ワンモア・パスト
「おい! あの生徒たちはどこに行った!? やられちまったのか!?」
「今、そんなことを確認している余裕があるか! 口を動かしてないで市民を守れ!」
シアンたちが逃亡した後も戦いは続く。警備隊たちは必死に逃げ遅れた人々を守るためにレーゲンやその部下たちの相手をしていた。
事前に備えをしてあったお陰で、ある程度は優勢に戦えているが……それでも、救助と戦闘を同時に行う難易度は高い。
市民を救助し、護衛する方に人員を割けば、その分暴徒たちの相手をする戦闘員が減る。
かといってそちらに人員を割いても逃げ遅れた人々を気にして全力で戦うことができず、どちらにせよ不利を背負う羽目になるわけだ。
人員の割り振りは現場を指揮する監督官が最適な答えを導き出し、自身もまた現場で戦いに臨んでいる。
それでも厳しい戦いが続く中、今まさに逃げ遅れた親子連れが悪漢に襲われようとしていた。
「ひっひっひ……! かわいいメスガキじゃねえか。こりゃあ、変態共に高く売れるぜ……!」
「い、いや……!」
「ど、どうか、子供たちだけは……!!」
児童誘拐組織の一員らしく、下っ端の一人は女児を狙っているようだ。
武器を手に、子供に手を伸ばそうとしたその悪漢であったが、その前に剣を構えたジンバが滑り込んできた。
「させんっ! うおおおおっ!!」
「なっ!? ぐああっ!?」
突進の勢いを乗せた刺突を受けた悪漢が大きく吹き飛ばされる。
肩で息をしながら振り返ったジンバは、怯える親子へと叫ぶようにして言った。
「今の内に逃げろ! もたもたするな!」
危険地帯から一刻も早く離脱するよう促すジンバ。その背後から、また別の悪漢たちが迫る。
仲間たちの仇を取るべく襲い掛かってくる二人組の下っ端たちへの対処が送れそうになったジンバであったが、その二人は彼の下に辿り着く前にまとめて吹き飛ばされた。
「ジンバさん、無事か!?」
「ユーゴか! 助かったぞ!!」
横から乱入してきたユーゴに危機を救われたジンバが彼に感謝を告げる。
そのまま、続けて襲い掛かってきた組織の下っ端構成員たちを協力してなぎ倒しながら、二人は会話をしていく。
「お前のところの生徒はどうなってるんだ!? あんな真似をするだなんて、どうかしてるぞ!?」
「俺に文句を言わないでくれよ! こっちだってあいつらには迷惑かけられてんだからさ!」
ジンバが剣を、ユーゴが拳を振るえば、その度に雑魚構成員たちは一人、また一人と倒されていった。
しかし、それでもまだまだ減っているようには思えない暴徒たちの姿に辟易としていたジンバは、そこで先ほど助けた親子連れがまだそこにいることに気が付く。
「おい、あんたら! ここは危ないぞ、早く逃げるんだ!」
「だ、ダメなんです……! 下の子とはぐれてしまって、その子を見つけないと……!」
「なんだって!?」
この混戦の中、はぐれてしまった子供がいるという話を聞いたユーゴが血相を変える。
まるでそのタイミングを見計らったかの子供の泣き声が響き、はっとした一同がそちらを向けば、レーゲンに捕まる寸前の子供がいるではないか。
「戦いの最中でも商品の補充は忘れない。本当に優秀な悪党だな、俺は」
「くそっ! マズいっ!!」
トリカゴを取り出し、その内部に子供を吸いこもうとするレーゲンの姿を目にしたジンバが唸る。
その瞬間にはもうユーゴは二人目掛けて駆け出しており、ジンバが気が付いた時には、彼は子供を庇うように抱き締めていた。
「はははっ! 何をしても無駄だ!」
「うっ! おおおおお……っ!!」
「ユーゴっ!!」
レーゲンを攻撃していては救助が間に合わないと判断したのか、咄嗟に子供を守ろうとしたのか……襲われる少年を抱きかかえて逃げようとしたユーゴであったが、トリカゴから発せられた光を浴びて一緒にその中に吸い込まれてしまった。
その全てを見ていたジンバは、息を飲むと共に過去の記憶をフラッシュバックさせる。
(同じだ……! あの日と、同じ……!!)
決して忘れることなどできない、運命の日。相棒であったトーマスを喪ったあの日、自分はユーゴと全く同じことをした。
逃げ遅れた子供を庇って共にトリカゴに捕まり、解放されたのは全てが終わった後……その記憶を思い返した彼は、自分がかつてのトーマスと同じ立場に在ることを理解しながら、懐の折り畳みボウガンを握り締める。
(相棒、どうやら……俺の番がきたみたいだ)
そう、天国のトーマスに語り掛けながら、悲壮な覚悟を固めるジンバ。
相棒の形見であるボウガンを取り出し、それを構えながら、彼は宿敵であるレーゲンへと叫ぶ。
「動くなレーゲン!」
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