パパたちとのPromise、それとPresent

 ユーゴの答えに、父親たちの顔が一瞬強張る。

 彼が三人の顔をじっと見つめる中、最初に口を開いたのはリュウガと最も因縁のあるウジヤスだった。


「……既に、その手筈は整えているよ。先に言うべきだったね」


「そうだったんですね。なら、良かった」


「……全ての元凶が僕たちウツセミ家にあることを考えれば、遅過ぎるくらいだ。レンジョウくんには、どんな償いをしても許されないほどのことをしてしまった」


 俯き、そう語るウジヤスが、組んだ両手を強く握り締める。

 そんな彼をフォローするように、モトナリが口を開いた。


「……ウツセミ家がレンジョウくんたちに関われなかったのは、不用意に関わることでライハの秘密が露見することを恐れたヤマト側からの命令があったからなんだ。彼は、自分の罪を深く反省している」


「しかし、僕のエゴが悲劇を引き起こしたことに変わりはない。娘を失いたくないあまり、僕は誰も幸せにならない選択をしてしまった……」


「そう自分を責めるな。これまでその秘密を隠し続けてきた俺たちも同罪だ。お前だけが悪いわけじゃあない」


 本人が言う通り、ウジヤスはリュウガの父親の死のきっかけを作ってしまったことを深く悔いているのだろう。

 娘の命を救うためとはいえ、誰かの生活や人生を滅茶苦茶にした上にリュウガとユイから父親を奪ったことは許されることではない。


 その罪を共に背負おうと言うモトナリとタダカツもまた、自身も同罪だと考えている。

 同じ戦巫女を輩出する家柄同士という関係だけではない、確かな友情をそこに感じ取りながら、ユーゴは俯くウジヤスへと言う。


「……俺は、その事件に関してはなにも言えません。リュウガも、そう簡単にウジヤスさんやライハさんのことを許せはしないでしょう。でも……今のあいつは、憎しみと復讐を振り切りました。全てを忘れることはできないだろうけど、未来に進もうとしています。それは、ライハさんも同じです」


「……ああ、本当に強い子だ。彼の立場ならば見捨てて当然だというのに、父の仇である娘を救ってくれた。いくら感謝してもし足りないくらいだ」


「そう思うのなら、ウジヤスさんも前を向いてください。リュウガやユイちゃんだけじゃなく、事件に巻き込まれた全ての人たちに償おうという気持ちを見せてください。それがきっと、リュウガに対する何よりの謝罪と感謝を示すことになると思いますから」


「………」


 こくりと、無言でウジヤスがユーゴへと頷く。

 二人のやり取りを見ていたモトナリは眼鏡を掛け直しながら、小さな声で呟いた。


「……娘が君を高く評価する理由がわかった気がするよ。君は強く、そしてそれ以上に優しい人間だ」


「だろう? 本当にいい漢だ。実際に戦ってみて、俺もそう思ったぜ」


 ヤマトのVIPたちからの高い評価に、たははと照れ臭そうに笑うユーゴ。

 重めの空気が徐々に振り払われていく中、改めてといった様子でモトナリが言う。


「ユーゴくん、君は何も望まないと言ったが、それでは我々の気が済まない。せめてもの感謝の印として、これを受け取ってほしい」


 そう言ったモトナリが手を叩けば、応接室の扉が開き、そこから三名の使用人らしき男女が中に入ってきた。

 そこそこの大きさの玉手箱を手にしている彼らがそれをテーブルの上に置いてから恭しく頭を下げた後で退室していく中、ちょっと緊張しているユーゴがモトナリたちへと問いかける。


「あの、これは……?」


「開けてみてくれ」


 促されるままに玉手箱を開けたユーゴは、その中身を目にして驚きに息を飲んだ。

 箱の中には光沢のある緑色の鱗や長い弦のような髭と思わしき素材が入っており、一目でこれがなんであるかを理解した彼へと三人が言う。


「それぞれ風龍、水龍、そして雷龍の素材だ。君が使う鎧の制作や弟くんの研究材料として、存分に役立ててほしい」


「全て一級品の材料を集めた。品質も量も十分だとは思うが……足りないなら遠慮なく言えよ、ユーゴ? 男は強欲なくらいがちょうどいいからな!」


「娘たちを救ってくれた君への、僕たちからのせめてもの感謝の気持ちだ。受け取ってくれ」


「あ、えっと……ありがとうございます。こんな貴重な物を、いただけるだなんて……!」


 ヤマトどころかこの世界にあまり詳しくないユーゴでも、目の前にあるこの素材たちの貴重さは理解できた。

 ウノも驚きを通り越して緊張で冷や汗を垂れ流しているし、何より龍の素材が放つ独特の迫力がひしひしと伝わってきている。


 だからというわけではないが、ユーゴは有難くモトナリが用意してくれたこの素材たちを受け取ることにした。

 見返りを求めていたわけではないし、最初は断ろうかとも思ったのだが、彼らにはヤマトのVIPとしての面子もある。このまま何も礼をせずに国に帰るなんてことはできないのだろう。


 ……それに、ここで断ったらウノの胃が壊れる気がしてならない。

 モトナリたちの顔に泥を塗らないためにも、ルミナス学園の名誉のためにも、ここは受け取っておいた方が色々と丸く収まると考え、深々と頭を下げて感謝の意を示すユーゴへと、タダカツが豪快に笑いながら口を開く。


「そう畏まるな! お前がアマミヤ家の婿になれば、俺は水龍の素材をふんだんに使った具足だって作ってやるつもりだぞ! 娘は俺に似て、ちょいとばかし気と腕っぷしが強い女だが……お前なら、あいつの伴侶に相応しい! どうだ? アマミヤの婿に入らないか? うん?」


「タダカツ、そういった話はしないという事前の取り決めを忘れたのですか? それを言うならば、私も君のことを歓迎しますよ、ユーゴくん。セツナからも、許嫁にならないかと告白されたのでしょう? あれには娘の意志だけでなく、現当主である私の意志も入っていると考えてもらって構いません」


「でっ、ええ……っ!?」


「二人とも、止めたまえよ。ユーゴくんが困っているじゃないか」


 最初にタダカツと顔を合わせた時から嫌な予感がしていたが、どうやら彼らは娘のためにユーゴを自分の家に引き入れるつもりのようだ。

 婿入りだとか、許嫁だとか、人生が決定してしまう恐ろしい単語が幾つも飛び交う応接室の中では、ウノが顔を真っ青にして痙攣している。


 そりゃあ、自校の生徒がヤマトのVIPたちから娘と婚姻しないかと誘われている様を見たら、そんな反応になるよなと思いながら……もしかしなくても龍の素材をプレゼントしてきたのは外堀を埋めるためだったのかもしれないなと今さらながらにユーゴが気付く。


 もしかしたら素材を受け取ったのは失敗だったかもなと思いながら、ユーゴは唯一そういった雰囲気を見せないウジヤスにフォローしてもらいつつ、この場を切り抜けていくのであった。


―――――――――――――――

すいません、宣伝兼注意(?)です!


コミックス1巻には特定のお店で買っていただけるとどんぐりす先生が描いてくださった素晴らしいポストカードが特典として付属するんですが、ゲーマーズさんの特典であるメルトのポストカードが若干品薄気味になってます!


オンラインショップの方で一時品切れになり、追加で発注してくださったそうなのですが、それもどれだけの数が入ったのかわかっていません。

特典が欲しい!という方はお早めに予約をしていただくか、発売日当日に店舗の方で確保していただけると確実だと思います!


発売まで残り5日となりました。一人でも多くの方の手に単行本や特典が届くことを、原作者として祈っております!

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