プリズンブレイク・ヒーロー
「ごべえっ!?」
その言葉が終わるや否や、トリカゴをぶち破って鎧に包まれた腕が飛び出してきた。
魔道具を覗き込んでいたレーゲンの顔面に拳が叩き込まれ、予想外の一撃を受けた彼が手にしていた魔道具を放り投げれば、空中で輝いたトリカゴが完全に破壊されると共に、中に閉じ込められていた人々が解放されたではないか。
「っしゃあ! 脱出成功だぜ!! 夜明けの刑事は伊達じゃねえ!」
「ユーゴ! お前、やってくれたな!!」
地面に降り立ち、左腕を構えながらそう叫んだユーゴへと、ジンバたちが駆け寄る。
彼と一緒に閉じ込められていた子供たちを警備隊が保護し始める中、顔を抑えながらよろよろと立ち上がったレーゲンが信じられないといった様子で口を開いた。
「ば、馬鹿な……! どうして脱出できた? トリカゴを内側から破壊するなんて、できるはずが……!」
「あんた、どうやら腕の悪い技師に修理を頼んじまったみたいだな。気付かなかったみたいだが、内側に修復し切れなかった傷が残って、外につながる亀裂になってたんだよ」
「な、なんだとっ!? あのジジイ、高い金を支払わせといて、そんな手抜きを……!」
「まあ、俺もそれに気付いたのはジンバさんの撃った矢が掠めた時だったんだけどな。お陰で助かったぜ、ジンバさん」
「……!」
先のジンバの一撃は決して無駄ではなかった。
あの一撃があったからこそ、ユーゴは修復し切れなかったトリカゴの亀裂に気が付くことができたのだと、彼の行動を嘲笑ったレーゲンへと告げたユーゴが堂々と言い放つ。
「レーゲン、お前を追い詰めたのはこの街の天使たちを泣かせる悪を絶対に許さない、
「ぬっ、ぐぅうっ……! お前ら! 逃げた子供たちをもう一度捕まえろ!! 商品を絶対に逃がすな!」
かつて味わった屈辱を払拭するどころか、時を超えて二度目の屈辱を味わわされたレーゲンが悔し気に唸る。
その後、部下たちに逃げた子供たちを再び取り押さえさせようとしたのだが……?
「……ほう? 面白いことを言うな。まさか、私たちを前にして子供たちに指一本でも触れられると思っているのか?」
そうやって盾を構えるマルコスの言葉通り、彼や警備隊の防御を前に犯罪組織の構成員たちは子供たちにまるで手出しができずにいる。
魔道具だけでなく人質までもを失ったレーゲンが歯軋りする中、ジンバが彼へと大声で叫んだ。
「レーゲン! お前の負けだ! 大人しくお縄に付け!!」
「く、くくく……! ぐあ~っはっはっはっはっは!!」
形勢は一気に逆転した。レーゲンたちの切り札であった人質の子供たちは奪還され、状況は警備隊に優位な方向へと傾いている。
そんな状況の中で大笑いし始めたレーゲンを見た一同は、一気に盤面をひっくり返されたことで彼が自棄になったのかと考えたが……再び自分の敵たちへと顔を向けたレーゲンは、怒りと愉快さを混在させた複雑な声で彼らへと言う。
「正直、この状況は予想外だった。だがな……俺もこれだけの部下を抱える犯罪組織のボスだ。警備隊が待ち受けてるであろうところに出向くってのに、何の保険もかけないで動くわけがねえだろ?」
「なに……!?」
「俺ばっかり見てないで、子供たちを見てみろよ。何か気が付かねえか?」
挑発的なレーゲンの様子を見れば、彼が何か奥の手を隠し持っていることがわかった。
彼の言葉通りに子供たちを見やったユーゴは、そこであることに気付くとジンバにそれを伝える。
「ジンバさん! 足りないんだ! 解放した子供たちの数とリストに載ってた子供たちの数が合ってない!!」
「なんだと!?」
昨夜、ジンバの下でレーゲンに捕まった子供たちのリストを見ていたユーゴは、助け出した子供たちの数が記載されていた子供たちの数よりも少ないことに気付いた。
助け出せたのは半分程度、残りの半分がどこか別の場所に捕まっていることを理解した彼らの前で、得意気にレーゲンが言う。
「俺のトリカゴを破壊されたのは予想外だった。だが、トリカゴは一つじゃあないんだよ! 修理する時、同じ能力を持つ魔道具をもう一つ作らせておいたのさ! もう半分の子供たちは、そっちに閉じ込めてある!」
「スペアがあっただと……!? もう一つのトリカゴはどこにある!? 答えろ、レーゲン!」
「ここにはねえよ。俺の腹心にして組織のNo.2であるギモールに持たせて、別行動させてある。こういう万が一の事態に備えてな! 今頃あいつらは思い切り暴れてる頃だろうさ! ははははははっ!」
二つ目のトリカゴと別動隊の存在を明かされたジンバたちの表情が焦燥の色に染まる。
警備隊が水の感謝祭に集まっている間に、もう一つの部隊が別の場所で暴動を起こしていると告げられた彼らが動揺する中、レーゲンは更に話をしていった。
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