ヒーロー・トライマキシマム!

「馬鹿な……!? あんなガキどもに、俺の龍が……!!」


「あいつらを舐めんなよ。張りぼての龍程度でどうにかできる連中じゃあねえんだ」


 自分が生み出した龍たちが、女子たちに敗北する様を目にしたザラキが愕然とした様子で呻く。

 メルトたちの勝利を信じて疑っていなかったユーゴの言葉に悔しさと怒りを募らせた彼は、苛立ちを爆発させながら叫んだ。


「どいつも、こいつも……! 俺の邪魔をするんじゃねえ! ウザってえんだよ、お前ら!!」


「……!?」


 ザラキの周囲で、今までとは比較にならない強さの風が吹き荒れる。

 腕を広げたザラキが怒りに満ちた形相を浮かべながら自身の力を解き放つ様を目にしたユーゴたちは、徐々に強くなる風が竜巻へと変わっていく場面を見て、息を飲んだ。


「あの野郎、まだあんな大技を隠し持っていやがったのか!!」


「マズいな。あの威力、僕たちどころかライハたちも巻き込まれかねないぞ」


「どうする、ユーゴ!? 無茶を承知で突っ込むか!?」


 ザラキがあのまま竜巻を放てば、自分たちだけでなくメルトたちや倒れている警備隊員たちもただでは済まない。

 それを阻止するためにあの暴風の中に突っ込み、ザラキに攻撃を仕掛けるという手段もあるが……その前にユーゴたちが倒れる可能性の方が高いだろう。


「くっ……!! ザラキの体力は底なしか!? こちらは、大技を撃てて一発程度だというのに……!!」


 ここまでの激戦でユーゴたちは体力も魔力も使い果たしている。全力の攻撃を繰り出せるのは、せいぜい一回くらいのものだろう。

 そして、その威力はザラキが繰り出そうとしている竜巻よりも弱い。今のユーゴたちには、ザラキを倒す決定打がなかった。


「あれをどう凌ぐ? 相手の攻撃は、かなり強力だぞ」


「ん……? 相手の、攻撃……?」


 リュウガの呟きを聞いたユーゴが、あることを思い出す。

 病院で目を覚ました時、手の中に握られていた紙……ぐしゃぐしゃになっているそれは筆跡も滅茶苦茶で、読むのが精一杯だった。


 あの時は状況が状況だったし、何故こんなものが自分の手に握られていたのかもわからなかったため、深くは考えなかったが……今、ここに至って、ユーゴはそこに書かれていた内容を思い出すと共に、それを声にして呟いた。


……攻撃を、利用……あっ!!」


 その言葉と、目の前で作り出される竜巻を目にしたユーゴがとある場面を思い出す。

 絶体絶命の危機に瀕した二人のヒーローが、強大な敵を打ち倒すために取った策……そして、ザラキ自身の弱点と特性を思い出した彼は、リュウガとマルコスへと尋ねた。


「なあ……ザラキの野郎は、龍の力が弱点なんだよな?」


「ん? どうした、急に? それはその通りだが……?」


「あの野郎が今、撃とうとしてる竜巻……あれにも当然、龍の力が込められてるよな? もしもあれをザラキが喰らったら、ただじゃ済まねえよな?」


「……ユーゴ、まさか――!?」


「そのまさかだ。三分の一ずつ力貸せよ、二人とも。ぞ、あの竜巻を!」


 ユーゴが思い付いた策。それは、ザラキ自身の攻撃を弾き返すというものだ。

 ただでさえ強力な攻撃に加え、弱点である龍の力が加わったその一発を叩き込めれば、流石のザラキも無事では済まない……理論的には理解できるが、無茶としか思えない策を提案するユーゴへと、マルコスが問いかける。


「本当に可能だと思うか? 我々の攻撃で、あの竜巻を弾き返せるか?」


「できる! 俺たち三人が力を合わせれば、絶対にザラキに勝てる!!」


 兜の下で強い意志を秘めた表情を浮かべながら、マルコスへと断言するユーゴ。

 その声と、自身に向けられる視線から彼の意志を感じ取ったマルコスは、小さく鼻を鳴らしてから口を開く。


「はっ……! 確かにあの馬鹿でかい竜巻の方が、ザラキ本人よりも我々の攻撃を同時に直撃させるのが簡単そうだ。乗るぞ、ユーゴ。お前のその無茶な策にな!」


「サンキュー、マルコス! リュウガ、お前はどうだ?」


「……僕に質問をするなよ、ユーゴ」


 そう言いながらリュウガの方へと振り返れば、既に彼は大技を繰り出すための構えに入っていた。

 不言実行を地で行く彼の態度に小さく「そうこなくっちゃ」と呟きながら、ユーゴとマルコスもまたリュウガの横に並ぶと共に魔道具へと魔力を込めていく。


「三人で同時攻撃だ。タイミングを合わせるために――って掛け声で行くぞ!」


「……待て。それは僕も言うのか?」


「当然、お前もだ」


「ごちゃごちゃとうるせえんだよ! 消し飛びやがれ、クソガキどもっ!!」


 全霊の力を込めたザラキの攻撃が、遂に解き放たれた。

 唸りを上げて迫る竜巻にメルトやジンバたちが防御の構えを取る中、ユーゴ、リュウガ、そしてマルコスが真っ向から勝負を仕掛ける。


「さあ……行くぜっ!!」


 マルコスがギガシザースの鋏部分に魔力を纏わせ、巨大な横の斬撃を放つ。

 同じく、龍王牙に魔力を注いだリュウガが刀を上段から斬り下ろす中、高く跳躍したユーゴは竜巻目掛けて飛び蹴りを繰り出した。


「「「ヒーロー・トライマキシマム!!」」」


 掛け声と共に繰り出された黄金の横の斬撃と雷撃を纏う縦の斬撃は、竜巻に向かう中で組み合わさり、十字の斬撃へと姿を変える。

 その結合部に飛び蹴りを繰り出す足を当てたユーゴは、二人の攻撃と共に竜巻へと突っ込み、激しくぶつかり合い始めた。

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