素材を貰った仲間たちの反応

「そんなわけで、セツナの親父さんたちから龍の素材をいっぱい貰ってきたぞ」


「おうおうおう……!! 貴重な龍の素材がこんなに……! 水、風、雷の三属性も揃ってるし、これならブラスタもガンガン強化できそうだ!」


 少しして、仲間たちに集まってもらったユーゴは、受け取った素材をお披露目していた。

 技術系を担当するアンヘルとフィーに大量の素材を渡した彼は、二人へと言う。


「とりあえず、これは好きに使ってくれ。解析とか魔道具の強化とか、新しい武器を作るのに使ってもいいぞ」


「おいおい、大盤振る舞いだな。お前が貰った物なんだから、独占してもいいんだぞ?」


「俺がもらったんじゃねえよ、が、だ。全員で協力したからザラキを倒せたんだし、俺が一人で使っていいもんじゃねえだろ」


 鱗に爪、牙に髭や尾のような部位と、ユーゴが受け取った素材は量も種類も想像以上に多い。

 それは仲間たちと分配して使うべきだと述べる彼へと笑みを浮かべながら頷いたアンヘルは、大きな胸をどんっと叩いてから口を開いた。


「よっしゃ! アタシに任しとけ! この素材たちは、責任を持って預からせてもらうよ!」


「おう、頼んだぜ! フィーも勉強がてら、アンのことを手伝ってやってくれよな!」


「え? あ、う、うん。わかったよ、兄さん」


 アンヘルに素材を託したユーゴが彼女の補佐を弟に頼めば、どこか落ち着かない様子のフィーがはっとしてから兄の言葉に応えてみせる。

 一方、アンヘルの方は同じく素材を眺めていたメルトに対して、質問を投げかけていた。


「メルト、お前のスワード・リングもこいつを使って強化してみるか? 結構いい感じになると思うぞ?」


「う~ん、それは私もそう思うんだけどさぁ……複雑な気分っていうか、なんて言うか……」


 シンプルな攻撃用魔道具である【スワード・リング】に、龍の力を加えてみるのはどうだというアンヘルの問いに悩む様子を見せるメルト。

 普通に考えれば、風、水、雷の三属性+龍の力が魔道具に加われば、単純に強化されるだけでなく戦いの幅も広がるわけなので、いいことづくめなはずなのだが……彼女には一点だけ気になる部分があったりする。


「この素材ってさ、セツナのお父さんたちがユーゴをお婿さんにするためにプレゼントした物なわけじゃない? それを使っちゃうと、負けた気分になっちゃうっていうかさ……」


「乙女のプライド、ってやつだな。まあ、気持ちはわかるよ」


 ライバルの父親たちが好きな男の子を囲い込むために贈った品々を使うというのは、恋する乙女としては複雑な心境だ。

 だが、強い魔道具を手に入れられれば、ユーゴの役に立てることもまた事実。


 その二つの思考に挟まれて苦悩するメルトに理解を示しつつ、アンヘルはもう一人の仲間へと声をかける。


「マルコス、お前はどうだ? ギガシザースを強化するつもりはあるか?」


「その必要はない。龍の素材は、お前たちだけで使ってくれ」


「ええ~? もったいなくない? ギガシザースに龍が持つ各属性への耐性が付与されたら、鬼に金棒じゃん!」


「その反面、同じ龍の力に弱くなるという明確な欠点を抱えることにもなる。私はそれを望まん。気遣いは無用だ」


「あっ! マルコスさん!!」


 話は終わりだとばかりに一人で部屋を出ていくマルコス。

 その背を見送った後、顔を見合わせた仲間たちが話し合う。


「マルコスが言うことも一理あるけど、少しは考えてもいいと思うけどな~……」


「物理と比較して魔法での攻撃に弱いっていうのはギガシザースの弱点だし、そこを解決できるかもと思ったんだが……余計なお世話だったか?」


「いや、どっちかっていうと余計なことを言ったのは俺だな」


「兄さん、どういうこと?」


 後頭部を掻きながら呟いたユーゴへと視線を向けた一同が、今の言葉の意味を彼に尋ねる。

 苦笑を浮かべながら、ユーゴはマルコスの心境を語り始めた。


「ライバルから恵まれた素材で自分を強化するだなんてこと、マルコスがするわけがねえ。俺があいつでも、同じ答えを出すさ」


「なるほど、メルトと似たようなもんか」


「男のプライドってやつだね~……損をしがちっていうか、マルコスらしいっていうか……」


 ユーゴをライバル視しているマルコスは、彼がヤマトのVIPたちに認められて贈られた素材を自分のために使うことが許せないのだろう。

 ザラキとの戦いでも十分に貢献したはずだが、ユーゴやリュウガと自分を比較して、まだまだだと思っているのかもしれない。


 そこで降って湧いた幸運に飛びつかず、自分の力でどうにかしようとする気位の高さが彼らしいなとメルトたちが思う中、時計を見たユーゴが慌てた様子で言う。


「やっべ、もうこんな時間か! 急がなくっちゃ!!」


「どうしたの、ユーゴ?」


「セツナの親父さんたちに呼ばれてるんだよ! なんか、学校を見て回るのに付き合ってほしいんだってさ! じゃあ、素材は任せたぞ!! 好きに使ってくれていいからな~!」


 ここには素材を渡すために一時的に寄っただけなんだと付け加えたユーゴが、駆け足で去っていく。

 慌ただしい奴だと思いながらその背を見送ったアンヘルは、苦笑を浮かべながらフィーへと声をかけた。


「そんじゃあ、まずは素材の解析から始めるか。魔道具との相性も調べないとな。フィー、手伝ってくれるか?」


「あ、は、はいっ!」


 アンヘルに協力を求められたフィーがはわはわとしながら返事をする。

 しかし、どうにも妙な雰囲気な彼の様子を見て取ったメルトは、フィーの顔に自身の顔を近付けながらこう問いかけた。


「ねえ、フィー? どうかしたの? なんか、さっきから様子が変だけど……?」


「え? あの、えっと、その……」


 視線を泳がせ、メルトの質問にどう答えるべきかと悩むフィー。

 思えば、最初にユーゴに声をかけられた時からぼーっとしていたなと思う二人の前で、フィーはもじもじとしながら口を開き、落ち着いていない理由を述べていった。


「あの、実は――」

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