アンバー・トーク
「ほ~う? 頼みねぇ? 今の今までお前さんのために作業しっぱなしで、ようやっと一息ついて風呂に入れたばかりのアタシに、頼みたいことがあるってか?」
「いや、あの、そうなんだけど、無理だったらいいっていうか、聞くだけ聞いてほしいっていうか……」
そんなことがあった日の夕方、寮の門限ギリギリにアンヘルの下を訪れたユーゴは、ジト目の彼女に若干詰られ気味になってしどろもどろになっていた。
確かにまあ、面倒な仕事を放り投げ過ぎてたよなと反省する彼の傍で、視線を逸らしたアンヘルが何かを呟く。
「まったく……フィーから連絡が来てなかったら、数日風呂に入ってない状態で会うことになってたじゃないか……! 少しはこっちの気持ちも考えろ、馬鹿が……!!」
「あ~……やっぱ無理そうだし、今日は帰るわ。無茶言って悪かった――」
「ここまでされといて黙って帰られるとそれはそれでモヤモヤするだろうが! アタシも話があるから、とりあえず帰るな!!」
じゃなきゃ、大慌てで風呂に入ってきた自分が馬鹿みたいじゃないかと心の中で呟いたアンヘルがユーゴを自身の工房へと招き入れる。
申し訳なく思いながら中に入ったユーゴへと、彼女は色んな情報が書かれた書類を手渡してきた。
「これは……?」
「龍の素材を使ったブラスタの改良案だよ。ここ最近、ずっと研究してた」
ユーゴには書いてあることの大半はわからなかったが、主に炎の鎧と紫炎の鎧に関する改良案が書かれていることだけは理解できた。
そんな彼へと、視線でブラスタを渡すように告げたアンヘルがため息をこぼした後に言う。
「どこぞの馬鹿が自分の体への負担を度外視した魔道具の使い方をするから、整備を担当する人間としては本当にいい迷惑だよ。特に、紫炎の鎧なんて切り札を用意してたんだったら、アタシには報告しとけってんだ」
「わ、悪かったよ……もう少し仕上がってから話をしようと思ってたんだ」
「そういうのはまず技術者に聞いて、問題がないかどうかわかってから挑戦しろ!! 次に同じことをやってみろ、アタシはフィーの性癖を歪めに歪めてやるぞ!?」
バインバインとつなぎ服に隠された巨乳を揺らし、ユーゴにとって最大級に恐ろしい脅し文句を口にするアンヘル。
その言葉にガクガクとユーゴが頷けば、彼女は再びため息を吐いてから話を続けていった。
「……改良に関してだが、今回貰った龍の素材がかなり役に立ちそうだ。全属性への耐性を持つ龍の素材を鎧の内側に用いることで、ブラスタから発せられる熱がお前に伝わるのを極限までカットできる。そこから水と風の龍の素材での冷却と排熱を行えば、制限付きだが紫炎の鎧の熱すらもどうにかできるってデータが出た」
「おおっ! すげえじゃん! 流石はアン――!」
莫大な熱量を誇る紫炎の鎧すらもどうにか負担を軽減できるというアンヘルの話に驚きながら喜ぶユーゴであったが、言葉の途中に彼女がもたれかかってきたことで口を閉ざしてしまった。
ぐっ、と強くユーゴの背中に回した腕に力を込めるアンヘルは、悔し気な表情を浮かべつつ彼へと言う。
「だけど……絶対に無茶はすんな。止めても無駄かもしれないが、あんな命を捨てかねない真似だけはもうするな。それができないなら、アタシはもうお前の魔道具の面倒は見ない。惚れた男を自分が手入れした魔道具で死なせたら、一生のトラウマになるだろうが……!!」
「アン……」
以前に炎の鎧を使用した際にも忠告されたが、今回はその時よりも強い感情が込められている。
転生のきっかけになった出来事もそうだが、肝心な時に自分の命が見えなくなるのは自身の最大の欠点だなと反省したユーゴは、自分に抱き着くアンヘルへと誓いを述べていった。
「……悪い。今度こそちゃんとするよ。新形態を作る時はお前に相談するし、無茶はしないようにする。アン、本当にごめん」
「言ってもいざって時には無茶するのはわかってる。でも、お前が死にそうになる度に泣きそうになる女がいるってことは覚えておけよ」
女の涙という最大の武器を使いつつ、ユーゴに釘を刺すアンヘル。
彼女の言うことも尤もだよなと改めて思う彼へと、アンヘルは続けて言う。
「ブラスタの改造は近日中にやっておく。これでアタシの話は終わりだ。次はそっちの番。お前がアタシを抱き締めてる間だけ、話を聞いてやるよ」
「お、おう……」
もたれ掛かったまま……いや、重心を更にこちらへと傾けながらのアンヘルの言葉に、動揺してしまうユーゴ。
自分に押し当てられている二つの大きく柔らかいお山の感触にドギマギしながらも、その感触を振り払うように咳払いをした彼は、アンヘルへとジンバからの頼みごとを話していく。
「ふ~ん? 折り畳み式ボウガンねえ……随分と懐かしい物を持ってるな」
「ジンバさん、こいつのメンテナンスを頼みたいんだってさ。できるか?」
「できはするけど、ジンバさんはこいつを実戦で使うのか?」
「その口ぶり的に、こいつって使えない代物だったりするのか?」
「まあ、使えなくはないだろうが……メルトのスワード・リングと比較したら、威力も射程も手数も汎用性も瞬発力も足りないからなぁ……」
「えぇ……?」
アンヘルの評価になんというひどい言いようだ、といった表情を浮かべるユーゴ。
そんな彼の反応を見て取ったアンヘルは一度ユーゴの背中に回していた腕を放すと、彼から魔道具を受け取りつつ、折り畳み式ボウガンの問題点を指摘し始める。
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本日日曜日、ニチアサオタク悪役転生(漫画版)が、てれびくんスーパーヒーローコミックス&サンデーうぇぶりさんで更新されてます!
シャケは出ないけど、読んでくださいね!(単行本もよろしくお願いします!)
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