グッド・アクシデント
「言っとくが、もう一つのトリカゴの中にいるのは子供たちだけじゃねえ。選りすぐりの腕自慢どもも一緒だ。その数は百人! どいつもこいつも、悪名が知れ渡った荒くれ者どもよ!」
「百人だと!? どうやってそんな数を……!」
「行き場のない悪党どもの傘になってやっただけのことよ。連続暴行犯、剛力のグローザ! 人間の血を抜いて殺す残虐な手口から吸血鬼の異名を持つクリストファー! 他にも暗殺者ジンギにマンハントが趣味のセレブブラザーズなんて奴らもいる! 豪華な顔ぶれだろう?」
レーゲンが出した名前は、全て警備隊が指名手配して行方を追っている凶悪犯ばかりだ。
彼らを配下に加えていたこともそうだが、その全員が揃って暴動を起こしているとなれば、被害はとんでもないことになる。
襲われている人々がどんな目に遭っているか想像して血相を変えるジンバたちへと、レーゲンはとっておきの情報を伝えてやった。
「ククク……! 驚くのはまだ早いぜ? この百人の中にはな、あの狂犬ガベジンがいる! それも、魔鎧獣になれる力をくれてやった上でな!」
「ガベジン……!? あのガベジンか!? 奴までもがお前の配下にいるだと……!? レーゲン! 別動隊を止めろ! お前なら命令できるはずだ!」
「おいおい、立場が逆だろ? 命令するのは俺で、お前は従う側だ!」
再び、形勢逆転。残り半分の人質に加え、暴走を起こす別動隊の存在を明かしたレーゲンが邪悪な笑みを浮かべてジンバへと言う。
彼の部下たちの士気も盛り返す中、どこからか通信機を取り出したレーゲンは警備隊に向かって大声で自身の要求を叫んだ。
「全員、武器を捨てて大人しくしろ! この命令を聞くかどうかは自由だが……参考までに、いいものを聞かせてやるよ」
そう言いながらレーゲンが通信機を見せびらかすように持てば、そこから無数の悲鳴が聞こえてきた。
恐怖と絶望に染まったその叫び声が、暴れ回る別動隊に襲われる人々の声であることに気付いた一同の間に緊張が走る。
「クククッ……! こんなもんは序の口だ。お前らが逆らうっていうのなら、相応の地獄を見せてやるよ」
「レーゲン、貴様っ……!」
「悔しいか、ジンバ? 悔しいだろうなぁ! 所詮、お前ら警備隊なんざこの程度! 俺の方が何枚も上手なんだよ!」
ゲヒャヒャヒャと下品に大笑いするレーゲンに釣られて、彼の部下たちも大いに騒ぎ立てる。
そうした後でジンバを煽った彼へと、部下たちは楽し気に声をかけた。
「流石です、ボス! これでこいつらは何もできませんね!」
「警備隊の連中も嬲り殺しにしてやりましょうぜ!」
「ボス~! いい顔と体したメスガキどもも子供たちと一緒に連れてきましょうよ~! ってか、ここで食っちまっていいですか? いいですよね!?」
「ああ、全部好きにしろ。殺せ! 犯せ! 暴れまくれ! 全部俺が許可してやる!!」
人を痛めつけたい。女を犯したい。ただただ破壊衝動を発散したい。
そんな部下たちの欲望を肯定し、大声で叫んだレーゲンは、最高潮の盛り上がりを見せる部下たちを背後に警備隊たちへと言う。
「もう一度言う、武器を捨てて大人しくしろ! さもなきゃ、病院が地獄絵図になるぜ!」
「……ん?」
途中まで緊張感あふれる表情でレーゲンの話を聞いていたユーゴであったが……ある一言を耳にして、顔色が変わった。
今にも警備隊に襲い掛かったり、メルトたちの服を剥ぎ取ろうとして悪党たちが動き出そうとする中、彼は手を挙げてレーゲンへと声をかける。
「なあ、あんた! ……今、なんて言った?」
「は? 聞こえなかったのか? 武器を捨てて大人しくしろと――」
「いや、そこじゃない。その後、何て言った?」
「お前……俺を馬鹿にしてんのか!? お前からまず先に殺してやってもいいんだぞ!」
「いいから、教えてくれって。何処が地獄絵図になるんだっけ?」
この状況下で自分を馬鹿にしているとしか思えない質問を投げかけてくるユーゴの態度に苛立つレーゲン。
しかし、圧倒的に有利な状況でペースを乱される方が情けないと自分を律しながら、それでも若干自棄になりながら……彼の質問に答えてやる。
「病院だよ、病院! 医者や患者、見舞いの客たちを皆殺しにされたくなきゃ、お前も言うことを聞け!」
「ん……? 病院……?」
「あれ? 病院、ってことは……!」
大声で別動隊の襲撃場所を繰り返すレーゲン。
その答えを聞いて何かに気付いたアンヘルとサクラが顔を見合わせる。
他にもユーゴの仲間たちがとあることを思い出していく中……質問をした張本人は拳を強く握り締めると――
「よっしゃ、ラッキー!!」
「は、はあっ!?」
――盛大にガッツポーズをし、大声でそんなことを叫んでみせた。
予想外の反応に驚くレーゲンをよそに、慌てたジンバが喜ぶユーゴへと言う。
「何やってんだ、ユーゴ!? 何か考えがあるのかもしれないが、これ以上あいつを刺激するな!」
「大丈夫だ、ジンバさん! あの野郎の言うことに従うことなんてねえよ! だって病院には、あいつがいる!!」
「あいつ? あいつって誰のことを……あっ!!」
興奮気味のユーゴの言葉にあることを思い出したジンバが体をビクッと震わせながら叫ぶ。
そんな彼らの姿を見ていたレーゲンは、苛立ちを限界まで募らせると共に通信機越しに部下へと指示を出した。
「おい、ギモール! 誰でもいい! 適当に一人連れてきて、嬲り殺しにしてやれ! こっちの馬鹿どもに思い知らせてやる!!」
どうやら彼は部下に人質を嬲り殺しにさせることで、改めて自分の優位性をユーゴたちに教えようとしたようだが……ボスからの命令だというのに、その通信に応える者は誰もいなかった。
更に苛立ちを募らせながら二度、三度と声をかけ続け、ようやく相手からの反応を確認したレーゲンであったが、どうにも様子がおかしい。
「ぼ、ボスっ! レーゲン様!」
「どうした、ギモール? 俺の声が聞こえるか?」
「たっ、助けてください! すぐに増援を! お願いします! 助けて!!」
「おい、何があった!? 状況を報告しろ! まさか、もう警備隊が駆け付けたのか!?」
様子がおかしい腹心の部下へと、状況を報告するよう促すレーゲン。
しかし、ギモールは錯乱しているのかそれには答えず、喚き散らすばかりだ。
「化け物だ! 化け物がいる! たった一人で俺たち全員を……! たっ、助け、ぎゃあああああああああっ!!」
「ギモール!? ギモール! おい、返事をしろ! ギモール! ギモール!」
断末魔の悲鳴を最後に何も返事をしなくなったギモールへと、必死に呼び掛けるレーゲン。
ただならぬ様子に愕然とする彼へと、何があったのかを概ね理解しているユーゴが言う。
「ゲス野郎は何をやってもしくじる……ヒーローの言葉じゃねえが、その通りだな」
「なんだ……? 何がおかしい? こっちには狂犬ガベジンがいるんだぞ!?」
「狂犬だか何だか知らねえが、それより怖い奴が病院にはいるんだよ。そこを狙ったのが運の尽きだ」
「ふざけるな! 何が、どんな怪物が病院にいるってんだ!?」
自分が掛けた保険が、呆気なく失われたことがレーゲンにも理解できた。
冷静さも余裕も失って叫ぶ彼へと、兜の下で不敵に笑ったユーゴはこう答えを返す。
「狂犬よりも怖い、地獄の番犬……いや、番龍さ」
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