side:黒幕(三人目の登場)

「……さて、どうだったかな? これがマイヒーローの活躍の裏で起きていた出来事、もう一つのエピローグってやつだよ」


 ――場面は再び暗闇の中へと戻る。

 ユーゴたちの活躍を見守っていたロストは、得意気に語りながら僅かに覗く口元に笑みを浮かべていた。


「制裁されるべきクズの消滅。これからざまぁ・・・されること間違いなしの転生者どものあれこれ。そして、舞台から一時退場した男が残す謎……これからの展開が楽しみになるお話ばかりだっただろう? かくいう私も期待で胸が弾みっぱなしだよ!」


「ロスト~。お~い、ロスト~」


「果たして、転生者たちはどんな卑怯な手を繰り出してくるのか? マイヒーローはそれをどう突破するのか? この世界の真実とは!? ……どれも楽しみでしょうがないよね。それに、修学旅行編とでもいうべきシナリオにも期待が――!!」


「ちょっと~、話聞いてる? 無視しないでくれない?」


「……なんだい、ドロップ。見ての通り、私は今、とても大事な話をしている最中なんだが?」


 そうやって楽し気に話をしていたロストは、その合間合間に自分へと声をかけてくるドロップへとため息を吐いてから反応した。

 ぺろぺろと大きなキャンディーを舐めている彼女は、ようやく自分の方を向いた彼へとこう言う。


「盛り上がってるところ悪いけどさ、お客さんだよ」


「ええ……?」


 ドロップがそう言うと共に、暗闇の中に足音が響く。

 こちらへと近付いてくる気配に目を細めたロストへと、歩いてきた男が大きな声でこう述べた。


「素晴らしいですよ、ロストくん! 君の演出はなかなかのものだ! 僕も賞賛せざるを得ませんねぇ!」


「これはこれは、珍しいお客さんだ……何の用だい、アビス?」


 この闇の中に姿を現したのは、ロストやドロップよりも少し年上の男性だった。

 綺麗なスーツに大きなハットという身なりのいい紳士とでもいうべき容姿のその男の名を呼んだロストへと、彼はこう続ける。


「用件ですか。君の素晴らしい演出を褒めにきたのと……ようやく、私が思い描く舞台の準備が整った、ということを伝えにきた感じですかね」


「……君の舞台? あまりにも急じゃないか。これまでずっと大した動きも見せなかったっていうのにさ」


「演出家が役者より目立つわけにはいきませんからね……見えないところでしっかりと動いていたんですよ。その証拠に、ほら」


 そう言いながら、アビスが懐からある物を取り出す。

 闇よりも深い黒の紙に、血のような赤色で文字が書かれているそれは、何かのチケットのようだ。


 それを目にしたロストが小さく舌打ちを鳴らし、口元を不機嫌に歪める中、彼とは対照的に上機嫌なアビスが言う。


「僕が本気だということを理解していただけたようですね。一応言っておきますが、舞台の邪魔だけはしないでくださいよ」


「……ああ、わかってるよ」


 結構、とばかりに微笑んだアビスが、その言葉を最後にこの場を去る。

 完全に彼の気配が消えた後、キャンディーを舐め終えたドロップがロストへと声をかけた。


「どうすんの? あいつ、本気っぽいよ。このままじゃ、全部終わっちゃうんじゃない?」


「……それはどうかな? マイヒーローがそう簡単に敗れるわけがない」


「ん~……確かにそうかも。でも、それはアビスだって同じでしょ?」


「いいじゃないか、それで。ヒーローと黒幕、双方がぶつかり合う時が来た。これはこれで盛り上がる展開だろう?」


 少し落ち着いた様子のロストは、ユーゴの勝利を信じているようだ。

 ふぅ、と息を吐いた彼は、画面の中で仲間たちと話をする推しの姿を見つめながら口を開く。


「本格的に動き出した黒幕とヒーローとがぶつかり合う波乱の展開……全てを破壊せんとする悪の野望をヒーローは打ち砕けるのか? うん、いいね! 面白そうだ!」


「まあ、そろそろ主人公()たちが相手じゃあ物足りなくなってきたところだもんね。だからこそ、アビスも動き始めたんだろうけどさ」


「そうだろうね。つまり彼は、シナリオに沿って転生者たちを駆逐しようとしている。しかし、潰す対象の中にマイヒーローは入っているのかな? 彼の爆発力を舐めているとしたら……何もかもがアビスの思い通りになるってことはないだろうね」


 アビスが何を考えているのか、その全てをはっきりと理解することはできないが……動くタイミングは予想できる。

 とある島を転生者たちに無様な死を迎えさせるための舞台として選んだであろうアビスは、そこで何を仕掛けるつもりなのだろうか?

 その上で、ユーゴはどうやって黒幕の野望を打ち砕くのか? ……ロストの興味はそこにあった。


「準備に準備を重ねた上に、いざって時のためのチケットも持ってる。アビスが勝っても負けても、大盛り上がりは間違いないでしょうね」


「それは困るなぁ。私は、もっとマイヒーローの活躍が見たいんだ。そこで物語を終わりにされたら、それが叶わなくなるじゃないか」


 黒幕の野望を同じ立場の自分たちが邪魔するわけにはいかない。それが黒幕のルールだ。

 しかしまあ、ただ見ているだけというのもつまらないし、アビスの脚本を楽しみながら、自分たちもチャンスがあれば舞台に上がろうという気持ちがロストとドロップの中にはある。


「波乱の修学旅行編、ってところかな? さて、物語はどう転ぶやら……?」


「決まってる、マイヒーローが勝つよ。確証はないけど、私はそう信じてる」


 一難去ってまた一難。あり得ないような話だが、ヒーローに休む暇はない。

 ザラキとの戦いを終え、一息つきながら仲間たちの無事を喜ぶユーゴの下には、また新たな戦いの予感が迫っていた。


―――――――――――――――

【ニチアサ好きのオタクが悪役生徒に転生した結果、破滅フラグが崩壊していく件について】、これにて第三章閉幕です!今回も長かった……。


今回のお話で400話。途中でコロナに罹って長いお休みをいただいてしまいましたが、思えば長い間、皆さんに支えていただいているなと改めて実感しました。


コミカライズもスタートし、あれよあれよという間に第一巻の発売も決まって、作家(と自称するのもおこがましいですが)として充実した日々を過ごせています。

それも全て、皆さんのお陰です。本当にありがとうございます。


図々しいお願いだとは思いますが、単行本も購入していただけるとありがたいです。

いっぱい売れたら次の展開(ア○メ化とか海外翻訳版の出版とか)もあるかもしれませんし、モチベーションにもつながりますし、何よりメンタルクソザコの自分が落ち着きますので……。


マジで最近は不安で夜も眠れない日々を過ごしておりますので、購入した際にはご報告いただけると嬉しいです!本気で精神安定剤になる……。


というわけで次回からは短編を幾つか書いた後、修学旅行編とでもいうべき四章に入らせていただきます!

そちらもお楽しみに!12月19日に発売のコミックス第一巻もよろしくお願いします!(大事なことなので二回言った)


そして本日、てれびくんスーパーヒーローコミックスで5話前編が公開中です!

物語が動き出していく大事なお話、少しだけですが小説版とは違う感じにしてますので、是非とも読んで#ニチアサオタク悪役転生で呟いてみてください!

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