厄介な奴らがやってきちゃった

「お願いします! 今一度、私にチャンスを!!」


「ん? なんか騒がしいな……?」


 仲間たちと別れ、先んじて校内を見学し始めていた戦巫女&その父親たちと合流すべく急いでいたユーゴは、聞き覚えのある声を耳にして顔をしかめる。

 声の聞こえる方に行ってみれば、探していた面々と彼らに縋り付くようにして叫ぶラミーの姿があるではないか。


「落ち着きなさい、ニーラ先生。今はそんな話をする場では――」


「どうか、どうか私にもう一度チャンスを! これまでの不手際を省みて、次こそは完璧にこなしてみせます! だから、どうか――!!」


 ウノの制止も無視して、戦巫女の父親たちに懇願し続けるラミー。

 なんだか悪の女幹部が処刑されそうになって大首領に命乞いしているみたいだなと思いながらユーゴが近付いていけば、彼の存在に気付いたサクラたちが声をかけてきた。


「ユーゴ殿! 先ほどは父上がとんだ失礼を……!!」


「大丈夫、気にしてねえよ。それより、これはどんな状況だ?」


 一目見れば事情が大体わかりそうでやっぱりわからない状況に説明を求めるユーゴ。

 確か、ラミーは治療のために入院中だったのでは? と首を傾げる彼へと、セツナが解説する。


「彼女、病院を抜け出してきたみたい。私たちの前に姿を現したと思ったら、すぐにあんな感じよ」


「きっと、ヤマトと学園とを繋ぐ責任者の立場がキャッスル先生に変わっちゃったから、焦ってるんだと思います」


「ああ、なるほど……」


 今度こそ事情を理解したユーゴが小さく頷きながら呟く。

 選抜試験における魔物の暴走から始まり、様々な問題を引き起こした英雄候補たちを推薦してしまったことや『夜の友の会』の暴走を招く不用意な行動、挙句の果てに輸送任務においてまんまとコウマルの計画に利用されてしまうなどの失態を重ねた彼女は、そのことに焦燥感を募らせていたのだろう。


 最終的にヤマト関連のあれこれを取り仕切る役目を解任され、代わりにライバル視しているウノがその立場に就いたとあっては、ゆっくり休んでいるわけにもいかない。

 だが、だからといってあんな真似をされては父親たちもルミナス学園側も迷惑でしかないだろう。


「もうお止めなさい! コガラシさんたちも困っているでしょう!!」


「どうか、私のお話だけでもお聞きください! お願いします、お願いします……!!」


「はぁ……しょうがねえ、俺もキャッスル先生に手を貸すか」


 このままでは状況は悪くなるだけだし、ウノも困り果てている。

 ここは生徒を代表して自分がラミーをどうにかせねばと動こうとしたユーゴであったが、それよりも早くにこの場を更に混沌とさせる迷惑極まりない連中がやってきてしまった。


「ラミー先生の言う通りです。どうか、俺たちの話も聞いてください」


「むっ!? お前たちは……!」


 ラミーを止めるのではなく、彼女に便乗する形で話に割って入ってきた生徒たちへと視線を向けるウノ。

 彼が見る先にはシアンをはじめとした英雄候補たちが立っており、ぞろぞろと群れながら近付いてきた彼らに対して、モトナリがこう問いかける。


「君たちは何者ですか? 重要な用事がないのなら、下がってもらえると助かるのですが」


「俺たちはニーラ先生に推薦された、娘さんたちと並ぶに相応しいと称されている生徒たちです。失礼は承知ですが、俺たちの話を聞いてください」


「娘と並ぶに相応しい、だと? お前たちがか?」


 訝し気な表情を浮かべ、顎に手を当てながら、自分たちの前に立ちはだかるシアンを見つめるタダカツ。

 彼が一番自分たちの話を聞いてくれそうだと判断したシアンは、ここぞとばかりにアピールをし始める。


「確かに俺たちはこれまで様々な事件で後手に回ってしまいました。でも、それは俺たちの実力が足りなかったわけじゃありません。実力さえ十分に発揮できれば、皆さんも俺たちのことを認めるはずです!」


「フェイル! お前は誰に何を言っているのかわかっているのか!? もう下がれ! 他の者たちもだ!」


 なんでこの状況で場を更に混乱させるような真似をするのかと、ウノは驚きや怒りを通り越してシアンたちに呆れてしまっている。

 そんな彼を助けるべく、サクラとセツナが父親たちへと声をかけた。


「父上、妙な気を起こさないでください。ユーゴ殿に力試しを挑んだ時のような真似を何度もされては、アマミヤ家の名に傷が付いてしまいます」


「私もこれ以上、彼らの話を聞く必要はないと思います。


「……俺の娘たちはこう言ってるが、お前たちはどう思う?」


「お言葉ですが、娘さんたちは俺たちの実力を見誤っているんです! 戦闘能力だけじゃない! 指揮能力や状況の判断力、他にも沢山の力が俺たちにはあります!」


「……少なくとも、今、この状況を見る限りは、君たちが状況を正しく判断できる人間だとは思えませんけどね」


 眼鏡のブリッジを押しながら、モトナリがご尤もなことを言う。

 その言葉にシアンが顔を真っ赤にする中、ウジヤスの傍に控えていたライハが目を見開くと共に小さく声を漏らした。


「あっ……!?」


「……!!」


 ライハがこちらを見ていることに気付いた転生者たちは、揃って彼女が自分のことを見ているのだと勘違いした。

 都合のいい頭をしているとしか言いようがないが、彼らの頭の中には「自分は特別な存在である」という主人公補正を加味した考えが残り続けているのである。


 ここで彼女に声をかけられて、彼女の父親にも認めてもらって、龍の素材を手に入れれば、状況を巻き返すこともできる。

 そんなあり得ない夢物語を頭の中で思い描いていた彼らは、ライハの前に出ようと水面下で位置の取り合いをしていたのだが……その背後から、低い声が響いた。


「……邪魔だ、退け」


「はぁ? お前、何様だ……っ!?」


 吐き捨てるような侮蔑の言葉を耳にしたシアンが、くるりと振り向くと共に反抗の意を示す。

 だが、しかし……その声の主の顔を見た瞬間、彼はびくりと体を震わせて動けなくなってしまった。 


「……以前に忠告したはずだが、もう忘れたのか? なら、もう一度言ってやる」


 コツコツと足音を響かせながらこちらへと歩み寄る彼の威圧感に負けた転生者たちが、さあっと左右に分かれて道を作る。

 その流れに乗れずに硬直したままでいるシアンへと、今現在、彼らが最も会いたくないであろう人物が静かな怒りを込めた声で言った。


「……僕に、質問をするな」


―――――――――――――

コミックス第1巻発売まであと3日!

本当、もう……よろしくお願いします!(語彙力消滅)

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