Some lieのshow time!?(侍の正体)

「ほう、この俺と真っ向から斬り合うつもりか……面白い!!」


 自分へと剣を向けるユーゴを見た鎧武者が声を弾ませて笑う。

 フィーたちが見守る中、お互いに気力を高めた二人は、一直線に相手に突っ込みながら得物を振るった。


「ぬうんっ!!」


「せやあっ!」


 巨体を誇る鎧武者は大太刀を上から振り下ろし、ユーゴはそれを迎え撃つように斬り上げるようにして剣を振るう。

 空気がびりびりと振動するほどの衝撃を発した刃のぶつかり合いは、双方に相手の実力を十分過ぎるほどに理解させたようだ。


「ぐっ……! 重っ……!!」


「俺の一撃を受け止めたか! なかなかの腕だ!」


 大柄な鎧武者の一撃は、その見てくれに違わず絶大な威力を誇っていた。

 リュウガの剣とは違う、叩き潰されてしまうのではないかと思うくらいに重い振り下ろしをどうにか受け止めたユーゴへと、鎧武者が賞賛の言葉を述べる。


「ふっ、はあっ!!」


「むっ!? やるっ!」


 どうにか腕に魔力を込め、大太刀を弾き飛ばしたユーゴが一歩踏み込むと共に横薙ぎの一閃を繰り出す。

 それを回避した鎧武者は、彼から距離を取ると共に自身の得物を高く掲げた上段の構えを取った。


「どうやら、思っていたよりかはやるようだ。だが、これはどうだ!?」


「あれは……水か!?」


 巨大な大太刀の周囲に水が集まる様を目にしたユーゴが息を飲む中、鎧武者が刀を勢いよく振り下ろす。

 その瞬間、巨大な水の刃が撃ち出され、それがユーゴへと真っ直ぐに突っ込んでいく光景にフィーが大声で叫んだ。


「兄さん、危ないっ!!」


「うっ、おおおおっ!?」


 弟の叫びに反応してどうにか一発目の水の刃を剣で受けたユーゴであったが、微粒子金属で構成された武器はその一撃に耐え切れなかったようだ。

 自身の武器がバキンッ、という音と共に真っ二つにへし折れ、そのまま砕ける様に目を丸くして驚愕するユーゴへと、鎧武者が言う。


「一発で終わりではないぞ? 武器もなくなった今、俺の攻撃をどう受け止める!?」


「や、やっべぇっ!!」


 既に二発目を繰り出す準備を完了している鎧武者の言葉に、仮面の下で焦りの表情を浮かべるユーゴ。

 ここは真っ向から受け止めるのではなく、機動力を活かした戦い方に切り替えるべきだと考えた彼は相手の攻撃を回避しようとしたのだが……そこで何かに気付き、動きを止めた。


(動きが止まった? 諦めたのか?)


 回避行動をしようとしたユーゴが不自然に動きを止めたことを訝しむ鎧武者であったが、攻めの手を緩めることはない。

 むしろここで簡単に諦めるような男ならば斬り捨ててやると、一層柄を握る手に力を籠め、大太刀を振り下ろす。


「チェストォォォォッ!!」


 先ほどよりも大きく、地面を抉るほどの威力を持つ水の刃がユーゴへと迫る。

 戦いを見守る者たちがユーゴがあの刃に叩き切られてしまうだろうと考える中、息を吐いた彼は全身から紫色の魔力を発するとともに静かに吼えた。


「超変身……っ!!」


「なっ、なんだとっ!?」


 迫る水の刃を避けもせず、堂々と紫色に変化した鎧で受け止めたユーゴの行動に鎧武者が驚きを露にする。

 そのまま、緩く両腕を広げながら一歩、また一歩と距離を詰めてくる彼の姿に気圧されそうになりながらも、自身を奮い立たせた鎧武者は攻撃を継続していった。


「俺の剛剣に真っ向から挑むつもりとは……とんでもない馬鹿か、はたまた俺を舐めているのか!?」


 その叫びの通り、鎧武者の攻撃は尋常ならざる威力を誇っている。

 少なくとも、ルミナス学園の生徒たちでは太刀打ちできない破壊力だし、防御魔法も簡単に砕けることは間違いない。


 だが、ユーゴはそれを避けるのではなく、敢えて受け止めながら前進している。

 いったい、彼は何を考えているのかと、その無謀な行動に困惑する鎧武者であったが……ユーゴの背後にあるものを目にして、はっと息を飲んだ。


(あれは……子供か!? まさか、こいつ――!)


 ユーゴの背後には、逃げ遅れた初等部の生徒たちがいた。

 先ほど、水の刃を回避しようとした時、ユーゴもそのことに気が付いたのだろう。


 もしもあそこで彼が回避を選択していたら、子供たちが水の刃を受けることになっていた。

 だからユーゴは攻撃を避けず、彼らを守るためにあえて攻撃を受けながら直進しているのだと、無謀な行動の理由を理解して愕然としていた鎧武者は、ユーゴが自分のすぐ近くにまで迫っていることに気が付き、驚きと共に反射的に刀を振り下ろした。


「ぬううっ!」


 距離的に、これ以上接近されたらマズい。大太刀はリーチがあるが、懐に飛び込まれると危険だ。

 そのことを理解しているからこそ、鎧武者は思わず全力で上段からの打ち込みを繰り出してしまったわけだが、ユーゴは自身に迫る刃を両手で挟み込み、受け止めてみせたではないか。


「し、白刃取りだと……!? こいつ、俺の剣を見切ったというのか……!?」


「完璧に見切れたわけじゃない。ただ、俺はあんたよりも早く鋭い太刀筋を何度も見てるんでな。そのお陰さ」


 鎧武者の剣はリュウガより力強いが、早さと鋭さなら彼の方が圧倒的に上だ。

 ヤマトからやってきた彼と共闘したり、手合わせを繰り返していたお陰で、剣士への対応もできるようになったというユーゴの言葉を聞いた鎧武者は、自身の一撃を受け止めた彼の反撃を覚悟したのだが……そっと白刃取りした大太刀を下ろしたユーゴは、予想外の言葉を彼へと投げかけた。


「もう止めよう。あんたの目的はわからないが、これ以上戦う必要はないはずだ」


「……俺に情けをかけるつもりか?」


「今の一撃、水を纏って強化されてなかった。俺の後ろにいる子供たちに気付いたんだろ?」


「………」


 そう言いながら、ユーゴは変身を解除した。

 彼が庇った子供たちへと目を向けた後、再びユーゴへと視線を向けた鎧武者は、真剣な表情を浮かべて語り掛ける彼の言葉に耳を傾ける。


「あんた、滅茶苦茶なことをしてるが悪い人じゃない。もう終わりにしてくれ。俺はこれ以上、あんたと戦いたくない」


「ふ、ふふふ……ふははははははっ! あ~っはっはっはっは!!」


 真っ直ぐに自分を見つめながら停戦を求めるユーゴの言動に、大声で笑い始める鎧武者。

 そのまま、得物である大太刀を鞘へと納めた彼は、愉快気に笑いながら面頬を外し、素顔を晒してみせた。


「はっはっはっはっは! ある程度は手加減していたとはいえ、俺の完敗だな!」


 そう豪快に笑いながら言う男は、年季の入った厳つい顔をしている。

 顔の怖さならば自分もそれなりだが、この男はそれ以上なんじゃないかと考えるユーゴへと、鎧武者は言った。


「しかし、腕も立つ上に相手に情けをかけられる度量の深さまであるとは……まっこと、娘はいい男に惚れたもんだ!」


「んん? 娘、だって……?」


 男が発した気になる一言に顔をしかめるユーゴ。

 そういえば、この後先考えずに突っ走る暴走しがちな性格とか、水を使う戦い方には覚えがあるぞと鎧武者の正体に感付き始めた彼の耳に、思い浮かべていた人物の声が響いた。


「ユーゴ殿! ご無事でござったか!?」 


「あっ、サクラ!」


 血相を変えてこちらへと走ってくるサクラの姿を目にしたユーゴが彼女の名前を呼ぶ。

 自分たちのすぐ傍まで駆け寄ってきた彼女は、そのままの勢いで深々と頭を下げながら口を開いた。


「大変申し訳ござらぬ、身内がとんだ粗相を……!」


「身内、ってことは……この人、サクラの……!?」


「はい。恥ずかしながら、拙者の父でござる……」


 やっぱりそうだったか、と思いながらもやはり驚かずにはいられなかったユーゴが鎧武者もといサクラの父へと顔を向ける。

 ニカッと強面に明るい笑みを浮かべた彼は、つい先ほどまで戦いをしていたとは思えないほどに快活な声でユーゴへと言った。


「そういうわけだ。将来、義理の親子になる間柄だし、色々水に流して仲良くやるとしようじゃあないか!」


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ついにコミカライズ発売まで一週間となりました!

ニチアサオタク悪役転生第一巻をよろしくお願いします!!

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