水の龍VSアンヘル&サクラ!

「おっと! 危ない、危ない!」


「大丈夫でござるか、アンヘル殿!?」


 水龍の突進攻撃を回避したアンヘルが、自分を心配するサクラへと軽く手を振って無事を伝える。

 そうした後、距離を取った相手を見やりながら、二人は相談をし始めた。


「攻撃は突進のみ、動きも直線的で避けられない速さってわけでもない。だが――」


「身を守る水流が厄介でござるな。あれのせいで、拙者たちの攻撃が龍まで届かなくなっている」


 四つ足の水龍が繰り出す攻撃は、先端の鋭い角を活かした突進攻撃のみ。

 それ自体は簡単に回避できるのだが、問題は反撃をしようとしても相手が纏う水によって攻撃が弾き返されてしまうことだ。


 サクラやセツナの魔道具が弱点であることを本能的に理解しているザラキが生み出したからこそ、龍たちもその対策を身につけているということなのだろう。

 再び突進してきた水龍をジャンプして回避した二人は、厄介な特性を持つ相手の攻略法を話し合っていく。


「拙者たちも余裕はない。このままでは体力が尽きて、相手の攻撃を避け切れなくなってくるでしょう」

 

「だったら……リスクを承知でぶつかるしかないね」


 長期戦になったら不利なのは自分たちだ。ならば、こちらから仕掛けるしかない。

 そう判断したアンヘルはハンマーを逆さにして地面に下ろすと、頭の部分を踏みつけながら水龍を睨み、口を開く。


「サクラ、アタシが邪魔な水をどうにかする! あの水龍にトドメを刺す役目は任せたよ!」


「ま、真っ向から勝負するつもりでござるか!? それは流石に危険過ぎるでござるよ!!」


「わかってるよ。でも、やるしかないんだ。お互いに相手を信じてぶつかる以外に、勝ち目はない」


「……!!」


 こちらへと突っ込む構えを見せる水龍を、正面から受け止めようとするアンヘルがサクラへと言う。

 ライハの秘密を黙っていたことに対して負い目を感じているサクラが息を飲む中、アンヘルは彼女を見つめながら口を開いた。


「信じろよ、アタシを。絶対にお前が龍を仕留める隙を作りだしてみせる。それと……信じてるぞ、サクラ。お前なら、絶対にあの龍にトドメを刺してくれるってな」


「……承知!!」


 信じ合う……アンヘルの言葉を受けたサクラは、そこに込められた信頼の感情を受け止めると共に覚悟を決めた。

 彼女が龍を守る水の鎧をどうにかしてくれると信じ、自分を信じてくれる彼女の想いに応えると決めたサクラの前で、水龍が二人へと突っ込んでくる。


「ジョバアアアアアアアアアアアッ!!」


「来たぞ! 準備はいいな、サクラっ!!」


「ええ……!! 拙者の命、お預けします!」


 咆哮と共に猛進する水龍を前に、気力と魔力を高めていく二人。

 地面を踏み鳴らしながら突っ込んできた水龍が射程範囲に入った瞬間、目を見開いたアンヘルが動いた。


技師七つ道具セブンス・ツール……『火吹きふいご』!!」


 地面に置かれていたハンマーが形を変え、使い手であるアンヘルの足元でふいごへと変形していく。

 彼女がそれを思いきり踏みつければ、口部分から風ではなく真紅の炎が吐き出され、水龍を包み込んでいった。


「ジョロラアアッ!?」


 突然の事態に水龍が驚く中、吐き出された炎によって彼が纏う水が蒸発していく。

 自身を守る鎧が消えたことを悟りながらも、それでも目の前のアンヘルを角で貫くべく突進する水龍であったが、不意にその巨体がふわりと宙に浮いた。


「ジョ、ロ、ロ……っ!?」


「……歪なる水龍よ。許されざるその命、この雨宮桜が黄泉へと送らせていただく」


 薙刀を手に、静かに舞うサクラ。

 彼女が生み出した泡が水龍を包み、持ち上げ、身動きを封じる。


 存在してはならない命の罪を洗い流し、龍の命に敬意を払うための巫女としての舞いを見せたサクラは、強く薙刀を握り締めると共にそれを横に振った。


「水龍舞踊・演目――『人魚姫』」


「ゴボッ……!?」


 龍の喉が、音もなく掻き切られる。

 血を噴き出しながら、声にならない呻きを漏らしながら、命尽きた水龍はその肉体を泡へと変えながら朽ちていく。


 深く……深く息を吐き、緊張を解いていったサクラが顔を上げれば、そこには同じく張り詰めていた気を緩めて地面に尻餅をつくアンヘルの姿があった。

 顔を合わせた彼女は、照れくさそうな笑みを浮かべながらサクラへと言う。


「そういや、大事なことを言ってなかった」


「なんでござるか、アンヘル殿?」


 このタイミングで? と思う気持ちもあったが、きっとこのタイミングだからこそ言うべきことなのだろう。

 手を貸し、重いお尻を浮かせながら立ち上がったアンヘルは、サクラに笑みを向けながら伝えるべきことを口にした。


「アンヘルじゃなくていい。アタシのことはアンって呼べ。親しい友達には、そう言ってるんだ」


「ふ、ふ……っ! そうでござるか。では、アン殿! お見事なお手前でござった!」


「ああ、サクラもな!」


 お互いの信頼に応え、勝利を掴み取った二人が固い握手を交わす。

 その一方で、メルトとセツナの戦いもまた、決着の時を迎えようとしていた。


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