面倒な奴ら、一瞬で蹴散らされる

「リュウガさん……!」


 自分たちの前に姿を現した人物……リュウガの名を呼ぶライハ。

 当然ながら彼女が見つめていたのも彼であり、ライハの目にはシアンたちの姿など最初から映ってなどいなかった。


 シアンに警告し、彼から視線を外したリュウガへと、驚きながらユーゴが声をかける。


「リュウガ、どうしてここに!? お前、まだ入院中だろ?」


「病院内で戦巫女の父親がなんだとか、話をするんだとか言いながら騒ぐ女性がいてね。色々と気になったから抜け出してきたんだ」


「うっ……!!」


 そう言いながら自分を一瞥したリュウガの視線を受けたラミーが声を詰まらせる。

 ここだけでなく、病院でも非常識な行動をしていたのかと彼女の暴挙を聞かされたウノがため息を吐く中、リュウガは戦巫女とその父親たちへと視線を向けていった。


「……お前たちが、御三家の現当主か。そして、貴様が……」


「レンジョウ、そのような口の利き方は――!!」


「いいんです、キャッスル先生。彼を咎めないでください」


 御三家の当主たちの顔を順番に見つめながら、不遜な物言いをするリュウガを窘めようとしたウノであったが、それをウジヤスが制止した。

 リュウガから最も鋭い視線を向けられている彼は、複雑な心境を表した一言では説明できない表情を浮かべながらその視線に応える。


 どこからどう見ても不穏としか言いようのない空気が漂う中、リュウガとウジヤスの間に挟まれるシアンはビビりながらもこの状況はチャンスなのではないかと考え始めていた。


(今のリュウガは負傷している。それに、戦巫女の父親たちへの不遜な態度……こいつを制圧する正当な理由だってあるはずだ!)


 真っ向から戦えば到底勝てる相手ではないが、今のリュウガは怪我の治療中で状態も万全ではない。

 VIPであり来賓である御三家の当主たちに何をしでかすかわからない危険な雰囲気を醸し出していたという大義名分もある。


 今ならば……彼を取り押さえることができるのではないだろうか?

 父親に危害を加えようとしていた彼を取り押さえれば、今度こそライハに恩を売れる。そうすれば、彼女とのフラグも復活するかもしれない。

 ウツセミ家からも感謝されて、雷龍の素材を贈ってもらえるかもしれないし、とんとん拍子で将来婿に入ってほしいなんて言われる可能性だってある。


 やれる……今なら一発逆転のチャンスを掴むことができる。

 そう考えたシアンはごくりと息を飲むと共に、リュウガへと飛び掛かろうとしたのだが……?


「リュウガ! 妙な真似は止めぐぼぉっ!?」


 魔力で身体能力を強化し、至近距離にいるリュウガを取り押さえようとしたシアンは、その瞬間にみぞおちに走った鈍い衝撃にくぐもった呻きを漏らした。

 刀を抜くこともせず、それを振るうまでもなく、握り締めた拳を彼に叩き込んだリュウガがその場に崩れ落ちるシアンを邪魔だとばかりにスルーする。


「……あいつらの話を聞く必要はなさそうだな」


「ええ、そのようですね」


 まさに一蹴としか言いようのないリュウガとシアンのやり取りを目にしたタダカツとモトナリが呟く。

 病み上がりどころか傷を負ったままのリュウガの相手にすらならなかったシアンを見れば、彼らの実力も予想できるというものだ。


「あ、あ、あ、あなたたちは、何をしているのです!? また私の顔に泥を塗って……き、きぃぃぃぃ、い、い……?」


「……ニーラ先生、もう本当にお止めなさい。あなたはしっかりと休むべきだ」


 自分が推薦していた英雄候補の醜態を目の当たりにしたラミーがヒステリックな叫びを上げようとしたが、その瞳が急にとろんと蕩けた。

 そのまま床に倒れ伏した彼女へと、睡眠付与の魔法を使ったウノが呟く。


「大変お見苦しいところをお見せしてしまいました。この失態をなんとお詫びすればいいか……」


「お気になさらないでください。キャッスル先生も色々と大変ですね。それより、早くニーラ先生とそこの子を医務室に連れて行った方が良いのでは?」


「はっ……! フェイル、立てるか? 医務室に行くぞ」


「う、ううっ……」  


 眠っているラミーを背負い、蹲っているシアンに声をかけ、二人を医務室へと連れて行くウノ。

 他の転生者たちも場違い感に負けて早々に散っていく中、リュウガがウジヤスへと言う。


「……あなたと話がしたい。邪魔が入らないところで、だ」


「……ああ、わかった」


「おい、待て! そんなことを許せるわけがないだろう!」


 リュウガとウジヤスの会話に割って入るタダカツ。

 娘を助けてくれたとはいえ、ウジヤスに恨みを抱いているであろうリュウガと二人きりにさせるなんて危険だと暗に述べる彼に続いて、モトナリが口を開く。


「リュウガくんには悪いが、そんな危険な状況に友人を送り出すわけにはいきません。ウジヤスも考え直してください」


「しかし、僕にはその義務が――」


「少し黙っていろ、ウジヤス。お前の気持ちもわかるが、それでもその思いは汲めん」


「……そうか。そちらがそう言うのなら仕方ない」


 自分とウジヤスとの話し合いを妨害するタダカツとモトナリの反応を見たリュウガが静かに呟く。

 彼がゆっくりと龍王牙に手を伸ばす様を目にした二人は、警戒を強めると共に己の武器を取り出して戦いの構えを取ったのだが……?


「ユーゴ、これを頼む」


「……おう、わかった」


 リュウガは刀を抜くことはせず、それを相棒であるユーゴへと差し出した。

 彼がそうすることをわかっていたように近くまできていたユーゴは、相棒が命よりも大切にしている愛刀を受け取ると共に力強く頷く。


「……僕にはあなた方の友人を傷付けるつもりはありません。ただ、話がしたいだけです」


「「……!?」」


 リュウガの行動と、そこから続く言葉を耳にしたタダカツとモトナリが驚きに目を見開く。

 二人が固まる中、その間を縫って前に出たウジヤスは、静かに頷くと共に彼へと言った。


「僕も、君と話をしなければならないと思っていた。わざわざ出向かせてしまったことと、友人たちの非礼を許してほしい」


「気にしていない。僕も友のためだったら、同じことをするだろう」


 普段の柔らかい雰囲気と、素の彼である冷酷な雰囲気が合わさった態度でウジヤスに接するリュウガ。

 彼もまた、ウジヤスにどう接するべきか悩んでいるのだろうと一同が思う中、一歩前に出たライハが叫ぶ。


「あのっ! ……私も同席してもよろしいでしょうか?」


「……言っただろう。僕に、質問を――」


 自分に声をかけたライハを拒もうとしたリュウガであったが、彼女の真剣な表情を目にしておなじみの言葉を途中で飲み込んだ。

 静かに視線を逸らした彼は、緩く息を吐いてから彼女へと答える。


「……好きにしろ」


「……ありがとうございます、リュウガさん」


 同席を認めたリュウガへと、頭を下げて感謝を述べるライハ。

 そんな娘と自分が人生を狂わせてしまった青年を順番に見つめてから、ウジヤスは二人と共に再び応接室へと向かっていった。


―――――――――――――――

コミックス第1巻発売まであと2日!!

皆さんに楽しんでいただけると嬉しいな……


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