閉ざされた病院

「アン? アンか!?」


「よっしゃ、繋がった! ユーゴ、アタシの声は聞こえてるかい?」


「ばっちり聞こえてるよ。流石、お前の作った通信機だな」


「やはり無事だったか。まあ、最初から心配などしていなかったがな」


「お前の声が聞けて嬉しいよ、マルコス。そこにリュウガがいるなら、ユイちゃんも無事だと伝えてくれ」


「聞こえてるよ、ユーゴ。心配してくれてありがとう。だが、今は僕を気遣うより、自分のことを心配した方がいいんじゃないか?」


「ははっ、そうだな……悪い、外がどういう状況なのか教えてもらっていいか? 今は少しでも情報が欲しいんだ」


 問題なく通信が行えていることを確認した後、アンヘルは今、自分たちが持てる限りの情報をユーゴへと伝えていった。

 屋上に咲いた巨大な花が今回の事件の元凶であること、エクスプローズの特性のせいで警備隊も手出しができないということ、融合したもう一体の魔物はクラーケンであるということを伝えられたユーゴは、なるほどといった様子で呟く。


「クラーケンって、デカいイカか! 通りで変な手応えだと思ったぜ」


 あの妙な手応えの正体が軟体生物であるイカの特性であることを理解したユーゴが頷きながら呟く。

 そういえば、古代から復活したヒーローが活躍する某作品の中に、打撃の衝撃を吸収してしまうイカがモチーフの怪人がいたなと思い返す中、驚いた様子のアンヘルが彼へと質問を投げかけてきた。


「変な手応えって……お前、あの馬鹿デカい花と戦ったのか!?」


「いや、戦いはしたけど相手はあのデカいのじゃあなくって――」


 と、そんな感じで今度は内部であったことをアンヘルたちにユーゴが報告していく。

 今、病院内がどうなっているかという重要な情報をジンバと共に集中して聞いていった一同は、そこからわかったことを整理していった。


「つまり、あの花は何の前触れもなく出現したんだな? となると……」


「十中八九、誰かの手によって用意された個体だ。しかし、魔鎧獣を作り出すだなんてことが可能なのか……?」


「少なくとも、我々はここ最近、人間が魔鎧獣に変貌するケースに何度も遭遇しています。それが可能だというのなら、人工の魔鎧獣を生み出すことも十分にできるのではないでしょうか?」


 病院に勤めている医師や看護師に聞いても、こんな事態が発生する予兆は何もなかったと全員が口を揃えて証言している。

 ということは、誰かが成長前の魔鎧獣を病院に持ち込み、急成長させたと考える方が自然だ。


 そこまで話をしたところで、ユーゴがあっと何かを思い出したかのように声を上げる。


「ああっ、そうだ! 魔鎧獣が出る直前、大慌てで病院から出ていった奴がいたぞ!!」


「あっ……! 私にぶつかった、あの……!!」


 ユーゴに話をしようとしていたライハにぶつかり、そのまま大急ぎで走り去ってしまったあの男性。

 今思えば、病院に魔鎧獣が出現したのはその直後だった。


 つまり彼は、自分の手でこの巨大な花の魔鎧獣を屋上に設置し、成長しきる前に病院から脱出しようとしていたのだろう。

 あの不自然な行動も、この後に起きる事件に巻き込まれないために急いでいたと考えれば、納得できる。


「その怪しい男、探して話を聞いてみる価値はあるな。人手をそっちに割いてみよう」


「大丈夫? もうとっくに遠くに逃げちゃってるんじゃない?」


「いや、この手合いの犯罪者は慌てふためく人々の様子をどこかで必ず見ているはずだ。自ら現場に乗り込んで事件の種をまくような奴なら、猶更な」


 自ら現場に乗り込み、事件の仕込みをするような人間ならば、その成果をこっそり隠れて見物しているはずだ。

 話を聞く限り、今回の事件の犯人は愉快犯である可能性が高いと判断したジンバがプロファイリングを行う中、話は病院内からの脱出に関するものへと移っていく。


「とりあえず、病院内の人たちは一階の待合室に集めてる。扉を開けば外に出れる距離だが……その扉が茨で固められちまってるな」


「偶然そうなってるってわけじゃあなさそうね。出入口を的確に封じて、中にいる人間を外に出さないようにしてるみたい」


「その上で病院内に手下を送り込み、人々を襲わせている……それなりの知能はありそうだな」


「ここは奴のテリトリーで、俺たちは巣の中に放り込まれた餌ってことかよ? 笑えねえな、おい」


 魔鎧獣の狩場と化した閉ざされた病院の中に閉じ込められたユーゴが忌々し気に呻く。

 何かの番組でこれと似たシチュエーションを見たなと、その物語の中で閉じ込められた人々はどうやって脱出していたかとユーゴが必死に記憶を巡らせる中、仲間たちが話し合いを進める。


「下手に手を出せば、エクスプローズの爆弾が一斉にボンッ、だ。それも、一斉にな」


「通常のエクスプローズとは比較にならない大きさの個体であることを考えると、爆弾の威力も相当なものでござろうな……」


「でも、このままじゃ状況は良くならないよ! ユーゴが戦った人型の植物が大量に出現したら、それこそ対処のしようがないじゃん!」


「せめて……せめて爆弾さえ除去できれば、打つ手もあるんだが……!」


 事件の犯人とでもいうべき男を確保し、巨大な花をどうにかする方法を聞き出せればいいが……そう話が上手く進むとは限らない。

 優先すべきは犯人確保よりも病院内に閉じ込められた人々を無事に脱出させることであり、そのためにはエクスプローズが生み出す魔力爆弾の実が邪魔だとジンバが呻いたところで、ライハが口を開いた。

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