炸裂、真殺法!

「グジュジュラッ!」


 空中でブラスタを装着したユーゴが、魔力を纏った手刀を迫りくる茨の鞭へと繰り出す。

 鋭さと威力を増した一撃は鞭を両断し、見事に相手の攻撃手段を奪ってみせたユーゴはそのまま魔鎧獣の懐に飛び込むと、猛攻をかけ始めた。


「うおおおおおっ!!」


 左の連打。肘での殴打。胸のど真ん中へと叩き込む右ストレート。

 それらの攻撃を繰り出したユーゴであったが、その全てが妙な手応えでインパクトをずらされていることを理解していた。


(まるで芯を捉えられてる気がしねえ。ぐねぐねして、なんか変な感じだ)


 比較的細めの体躯をしている魔鎧獣だが、華奢なように見えて相手の攻撃を受け流す妙な特性を持っている。

 上手く説明できないが、攻撃の衝撃が吸収されているような感じだ。


 どうにか攻撃が効く部分はないかとくまなく胴体を叩いてみたが……どの部分においても手応えはなかった。

 金的などの下半身にある急所も、おそらくは攻撃しても意味はないだろう。

 となると、残されたのは顔面への攻撃ではあるが……ユーゴはそれを行うことを躊躇い続けていた。


(顔面に埋め込まれてるあの赤い実。直感だが、あれを叩くのはヤバい!)


 理由はわからない、ほぼ本能的な感覚での判断だ。

 しかし、この勘が絶対に間違いではないという確信をユーゴは抱いている。


 わかりやすく殴りやすい位置にあるあの実を潰してはダメだ。

 ぐらり、ぐらりと体を揺らしながら近付いてくる魔鎧獣を睨みながらそんなことを考えるユーゴの背後から、フィーが大声で叫ぶ。


「兄さん! そいつの赤い実は攻撃しちゃだめだ! それに衝撃を与えたら、爆発しちゃう!!」


「なんだって!? どういう意味だ、フィー!?」


 自分の戦い……というより、魔鎧獣を観察していたフィーの言葉に驚きながら、詳しい説明を求めるユーゴ。

 ライハに庇われながら、フィーは自分が持つ知識を兄へと伝えていく。


「前に本で読んだんだ! エクスプローズっていう植物の魔物は、自分を守るための武器として体内に溜めた魔力を変換して爆弾を作るって! そいつの顔に埋まってる実は、図鑑の写真に載ってたのとそっくりなんだよ!」


「マジかよ……!? ってことは、あいつは顔面に爆弾を張り付けてるってことか……?」


 思っていた以上に厄介な能力を持つ魔鎧獣の恐ろしさに、ブラスタの中で冷や汗を流すユーゴ。

 エクスプローズの実がどれだけの爆発力を持っているのかはわからないが、もしも自分があれを殴っていたら相当な被害が出ていたに違いない。


 絶対に顔面は殴るわけにはいかないと、相手の危険性を改めて認識したユーゴへと、再びフィーが言う。


「問題は、エクスプローズと融合してるもう一体の魔物だけど……ごめん、僕には全然わからないや……」


「いや、十分だ! あの実に手を出しちゃいけないってことがわかって助かったぜ!」


 フィーの言う通り、あの魔鎧獣がエクスプローズとどの魔物との融合で誕生したものなのかはユーゴにもわからない。

 しかし、相手が持つ能力が実による自爆と、打撃の衝撃を吸収する妙に柔らかいボディであることがわかれば、それだけで十分だ。


「フィー、ちょっと目を閉じてろ。戦法を使うからな」


「え? 新戦法って、どんな……?」


「いいから良い子は目を閉じてな!! 一回見たら一生忘れられなくなっちまうからよ!!」


 そう弟へと注意を促したユーゴが、改めて魔鎧獣へと向き直る。

 相手との距離を測り、呼吸を整え、タイミングを伺い続けた彼は、魔鎧獣が再生した鞭で攻撃を仕掛けてきたその一瞬の間に懐まで飛び込むと、頭部の花弁を掴んだ。


「胴体への衝撃は吸収される上に顔面は殴れねえ。なら……やらあ!!」


「ギジュグジュッッ!?」


 ブラスタの瞳部分が獰猛に輝く様を目にしたのか、魔鎧獣は何かがマズいと感じ取ったようだ。

 しかし、彼が反撃に転ずるよりも早く、相手の頭部を掴んだままのユーゴが壁を蹴って勢いをつけながら、開いている右腕をその首筋へと向ける。


「いくぜ、カッターアーム!!」


「ギュエエエエエエッ!?」


 ブラスタの四肢変形機能を発動し、手首の外側から伸びる刃を生成するユーゴ。

 その刃で魔鎧獣の首を半分ほど切断してみせた彼は、頭部を掴んでいる左腕に力を込めて思いきり上へと引っ張っていく。


「オオオオオオオオオオ……ッッ!!」


「ジュッ、グジュゥ、ジュッ、ガッッ……!?」


 血の代わりに、緑色の体液が魔鎧獣の首から噴き出す。

 千切れかかった首にトドメを刺すように全身全霊の力を込めて頭部を引っ張ったユーゴは、先の宣言通りに魔鎧獣の頭部を引き抜いてみせる。


 相手が人間だったならば、きっと頭部だけでなく脊髄までもが引き抜かれているだろうと……そう確信させる恐ろしい技を披露したユーゴは、残された魔鎧獣の胴体が力なくその場に崩れ落ちる様を見てから口を開く。


「どうだ? 俺の新戦法もとい、殺法は!? まあ、人様に嬉々として見せられるもんじゃねえんだけどさ……」


 あまりにも残虐というか、異色が過ぎるトドメの攻撃を繰り出したユーゴがぼそぼそと何かを呟く。

 戦いの一部始終を目撃してしまった人々が若干の恐怖を抱く中、魔鎧獣の頭部を掴むユーゴへとライハが声をかけた。


「ユーゴさん、助かりました。ですが、病院を覆う植物は消えてないようですね……」


「そうみたいっすね。どうやらこいつが元凶ってわけじゃあなさそうだ」


 予想はしていたが、この魔鎧獣は事態を引き起こした元凶ではない。

 となるとやはり屋上に向かうべきなのではないのかと考えたユーゴであったが、まずは病院の人たちを安全な場所に避難させることが優先だと判断し、ライハに言う。


「魔鎧獣がまた出てこないとも限りません。まずは安全な場所を確保して、患者さんたちを避難させましょう」


「そうですね……私も、協力させていただきます」


 相手が爆弾の生成という危険な特性を持っている以上、迂闊に行動すべきではない。

 脱出するにせよ、屋上の花を確認するにせよ、慎重な行動が求められる。そのためにもまずは、落ち着いた環境が必要だ。


 自分たちが中ですべきことをしている間に、外では仲間たちや警備隊がすべきことをしてくれる。

 彼らを信じようと考えながら、ユーゴは自分が今、すべきことに注力していくのであった。


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