同時刻、外の仲間たちは――

「いた! お~い、ジンバさ~んっ!!」


「おお、お前たち! やっぱり来たか!」


 同時刻、病院の外。

 多くの野次馬と警備隊員が建物を囲む中、謎の植物に覆われた病院を見つめていたジンバの背に、メルトが声をかける。

 仲間たちと共にこちらへと駆け寄ってくる彼女に応えたジンバは、直後にメルト、マルコス、サクラからの質問攻めに遭う羽目になった。


「いったい何がどうなってるの!? あの植物、何!?」


「突入計画の目途は立っているのか? というより、中に入れるのか?」


「中に取り残された方々はどうなってるでござる!? 様子を知ることはできたでござるか!?」


「おいおい、そんなに一気に質問するなよ。こっちが混乱するだろうが」


 渋い表情を浮かべながら、慌てる少年少女たちを落ち着かせるジンバ。

 その横では冷静なメンバーが病院を見つめながら状況を整理していた。


「屋上から咲いてるあの花が元凶ね。茨のようなもので病院を囲んで、内外を分離してるわ。これじゃあ内部に突入するのも難しそうね……」


「かといって、燃やして駆除しようとしたら病院も巻き添えを食う。厄介な状況だな」


「お前たちの言う通りだ。茨は切り取ってもすぐに再生するし、広範囲攻撃で薙ぎ払うと病院にも被害が出る。屋上からの侵入もあの馬鹿でかい花に阻まれてる上に、かなり厄介な問題があってな……」


 セツナとアンヘルの分析に同意しつつ、状況を説明するジンバ。

 そこから更に解説を続けようとした彼の横を、腰に差した刀に手を添えたリュウガが擦り抜けていく。


「あっ、ちょっ!? お前、何するつもりだ!?」


「僕に質問をしないでください。病院に被害が出ない程度に茨と壁を斬ればいいんでしょう? それくらいなら、簡単だ」


 龍皇牙を構え、中に突入するための入り口を文字通り斬り開こうとするリュウガ。

 しかし、ジンバはそんな彼を必死に止めにかかる。


「待つんだ! この花はエクスプローズといって、自身の魔力で作った爆発する実を至るところに付けている! 下手に攻撃をすれば、その実が爆発を起こすぞ!!」


「なんだって……!?」


 ジンバの制止を聞いたリュウガが、愕然としながら動きを止める。

 警備隊が下手に手を出せない最大の理由を聞いた彼が悔しさに拳を握り締める中、エクスプローズの名前を聞いたメルトが驚きながら口を開いた。


「この大きな花がエクスプローズ!? 図鑑で見たことあるけど、こんなサイズに育つ魔物じゃないでしょ!?」


「俺もこんなに育った個体は見たことがない。ただ、自身のテリトリーを守ろうとする習性はエクスプローズも持っている。その部分は合致しているな」


「異常発達した個体……っていうよりかは、魔鎧獣か。あのサイズと茨を触手のように動かしているところから察するに、もう一体はクラーケンだな」


「クラーケンとエクスプローズの魔鎧獣だなんて、前例がない。全く新種の魔鎧獣ということか……!?」


 これまで発見報告が上がっていない魔鎧獣の出現に驚く一同。

 対処法が編み出されていない相手という部分も警備隊の対処が遅れている理由なのだろうなと考える彼らであったが、苛立ちを隠せないでいるリュウガが唸るようにして口を開く。


「相手が何の魔鎧獣だとか、そんなことはどうだっていい。奴を叩き斬れば済む話だ」


「落ち着け、リュウガ。妹が事件に巻き込まれて焦る気持ちはわかる。しかし、下手に手を出すと危険だという話は聞いただろう?」


 今、病院の中にはユイがいる。妹の安否が気になっているリュウガは、冷静さを失っているようだ。

 今にも病院を覆う魔鎧獣を叩き斬りかねない彼の肩を掴んで制止したマルコスが、その目を真っ直ぐに見つめながら説得する。


「こういう時こそ冷静になるんだ。焦って動けば、事態を悪化させかねん。一つ一つ、問題を解決していくことこそが近道だ」


「だが――っ!!」


「大丈夫だ。中にはユーゴがいる。あいつは絶対にお前の妹や病院内に取り残された人々を守り抜く。ユーゴを信じろ、リュウガ!」


「……ああ、そうだね。すまない、頭に血が上り過ぎていたようだ」


 今、病院内にはユーゴがいる……そのことと、彼に全幅の信頼を寄せるマルコスの言葉を聞いたリュウガは、肩の力を抜きながら息を吐いた。

 普段の冷静さを取り戻したリュウガへとマルコスが頷く中、サクラとセツナがこう言葉を続ける。。


「ユーゴだけじゃない。ライハも中にいるわ。あの子だって戦巫女の一人、こういう時は頼りになるわよ」


「そうでござる! 二人を信じて、我々は我々のできることをするでござるよ!」


 二人の言葉を受けたリュウガは、無言のまま頷いた。

 中のことはユーゴに任せ、今、自分たちは外でできることをしようと一同が意思を統一する中、アンヘルが胸の谷間から通信機を取り出す。


「とまあ、そうは言ってみたが……まずは中の状況を確認しなくちゃな。情報交換もしたいし、連絡を取ってみるとしよう」


「大丈夫? 中に通じる?」


「アタシの腕を舐めんなよ? 確かに色々とごちゃついてるかもしれないが、この距離でなら……!!」


 不安気なメルトにそう答えつつ、通信機を操作するアンヘル。

 暫し時間が空いた後、彼女の言葉通りに無事に通信は繋がり、もう片方の通信機を持っているユーゴの声が聞こえてきた。

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