風龍VSメルト&セツナ!

「ビュゴオオオオオオッ!」


「この、卑怯者~っ! 龍の癖に、せこい戦い方するな~っ!」


 上空から翼を羽ばたかせて生み出したかまいたちを放ち、攻撃を繰り出す風龍へとメルトの叫びが飛ぶ。

 遠距離攻撃を得意としている彼女とセツナであるが、今回の相手はやや分が悪いようだ。


「くっ……! ダメ、私の矢じゃ掻き消されちゃう……!!」


 風と龍の力を持つ矢を放つセツナであったが、それよりも強い力を持つ風龍が巻き起こす突風によってその矢は全て掻き消されてしまっている。

 メルトもスワード・リングで魔力剣を飛ばしてはいるが……射程が足りず、風龍まで届かない状態だ。


「下りてこ~い! 正々堂々戦え~っ!!」


「一方的に攻撃され続けてる、このままじゃ……!」


 射撃戦に置いて、高低差は非常に重要な要素だ。

 自分たちより上を取っている風龍の方が優位で、一方的に攻撃を仕掛けられている現状がそれを証明している。


 この状況をどうにかしなくてはと考え、矢を射かけるセツナであったが、やはり暴風に消し飛ばされて風龍までは届かない。

 あべこべに繰り出されたかまいたちが飛んでくる様を目にしながら、セツナは被弾を覚悟したのだが……そこにメルトが割って入った。


「セツナ、危ないっ!」


「っっ!!」


 叫びながら繰り出された魔力剣がかまいたちにぶつかる。

 切っ先から風の刃の中央にぶつかった魔力剣は、そのままかまいたちを粉砕すると風龍に向かって飛んでいき、その途中で消滅してしまった。


「あ~っ! やっぱりダメだ! 私の攻撃じゃ届かない……!!」


「……!」


 何度やっても同じことの繰り返し。射程範囲外を飛び回る風龍に自分の攻撃は届かない。

 そのことにもどかしさを感じるメルトが悔しそうに地団太を踏む中、一連の出来事を見ていたセツナがはっとすると共に彼女へと言う。


「メルト、方法があるわ! 私たち二人の力を合わせるの!!」


「え……? あっ、そうか!!」


 セツナの矢は射程範囲は足りているが、龍が巻き起こす暴風を突破できない。

 メルトの剣は暴風の壁を突破できるが、射程範囲が足りず、龍まで届かない。


 この問題を解決する方法は、拍子抜けするくらい簡単だった。

 セツナが言わんとしていることを理解したメルトは、スワード・リングに魔力を込めて細く長い剣を生成していく。


「あの風を突破して、龍を貫く……強くて鋭い剣!!」


 膨らませたイメージを魔力を使って形にしていくメルト。

 セツナが見守る中、レイピアと矢の中間のような剣を作り出したメルトは、紫に輝くそれをセツナへと手渡しながら言う。


「セツナ、これを!」


「ありがとう、メルト」


 メルトから受け取った魔力剣を弓に番え、狙いを定めるセツナ。

 その最中、繰り出されるかまいたちを粉砕するメルトへと、彼女は静かに口を開く。


「ねえ、メルト……こんな時にする話じゃないってことはわかってる、だけど――」


「どうしたの、セツナ?」


「……ライハのこと、黙っててごめんなさい」


 自分たちを友達として迎え入れてくれたメルトに、自分はとても大事なことを黙っていた。

 信頼関係を崩壊させかねない自身の行為を謝罪するセツナを見たメルトは、弾けるような明るい笑みを浮かべながら彼女へと言う。


「……ランチ一回」


「えっ……?」


「エーンの店で、ランチ奢ってよ。それで全部チャラね!!」


 明るくそう言い放ったメルトを、目を丸くして見つめるセツナ。

 メルトは、困惑を隠せないでいる彼女へとこう言葉を続ける。


「友達じゃん、その程度のことでいいんだよ。それとも、私がもう友達やめる! って言い出す女だって思ってる?」


「……いいえ。私には十分過ぎるくらいにいい友達よ」


「でっしょ~? じゃあ、さっさと決めちゃおうよ!」


「そうね。予定ができたんだもの、こんなところで時間を潰してる暇なんてないわよね」


 笑顔で、明るく……そう言うメルトに釣られて笑みを浮かべたセツナが、大きく息を吐く。

 胸の内に抱いていたわだかまりを、もやもやとした感情を、その呼吸で吐き出した彼女は、澄んだ心で弓を構えると風龍へと狙いを定めた。


(届く、決められる! 今の、私たちなら……っ!!)


 受け取った想いを、自分自身の想いを、この一射に込める。

 番えた剣に魔力を注ぎながら、その切っ先が風龍を捉えた瞬間、セツナは渾身の一矢を標的へと放った。


「貫け! 私たちの、想いっ!!」


「ビュッ、ゴッッ……!?」


 荒れ狂う暴風を切り裂き、撃ち出されるかまいたちを真っ向から下して、風龍へと飛ぶ紫の剣。

 メルトとセツナ、二人分の魔力と魔道具による龍の力が込められたその一射は吸い込まれるように標的に突き刺さると、核となる心臓を貫く。


「ゴオオオオオオオオッ!!」


 風の鳴る音か、あるいは断末魔の悲鳴か。

 轟音を響かせながら落ちていった風龍は地面に衝突すると共に肉体を塵と化させ、自身が生み出した風に舞って消え去ってしまった。


「やったね、セツナ!」 


「ええ。あなたのお陰よ、メルト」


 弓を下ろした自分に抱き着きながら大喜びするメルトを制しながら、喜びを分かち合うセツナ。

 一人ではできなかったことを可能にしてくれた異国の友人に感謝する彼女は、これまでで一番の笑顔をメルトへと向けるのであった。

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