サーチ・キャリアー
「全員、気を付けろ。本格的に人の数が増えてきた。レーゲンたちが動くならこのタイミングだ」
通信機から聞こえてきたボスの声に緊張感を走らせるユーゴ。
犯罪組織が行動を起こすよりも早く確保することを目的とする警備隊員たちは、その指示を合図に監視の目をより鋭くしていく。
緊張が張り詰める対策本部には、次々に不審な人物の目撃報告が飛び込むようになっていった。
「こちらA班、荷物を抱えた怪しい人物を発見。尾行を開始する」
「B班、追跡対象に驚異はないと判断。再び監視に戻る」
「人通りの多い地点を警備していますが、今のところは不審な人物は見受けられません。ただ、人が多くなっているので、ここで何かが起きた場合のことを考え、陣形を変更します」
「いよいよ、って感じだな……」
ジンバの呟きを聞いたユーゴがごくりと息を飲む。
ここでトリカゴを運ぶ人物を発見できれば、大犯罪を未然に防いだ上で人質の奪還も果たせるかもしれないと……成功するか否かで状況が大きく変わる作戦の重圧を改めて感じる彼と同じく、仲間たちもプレッシャーを感じているようだ。
「な、なんか、みんな怪しく見えてきちゃったんだけど……!!」
「同感でござる。少しでも大きな荷物を持っている人間を見ると、どうにも疑ってしまうでござるな」
「商人や運営委員が露店で売る品物とか大道具を運んでいたりするから、紛らわしくて仕方がないね……!」
順に、メルト、サクラ、アンヘルの言葉。巡回警備を担当する彼女たちは緊張のせいか、周囲の人々全員が怪しく見えているようだ。
その気持ちはわかると、そう思いながら報告を待ち続けるユーゴの耳に、マルコスからの通信が入る。
「ユーゴ、マルコスだ。聞こえているか?」
「ああ。何かあったのか?」
「……見つけたぞ。昨晩、ジンバ捜査官が確認していたリストに載っていた男だ」
ガタッ、とその報告を聞いたジンバが音を響かせながら立ち上がった。
ユーゴはそんな彼とは対照的に、冷静にマルコスから話を聞いていく。
「マルコス、位置はどこだ? そいつがどこに向かってるかわかるか」
「人ごみに紛れながら中央エリアに向かっている。持っている荷物を随分と気にしているな」
「荷物はどういう形で持ってる? 鞄か何かに入れてるのか?」
「大きめの肩掛け鞄を小脇に抱えている形だ。もう片方の手は、しきりに上着のポケットに出し入れされている」
「ポケットの中にトリカゴ内にいるレーゲンたちに連絡するための通信機があるんだ。そう考えれば……!」
マルコスの話を聞いたジンバが目を見開きながら呻く。
セツナと視線を交わらせたユーゴは、お互いに頷き合うと通信機越しにマルコスへと言った。
「マルコス、セツナと一緒にそっちに向かう。ターゲットの位置を報告し続けてくれ」
「わかった。急げよ、ユーゴ」
そこで一旦話を切ったユーゴがセツナと共に狙撃ポイントへと向かう。
ジンバも男の中央エリアへと向かう中、セツナがユーゴへとこう問いかけてきた。
「マルコスを随分と信頼してるのね。彼が見つけた男が運び屋だって、信じて疑ってないもの」
「こういう時のあいつは頼りになるんだよ。昨日だって俺やジンバさんよりも真剣に容疑者リストを確認してたしな」
お調子者というか、少し抜けているところがあるマルコスではあるが、彼は無辜の民を守る貴族としての誇りを強く持っている。
故に、囚われた人質や感謝祭を楽しむ人々を守るために全力を尽くそうとするし、その前段階であるジンバがリストアップした運び屋候補たちの写真も食い入るように確認し、記憶していた。
そのマルコスが怪しい男がいたと言うのなら、ユーゴはその言葉を疑わない。
どんなに強い相手であろうとも、力なき人々を守るためならば命を懸ける好敵手への信頼を滲ませながらセツナに答えたユーゴは、続けて彼女にも同じ感情を込めた声で言う。
「俺が信じてるのはマルコスだけじゃない。セツナだって同じくらい信頼してるよ。お前なら、絶対に狙撃を成功させてくれると思ってる」
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。そんなこと言われたら、絶対に外せなくなったわ」
わずかに声を弾ませながら、自身の魔道具である【龍弦弓】を取り出すセツナ。
一呼吸の後に気負いも油断も消し去った表情を浮かべた彼女は、魔力を高めながら通信機の向こう側にいるマルコスへと問いかけた。
「狙撃位置についたわ。マルコス、標的はどこ?」
―――――――――――――――
本日でこの小説を投稿し始めて1年が経ちました。
今日まで連載を続けられたのも、自分でも初のコミカライズや単行本が発売できたのも、全ては皆さんのお陰です。
コロナや地震の影響でお休みをいただくことが多くなって申し訳ありません。
まだ完全復活には時間がかかりそうですが、少しずつ時間を取れるようになったので、早く毎日投稿を再開したいと思っています。
これからもコミカライズ共々、ニチアサオタク悪役転生を楽しんでいただけると嬉しいです。
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