三人集合Father's

「まったく、あなたという人は……娘たちの様子を見に来た我々が、混乱を引き起こしてどうするのです?」


「がっはっは! 悪い、悪い! だが、うわさの男がどんな男か気になっちまってな!」


「それでもやり方があると思うよ。君のせいで、ルミナス学園の生徒たちは大慌てだ」


「ええっと……これ、どういう状況なんですかね……?」


 鎧武者ことサクラの父親から襲撃されてから少し経ち、ユーゴは彼に案内されて応接室へとやってきていた。

 そこにいた三人の男性たちと、顔色を青くしているウノを見比べながら、ユーゴは当然の疑問を口にする。


「クレイか。その、なんだ。こちらの方々はだな……」


「サク……アマミヤさんの親父さんですよね? じゃあ、お二人はコガラシさんとウツセミさんの……?」


「そういうことです。娘たちから話は聞いていますよ。君がユーゴ・クレイくんですよね?」


 しどろもどろになっているウノの言葉を継いで彼らの身分に関してユーゴが口にすれば、眼鏡をかけた白髪の男性がそれに答えてくれた。

 容姿から察するに、彼はセツナの父親なのだろうなと想像するユーゴへに対して、三人の父親たちが自己紹介を始める。


「はじめまして。私はモトナリ・コガラシ……お察しの通り、セツナの父親です。こちらはライハの父、ウジヤス・ウツセミ。君を襲った不届きものがタダカツ・アマミヤだ」


「ど、どうも、はじめまして。娘さんたちには、大変お世話になっております……!」


「そう固くなるな、ユーゴよ。もう俺たちは刀を交わし合った間柄じゃあないか!」


「言いたくはないが、彼が緊張している要因の一つはそれだと思うよ?」


 自己紹介をした父親たちへと、深々と頭を下げて挨拶をするユーゴ。

 そんな彼へとモトナリたちが三者三様の反応を見せる中、ユーゴよりも緊張しているウノが口を開く。


「クレイ、お三方は以前の事件の報告を受け、ご息女たちの様子を見に来たということだ。その際、お前と話がしたいと言われてな……」


「お、俺と、ですか……?」


「安心してくれ。我々は君を責めたり、圧力をかけようだなんて考えてない。ただ、感謝の気持ちを伝えたかっただけさ」


 ヤマトのVIPである御三家の当主たちから直々に呼び出されたという話を聞いたユーゴが緊張に声を震わせる。

 そんな彼へとライハの父、ウジヤスが丁寧に呼び出しの理由を述べれば、モトナリとタダカツの二人もそれに同調するようにユーゴへと言葉をかけていった。


「外交官兼監視役として娘たちに付けていたコウマルの裏切りが発端となったこの事件の解決には、君が大いに貢献してくれたと聞きました。我々の尻拭いをさせてしまったこと、申し訳なく思っています」


「あのザラキを打ち倒すだなんて、やるじゃあないか! 先の手合わせでも感じたが、なかなかの腕をしているな!」


「……娘が無事だったのも、君のお陰だ。本当に感謝しているよ」


「俺一人でやったことじゃありません。仲間たちが頑張ってくれたからこその結果です。それに、ライハさんを助けたのは俺じゃなくて――」


 と、自分一人の手柄ではなく、マルコスたちの奮戦あっての事件解決だと言おうとしたユーゴであったが、そこではっとすると共にウノを見た。

 この件について話すと、ライハが半龍人であることをはじめとした数々の重大事項にも触れてしまう。彼がいる前でこの話をしても大丈夫なのかと不安になるユーゴに対して、モトナリが言う。


「安心してください。キャッスル先生には、ライハの秘密も諸々の事情もお話していますから」


「合わせて、我々ヤマト側との窓口としての役目もニーラ先生と代わってもらった。彼女は今、怪我の治療中だからね」


「そうだったんですか。安心しました」


 ならば心配する必要もないかと安堵したユーゴが胸を撫で下ろす。

 戦巫女たちの父親たちは、そんな彼へと若干前のめりになりながら話をしていった。


「ユーゴくん、君の活躍は君が思っている以上に大きい。娘たちが無事だったことはもちろんだが、我々の家に伝わる魔道具が奪われなかったのも君のお陰だ」


「龍の力を持つ魔道具をコウマルに奪われたままだったら、コウマルの研究もかなり進んでいただろう。そうなれば、世界全体が奴の脅威に晒されることになる」


「そうならなかったのも君たちのお陰だ。君がザラキを倒し、娘を取り戻してくれたお陰で、世界は救われたんだよ」


「……なんか、いまいち実感がありませんね。俺はただ必死だっただけで、世界の危機までは考えが回ってませんでしたし……」


 目の前で危機に瀕していた友達を助けたい、それがユーゴの頭の中にあった全てだった。

 だから、今こうして世界を救ったと言われても、正直に言ってそのことに対する実感が湧かないでいる。


 褒めてもらえることに関しては嬉しかったが、そもそも自分一人で成したことでもないし、そんな大それたことをしたつもりはないと述べる彼に対して、御三家の当主たちが言う。


「君の活躍が公表できないのも、我々ヤマト側の問題のせいだ。本来ならば、名誉と報奨を与えられて然るべきなんだよ」


「娘を救ってもらった恩もある。元々の原因である我々は、君に報いる義務もあるはずだ」


「なんでもいい、お前が望むものを言え。俺たちがその望みを叶えてやる」


「望み、ですか……」


 なんだか未来からやってきた魔人みたいなことを言うなと思いつつ、ここまで願いを促されると何も言わないわけにはいかないなと考えたユーゴが腕を組む。

 少し悩んだ後、顔を上げた彼は自分を見つめる戦巫女の父親たちに向かって、こう述べた。


「俺も仲間たちも、金とか名誉みたいな褒美は望んでないと思います。ただ、強いて願いを言うなら……俺の相棒、リュウガのお袋さんの面倒を見てあげてほしいです」

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