DIE SET DOWN!!

「グジュッ、ジュッ、グジュル……」


 口(というべき器官があるかは怪しいが)から唾液をすするような汚らしい音を響かせながら、フラワーモンスが病院内を徘徊する。

 ゆらり、ゆらりと緩慢な動きを見せる彼は、逃げ遅れた患者を探しているようだ。


 この魔鎧獣の目的は単純明快。母体であるギガントローズの餌となる人間を捕まえ、連れていくことである。

 誕生して間もない新種の魔鎧獣ながらも、十分過ぎるほどの脅威を持つようになった彼らは、その生態のままに活動していた。


「ジュビ、ジュグ、グジュ……」


 屋上に咲いたギガントローズから産み落とされたフラワーモンスは、上階から順番に病院を見て回っている。

 ただ、この時点で既にユーゴたちによって最初に産み落とされた個体は倒され、同時に患者たちの避難も完了しているため、餌となる人間は当たり前ながら見つけることができないでいた。


 残念ながら(人間からすると幸運ではあるが)、フラワーモンスの知能は決して高くはないようだ。

 ただ餌を捕獲し、運搬する役目なのだから、それも当たり前なのかもしれない。


 ただ、軟体生物であるイカの魔物、クラーケンが持つ衝撃を吸収するボディと、エクスプローズの爆発する実を併せ持つ彼らは、知能が低くても驚異的な存在であることに変わりはない。

 容易に手を出せず、さらに手を出した場合には甚大な被害が出る可能性があるという厄介極まりない性質を持っているフラワーモンスは、人がいない廊下をゆらりゆらりと歩きながら餌を探していた。


 唸り、歩みを進め、どこかに手頃な餌はいないかと捜索を続けるフラワーモンス。

 ゆらゆらと歩き続けた彼は、ふと周囲に気配を感じてその足を止める。


「グジュ……?」


 足音を聞いたわけでもない、姿を見たわけでもない。ただ、が近くにいるという感覚だけはある。

 それを母体に捧げる餌として捕獲しようとしたフラワーモンスであったが……段々と、形容できない感覚が広がってきた。


 じりじりと駆け上ってくるそれは少しずつ膨らみを増し、魔鎧獣の本能に何かを訴えかけてくる。

 しかし、低い知能と鈍い感覚しか与えられていないフラワーモンスはそれがなんであるかを理解できていないようだ。


「グ、ジュグ、グ、ジュ……!?」


 違和感がある。何かが変だと思う。ただ、何故自分がこんな感覚を覚えているのかがわからない。

 不可解な状況に困惑するフラワーモンスがその答えに辿り着いたのは、自身の間近にまで迫った黒い影を目にした時だった。


「シッッ!!」


「グジュル……!?」


 何かがいる、と思った時には手遅れだった。

 いつの間にか接近していた黒い影が腕を振るえば、切れ味鋭い一撃によってフラワーモンスの両腕が吹き飛んでしまう。


「ジュッ、ジュルッ……!?」


 抵抗の術を奪われてから後頭部を掴まれ、自身の首筋に迫る刃を感じた時、魔鎧獣は今の今まで自分が感じていた感覚の正体を理解した。

 あの違和感の正体は……恐怖だ。獲物として狩られることへの恐怖を、自分は感じていたのだ……と。

 

 狩る側であったはずの自分が、いつの間にか狩られる側に回っていた。その事実に気が付くまで時間がかかってしまった。

 いや、気が付いた時には何もかもが遅かったのだろう。なにせ、彼の首は今から刈り取られようとしているのだから。


「大! 切! 断!!」


 断末魔の悲鳴を上げることもできずに首を斬り落とされたフラワーモンスが、傷口から緑色の体液を噴き出しながら崩れ落ちる。

 両腕と胴体、さっきまで生命だったものを辺り一面に散らばらせた魔鎧獣が完全に身動きをしなくなったことを確認したユーゴは、掴んでいる頭部を見つめながら口を開いた。


「こちらユーゴ、徘徊していた魔鎧獣を撃破した。爆弾も無事に回収完了だ」


「おう、やったな! こっちも順調に爆弾を回収できてるぜ!」


 仲間たちへと魔鎧獣を倒したことを報告するユーゴ。

 式神を通じてその報告を受け取ったヴェルダは、やや興奮気味の声でそう伝えつつ言葉を続ける。


「おいおい、思ったより楽勝じゃあねえか! 意外とあっさり爆弾の回収も終わって、ここから脱出できるかもな!」


「油断するんじゃないわよ、ヴェルダ。一番大変な部分をユーゴが担当してくれてるから楽に感じられるだけであって、危険な状況であることに変わりはないんだからね?」


 通信の向こう側から聞こえるピーウィーの叱責に苦笑を浮かべたユーゴが変身を解除する。

 同行している生徒に爆弾付きのフラワーモンスの首を預けた彼は、今度はライハへと通信をつなげた。


「ライハ、状況はどうだ? 何か変化はあったか?」


「いえ、今のところは大丈夫です。新しい爆弾の実も、フラワーモンスも、生み出された様子はありません」


 よかった、と小声で返したユーゴが小さく安堵の息を吐く。

 ギガントローズは巨大に成長するために自身が有している魔力の大半を使ってしまったのか、それ以上の動きを見せないでいる状況だ。

 もしかしたら、このまま相手に魔力を補充させなければ、勝手に枯れてくれるのでは……と考えたユーゴであったが、後手に回る必要もないだろうとその考えを改めた。


 あと少しで全ての爆弾回収が終わり、警備隊による巨大花の凍結作戦が開始されるはずだ。

 ギガントローズの活動を停止させれば、内部に取り残されている自分たちの救出作戦も問題なく進むはずだと思う彼へと、ライハが声をかける。


「問題は外にいる犯人ですよね。私たちが脱出できそうだと知ったら、また何か仕掛けてくるかも……」


「そうかもな。でも、心配要らねえよ。そっちの方は、みんなが何とかしてくれるはずだ」


 この事件の犯人と思わしき男の確保には、ジンバや外にいる仲間たちが動いてくれている。

 彼らなら、犯人が次の動きを見せる前に必ずやその身柄を確保してくれると、ユーゴはそう信じていた。


「だから、俺たちは俺たちにできることを全力でやろう。絶対に、誰一人欠けることなく脱出するって信じてさ」


「そうですね。絶対に、みんなで脱出しましょう!」


 ライハの力強い返事に笑みを浮かべ、頷くユーゴ。

 脱出を目指す一同が想いを一つにする中、病院外では事態が動きつつあった。


―――――――――――――――

本日もてれびくんスーパーヒーローコミックスさん(https://televikun-super-hero-comics.com/)で漫画版が更新されております!

多分、毎週更新はこれでラストだったと思いますので、次の更新までの間、こちらのお話をお楽しみください!


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