向けて魔法を解き放った。
「死ねっ! 死ねっっ!!」
三方向から迫る魔法は、リュウガの周囲にいた悪党たちを巻き込んで突き進んでいく。
しかし、彼は一切焦ることなくそれを刀で受けると、一つの纏めた魔法を男たちの一人に向けて弾き返してやった。
「えっ? うっぎゃあああああっ!?」
「なっ!? 嘘で――ぶひっ!?」
予想外の展開に驚くまた別の顔面に拳が叩きつけられる。
黒焦げになって転がった男と、鼻血を出して倒れ伏した男を交互に見つめながらたじろいだリーダー格の男は、明らかに動揺しながらヒステリックに叫んだ。
「そっ、そんなっ!? どうして僕たちがこんな目に……!?」
「これまでは無抵抗な相手を標的にしてきたみたいだが……これで少しは、狩られる側の気持ちが理解できたか?」
「ひっ! ひいいっ!?」
威圧感に負け、情けなく腰砕けになった男の顔面にリュウガの蹴りが叩き込まれる。
遊びで命を奪うような外道の血で、父から託された刀を汚したくはないと……そう考えて敢えて蹴りで男を叩きのめしたリュウガは、そこからも残る悪党たちを斬り捨てていった。
「うわっ!? わあああああああっ!!」
「な、なんだこいつ!? ぐへおおっ!?」
「退けっ! 俺が倒してやっ、うぎゃああっ!!」
一人、また一人と倒されていく悪党たちの悲鳴が響く。
最初は圧倒的な人数差があるからと余裕を見せていたギモールも、仲間の数が半分を切った辺りから焦り始め、十分の一程度まで減った今の段階ではかなり動揺している。
「く、クリストファー! そのガキを殺せ! 吸血鬼の異名を持つお前の力を見せてみろ!」
「お任せあれ! ふふふ……っ! よく頑張りましたが、あなたもそろそろ限界が近いでしょう? このレイピアであなたを貫き、その後はあなたのかわいいガールフレンドの血をたっぷりと味わわせていただきますよ!」
ぺろり、とレイピアの剣先を舐めた男が気取った態度を見せる。
吸血鬼の異名を持つクリストファーは己の審美眼に適ったライハを次なる標的と定めているようだ。
「さあ、お死になさい! 華々しく散らせてあげましょう!」
「……二つ、言っておく。限界どころか、ようやく体が温まってきたくらいだ。それと――」
レイピアでの刺突を潜り抜け、クリストファーの剣を切り上げで弾き飛ばしてみせるリュウガ。
まるで息の上がっていない彼の冷静な対応に驚きを見せるクリストファーへと、リュウガは苛立ちを多分に含んだ声でこう告げた。
「――僕と奴は、恋仲じゃあない。ふざけた勘違いをするな」
「ぎええっ!」
恐らくはここまでの戦いの中で一番力が籠った斬撃を見舞われたクリストファーが情けない悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。
その勢いのまま、大きく龍王牙を振るったリュウガが斬撃を飛ばせば、残る男たちも吹き飛ばされ、地面に倒れ伏してしまった。
「これで九十八、残るは――」
「ひ、ひいっ!? ガベジン! ガベジンッッ!!」
「わかってる、聞こえてるさ……! 戦いを邪魔されたくなかったから、最後まで動かなかっただけだよ……!!」
ギモールの叫びに応えるようにして、後方に控えていた男がゆっくりと前に出てきた。
真っ黒な外殻と、そこから生えている幾つもの鋭い針を光らせながら、狂犬の異名を持つ男、ガベジンが人ならざる者になったその姿をリュウガに披露する。
「イキのいい奴だ。ここからは、俺が相手をしてやるよ……! この狂犬、ガベジン様がなぁ……!」
「……狂犬? ウニ男の間違いだろう?」
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